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第745話 キリとした約束(ゲンタ視点)


 ゲンタ視点です。


 殺伐とする前に少しラブコメ成分を…。


 僕は町の南門を抜け外に出た。


 ミーンの町の西から南にかけての外周に沿って流れる川伝いに西に向かう。そばにいるのはキリとグラ、そしてクリスタの三人の精霊たち。


「あのあたりでガントンさんたちと鉄の原料を集めたんだよ」


『あのあたり…って、川の中じゃない。鉱山でもないのに鉄鉱石が採れる訳ないじゃない』


 僕が指差して説明するとキリが何言ってるのといった感じで鼻を鳴らした。


「集めたのは鉱石じゃなくて川底の砂だよ」


『はあ?砂なんて集めてどーするのよ?』


 キリの疑問の声に僕は説明する事にした。大きな岩が砕ければ石に、石が割れていけば小石に…。さらに細かくなっていけば砂になっていく事を…。


「小石や砂は川の流れに乗って互いに削れ合ってどんどん細かくなっていく。それでね、その砂には鉄が含まれているんだ」


『ふーん。だけどそれならそこらの石でも良い訳でしょ?なんでわざわざ川の中に入ってまで…』


「それはね普通の石とかに含まれる鉄はものすごく少ないんだ。だけど川の中だったら常に水の流れがあるでしょ、軽い物ほど下流に流される。一方で鉄は重いから川底に溜まる…、だから川底には鉄を多く含んだ砂が多くなるんだよ」


『あっ…』


「だからあまり手間をかけなくてもまとまった量の鉄を作りやすいんだよ」


『へえ…、初めて知ったわ。ま、まあ、アンタにしちゃ少しは考えてるじゃない。ちょ、ちょっとだけ見直してあげるわ』


 そんな話をしながら町から少し離れた所に向かう。あのあたりの茂みからワイルドボアが飛び出してきた、それを護衛についていたナジナさんとウォズマさんが難なく倒してくれた事。他にも川の中には大きな貝もいてそれを茹でてガントンさんたちが酒のツマミにした事などだ。

 

 そうこうして歩いているうちに甘いものでも食べようという事になり、座るのに丁度良さそうな大きさの石とそのすぐ隣に腰掛ける石より一回り大きい天面が平たい石を見つけた。椅子とテーブルとして扱うにはおあつらえ向きのものだ。丁度良いとばかりに僕たちはそこに向かう。


 少し道を外れ見晴らしの良いその場所は休憩するにはぴったりねか場所だった。小さな方の石に腰掛けた僕はリュックから各種クッキーを取り出しテーブル代わりに大きな石の上に並べた。さっそくキリたちがクッキーに飛びつき食べ始めた。さらにペットボトル入りのジュースを小さなカップに入れた、蜂蜜の甘さを柑橘類の酸味がしっかりと引き締める人気の清涼飲料水だ。


『ふ、ふんっ!お、おいしいじゃない。ハチミツ入りの飲み物なんてアンタなかなかやるじゃないのよ』


 鼻を鳴らしながらもキリが嬉しそうに言った。


「ふふ、褒めてくれてありがとう。エルフ族の皆さんにもハチミツは大好評だからね。キリたちも気に入るかなって思って」


『ま、まあ、悪くないわね』


「お留守番をしているサクヤたちの所にも同じものがあるからね。今頃みんなでおやつを食べてるかな」


 僕はマオンさん宅に残してきた精霊たちの事を考えた。サクヤとホムラのわんぱくコンビは今頃顔中をベタベタにしてジュースを飲んでいるだろうか、想像するとなんとも微笑ましい光景が頭に浮かんでくる。


 そしてこちらでめたキリたち三人が美味しそうにクッキーを食べているのを見るとこういう何気ない穏やかな日常を過ごせる事が幸せなんだろうと感じる。これからも精霊たちや結婚するシルフィさんたち、ナジナさんたちや町の皆さんと過ごしていけたら良いと思う。


『ね、ねえ…』


「ん?」


 呼ばれた声に反応して目を向けるとそこにはキリがいた。なにやらモジモジしながら話しかけてくる。


『そ、そのクッキー…』


 キリが指差したのは素朴な形のクッキーだった。田舎の母という商品名のしっとりとした感じのクッキー、日本でも根強い人気を誇る。ちなみに僕も大好きだ。


「ん?このクッキー?食べたいの?」


 僕が尋ねるとキリはそうよと言いながらこちらにビシッと人差し指を突きつけてきた。


『た、食べたいんだけどコレを持つには重すぎるのよ!だ、だからアンタ、持ってなさいよ』


「それならキリが手に持てるくらいの大きさに割ってあげようか?」


『そ、それじゃ意味ないじゃない!ア、アンタが持つから良いのよっ!!」


「えっ!?ど、どういう事?僕が持ってるのを食べたいって事?」


『ち、違うわよ!べ、別にアンタが持ってるのが良いってワケじゃないんだからねっ!!こ、こういうのは自分じゃ持てないくらいの大きさのを直接食べてみたいってだけなんだから!』


 プンプンと怒りながらキリはそれでもクッキーを指差す。


「わ、分かったよ。ほら、どうぞ」


『ふ、ふんっ!わ、分かれば良いのよ』


 そう言ってキリはクッキーを食べ始める。一方でグラやクリスタは割ったものを食べてくれていた。やれやれ、キリもこれくらい素直でいてくれたらなあ…。僕がそう思っているとキリがこちらをずっと見ていた。


「えっ?な、なに?」


 僕がそう尋ねるとキリは急にハッとした表情になって口を開いた。


『な、なんでもないわよ!そ、それよりっ!』


 僕から少し距離を取るようにして後ずさるとまたもや僕に向かって人差し指をビシッと突きつけてくる。


『ア、アタシ、もうお腹いっぱいになっちゃったからっ!!だ、だから残ったそれ、アンタが食べなさいよ!』


「え!?コレを?」


 僕が手にしているのはキリがある程度の量を食べた残りの部分。


『そうよ、なんか文句あるの?』


「いや、なんか…ねえ?」


 戸惑っているとキリは素早い動きで僕の指先から食べかけのクッキーを奪い取った。


『い、良いから食べなさいよっ!!す、捨てる訳にもいかないじゃない!わ、分かったら食べるの!ア、アタシが持っててあげるから!アンタ、早くしなさいよねっ!お、重いんだから…』


 余りそうならグラやクリスタが食べても良いんじゃないかと思うんだけど今のキリからは妙な迫力を感じる。しょうがないなあと僕はキリが両手で支えているクッキーを食べる事にした。


 もぐもぐ…。


 しっとりとして厚みのあるクッキー生地が口の中でしっかりとした存在感を主張している。さらにところどころに入っているチョコチップがこれまた良い仕事をしていて香ばしい香りが鼻に抜けていく。もちろん独特な甘味やわずかに残るほろ苦さも…、さすがに長年愛されているクッキーだ。


 ごっくん…。


 咀嚼が終わり僕は口の中のクッキーを飲み下した。


『ふ…、ふふふっ…』


 気付くとキリがこちらを見ながら微笑んでいる。


『アンタの食べ物は美味しいんだけど、きっと人族だからね。アタシには大きいのよ。だけどこれからは安心ね』


「安心?どういう事?」


『簡単よ、これからはアタシが食べ切れなかった分をアンタが食べれば良いのよ。い、言っておくけどね、これはもう決めた事だからっ!』


 そう言うとキリはお得意の片手は腰に、そしてもう片方の手は人差し指を立ててビシッと突きつける。もはや定番のお得意ポーズだ。


「え、ええーっ!?そ、それは難しいんじゃない?キリたち精霊は果物とか甘いものが好きでしょ?だけど僕たちはカレーとかを食べたりする事もあるから…。さすがに食べ合わせが悪い時もあるよ」


 僕がそう言うとキリはたちまち不満顔になる。


『な、なによ!?なによ、なによ、なによ!?アタシがこれだけ言ってあげてるのに!じゃ、じゃあ、朝とか夕方の食事時じゃない時に…、そうだ!アンタ、今日みたいにアタシの事を町の外とかに連れて行きなさいよ!』


「えっ、僕がキリを?」


『そう!それで甘いものを一緒に食べるのっ!た、たまにはそれくらいしなさいよ!アタシは普段、アンタや家を守ってるんだからぁーー!!』


 ぽかぽかっ!!


 再び出ましたキリ乱舞、僕の頭に飛びつきながら小さな手で怒涛の連打をしてくる。


「わ、分かったよ。時間を作って外出する事にしようか」


『っ!?や、約束よ!ぜ、絶対なんだからねっ!!』


「う、うん。ま、まあ、サクヤたちもいるからみんなと交代でね」


『ま、まあ、しょうがないわね。それで良いわ』


 こうして僕はキリや精霊たちと時々町の外に遊びに行く約束をした。するとキリはフフンと笑う、なにやら上機嫌だ。グラやクリスタもクッキーを食べ終わったし話も決まったのでそろそろ帰ろうかという事になった、その時の事である。


『…ッ!!!』


 それまで上機嫌だったキリが急に鋭い目つきをしたかと思うと急にあたりに吹き付ける突風が起こった。


 どすっ!!


 なにやら音がしたかと数メートル離れた地面に一本の矢が突き刺さった。


「な、何っ?」


『撃たれたのよ』


 状況が分からず慌てる僕、そんな僕にキリは落ち着いた様子で再び口を開いた。


『アンタ、狙われてるわね』











 精霊にとってひとつのものを分け合って食べる事は親愛の証です。普通は精霊同士で行われる事ですがキリは無意識にこれを行っています。


 キリはゲンタと話す事が出来るので、他の精霊たちより細かい意思疎通をする事が可能です。しかし、彼女自身が恋というものを知らないのでゲンタに対する気持ちの正体に気付かないままでいます。


 あれ…?コレ、新ヒロインフラグ…?

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