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第744話 的の処理(第三者視点)


 第三者視点です。


 今章では第三者視点とゲンタ視点を交互に書いていく予定です。


「コーイン・ペドフィリー前侯爵様…、領国に戻る道中に急な病でお亡くなりあそばした」


 馭者は淡々とそう言った。


 ここはミーンの町から馬車で十数分ほど西に向かったあたり、走ってきた距離はおよそ2マイル程であろうか。周囲に人影はない、それもその筈だ。最初から殺すつもりだったのだから…。目撃されやすいような場所を選ぶ訳がない。


「……………」


 草むらに倒れた物言わぬ肉塊へと成り果てたペドフィリー前侯爵、そこから少し離れた場所でそれを表情ひとつ変えずに見下ろしているスナイ・ペドフィリーがいた。そしてもう一度、彼女は周囲を見回した。道は丁度カーブの途中である、見晴らしは良くない。その道端の草むらには仕留めたばかりの醜い老人がいた、その先には幼い女児が入っていったと嘘をついた雑木林が見えている。再び気配を探ってみるがやはり誰もいない。


 かしゃん…。


 スナイは手にしている弓を折り畳んだ。たちまち広げた手のひらの親指の先から小指の先くりまでの長さをした木製のへらのようになる。それを着ている服の袖にしまう、それで先程行われたばかりの殺人劇の凶器が誰の目にも触れないところに行った。しかしまた使うような事があればスナイが少し腕を触れば再び彼女の手に姿を表すだろう。


 その間に馭者は手に麻の袋を持っていた、それは馭者台に備えつけられている道具入れの中から取り出したものだ。その麻袋の口を縛っている紐を解きそれを無造作に放り投げる、それは仰向けに倒れたペドフィリー前侯爵の胸元あたりに落ちた。すぐにどこからか蠅がやってきて麻袋の中に入り込んでいく、あたりには嫌な臭いがし始めた。


 麻袋の口から腐り始めた肉が顔を覗かせる、それが臭いを発しているのだ。そしてまた一匹、二匹と蠅が麻袋の中に入り込んでいく。さらには時折、カサカサと草が音を立てる。おそらく野ネズミかイタチのような小動物が近づいてきているのだろう。


 麻袋に入っている腐った肉片はあまり大きなものではない、野ネズミかイタチでも二匹か三匹もいればすぐに片付いてしまうだろう。そうしたらすぐ近くにはさらに新鮮な肉が落ちている。野ネズミたちは今度はそれに群がるだろう、食べ始めればたちまち流れ出る血が濃厚な臭いを放ち始める。そうしたらさらに大型の獣…、用心深く夜行性の狼やあるいはなんらかのモンスターが森の奥からやってくる筈だ。そうなれば最早誰のものかは分からない骨が残るだけ、それとて食いちぎられてあちこちに散乱する。素性が探られる事もないだろう。


「分かっているとは思うが…」


 馭者の男が口を開いた。前侯爵にはもう用は無いとばかりに背を向けて馭者台に乗る。


まとはもうひとつ」


 スナイも応じながら馬車の中に乗り込んだ。馬に鞭が打たれ再び進み始める。馬車の中ではスナイが着ている質素なドレスを脱ぎ、冒険者か、あるいは狩人が身につけそうな動きやすい服に着替える。草木染めの目立たない服、たちまち貴族家に属する者から野山を歩いていても不審がられない姿になる。馬車の外から声が聞こえてきた。


「あの的のせいで遅い出立となったがひとつだけ役に立った。もうひとつの的はそろそろ町の外に出る、そんな話を仕入れる時間が出来たのだからな」


「ええ」


 朝早く出発したいのに前侯爵のせいで昼前になって町を出る羽目になってしまったスナイたち、しかしその事がもうひとつのこの町に来た目的の足掛かりになった。それは侯爵家の面子メンツを潰した若い商人の男…。


「行くぞ、失敗は許されん」


 馬車は街道から脇道に入りいずこかへ走り去っていった。

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