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第737話 黒き大魔王(8) 大魔王、陥落!


「じゃあッ…」


「続きがあります」


 僕が伝えた結婚の際のブーケトス、それが意味するところはフィロスさんは知っている。花嫁が投げたブーケ、それは幸せのお裾分けでありバトンリレーである。ブーケはカグヤが手にしたけれど僕と結婚した訳ではない、その事からフィロスさんは僕の結婚式を行う事自体が自分が結婚する未来に直結したいと思ったのだろう。だから僕は言葉を選びながら口を開く、ミスは許されない。


「結婚式には近くの皆さんや今までお世話になった人をお招きする予定です」


「それは分かるけど…」


「これは僕の親戚の話なんですが…」


 僕は高校時代の話なのだが歳上の従兄弟が結婚をした。その式に参列した別の従兄弟がその後の披露宴で知り合った新婦側の参列者の女性と意気投合。その後、すぐに交際が始まり一年くらいで結婚に至った。


「す、すぐに…交際…だと…」


 ゴクリ…、フィロスさんが生唾を飲みこむ。


「ええ、その日のうちに連絡先を交換して…。隣町に住んでいた事からすぐに会うようになって…。結婚した二人はそれまで特に結婚願望はなかったんですけど…、式を挙げた二人を見て結婚も良いもんだなあと思ったそうなんですよ」


「ほ、ほう…?」


 ぐぐっ!さらに前のめりになるフィロスさん。どうやら作戦は順調に推移しているようだ。


「それも結婚式の後で行う披露宴…」


「ひろうえん?」


「分かりやすく言えば宴会ですね。結婚する二人を祝福して飲んだり食べたりして色々な事を話したり…。まあ、結婚する二人と縁続きになる訳ですから顔合わせみたいな意味もありますね」


「ふうん、まあ…顔合わせは大事よね。長い親戚付き合いになる訳だし…。何百年かの…」


 うーん、さすがエルフ族…。時間の観念が違う…。しかし先程の二人の時よりフィロスさんはトーンダウンしている。まずい、引き戻さないとッ!!


「普段だったら出会う機会も無かった二人…。それがこの披露宴でたまたま知り合ったそうなんです」


経緯いきさつは分かったわ。だ、だけどなんでそれが高い可能性のあるチャンスになの?」


 さあ、ここからだ。この問いが来るのは想定出来た。だからこの問いに上手く答えてフィロスさんに『ゲンタさんっ、結婚…今すぐしてっ!!早く早くっ!!』と言わせるようにするんだ。そうすればフィロスさんがこの場所で立ち塞がる理由はなくなる。


「今回、披露宴に招くのは僕たちと近い年代に近い人も多いです。そんなみなさんが結婚するところを見たら良いなあって感じる人も多いんじゃないんですかね。しかも、人族だけじゃない。取引のお付き合いから他の地方のエルフ族の人もたくさん来ますよ」


「そ、そうなの?」


「そうです!そんな中、フィロスさんはシルフィさんと姉妹同然に育ったんだから披露宴でどの席に座るか優先的に選んで良いですよ。それなら…」


「そ、それなら男の人をよく見渡せるところとか…」


「もちろん良いですよ」


「ッ!!?ホッ、ホントッ!?わ!私、結婚できるの!?」


「チャンスあり、です!!ハイ」


「ああッ!!」


 フィロスさんが声を上げた。先程まで切羽詰まったような表情はなくなり穏やかな顔になるとまばゆい光があたりを包む。


「ね、姉様の髪が黒から金色に戻っていく…」


 フィロスさんの髪から黒い粒子のようなものが蛍のように宙に舞っていき陽光を受けて煌めく金髪に変わる。


「み、見ろよ…。フィロスの姐さんの顔が…」


「う、うん…。希望に満ち溢れて…」


 表情は明るくなり、なんなら背後に満開の薔薇が描かれそうな幸せそうな表情をしている。


「うん…、良かった。フィロスさんの本来は明るい前向きなところがあらわに…」


 立ち直ったフィロスさんの表情を見て僕もなんだか嬉しくなる。そんなフィロスさんはどんどん前向きになり色々と今後の展望を口にし始めた。


「わ、私…掴む…。幸せのチャンス…。結婚を祝う場でふとした出会いがあって…。そ、そしたらいきなり恋に落ちちゃったりして…。それからぁ…ぐへへ…、お…男の人を私の住んでる塔に連れ込んで…ぐふふ…」


「欲望もあらわに…」


「姉様、ヨダレが垂れてますよ」


「あっ!いけない、私ったら!!と、とにかくっ!!さあさあっ、ゲンタさん!今すぐバアーンと結婚の届け出をしてきちゃってェェッ!」


 すぱーんっ!!


 フィロスさんが僕の背中を叩いた。…元々はフィロスさんが立ち塞がったんだよなぁ…、なんか納得いかないけどこれで世界は守られた…ような気がする。


 そんな訳で僕たちはフィロスさんにグイグイ背中を押されながら政庁に入り、住民としての登録と結婚の届け出をしたのだった。

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