第735話 黒き大魔王(6) 光をもたらすアイテム
「闇を祓うには光をもたらすあのアイテム!残念ながら同じ物はない!だけど…」
深い深い闇のような漆黒のウェディングドレスとベールに身を包んだフィロスさん、彼女は今まさに魔界だか地獄だかの炎すら凍りつかせるという絶対零度の魔法を放とうとしている。それを許せばこの辺りは氷の世界になってしまうだろう。
その魔法をやらせない為にはフィロスさんの心の闇を祓わねばならない。そして前段階として彼女を守る鉄壁の防御、元々すごい性能のウェディングドレスをさらに強化たらしめる闇の力を奪い去る必要がある。だけどこの場にいる誰よりも強力な魔力を持つフィロスさんには魔法による除去は防がれてしまう。だったら魔法ではない…、アイテムの力でやってやるんだ。
「みなさん、手鏡を出して下さい!」
そう叫びながら僕は自分の服のポケットをまさぐる。取り出したのはガントンさんに作ってもらったシルフィさんたちとお揃いの手鏡だ。
「て、手鏡ィィ…。婚約の証ィィ…」
狂気に染まっていたフィロスさんが反応を示した。思った通りだ、フィロスさんの心は闇堕ちしてしまっているけれど結婚という言葉に心は惹かれている。絶望はしているけど結婚には…、心はまだどこかで光を求めている!
「そうです、フィロスさん!手鏡です。フィロスさん、この世界を凍りつかせるなんてバカな真似はやめるんです!」
「ううう、やだあァァ!手鏡もらえないこんな世の中、無くなっちゃえば良いんだアァァッ!」
「でも、この世の中が無くなっちゃったら未来永劫、手鏡もらえるチャンスは無くなっちゃいますよ!」
「ッ!!?」
ぴた…。
魔力を集め練り上げていたフィロスさんの動きが止まる。
「い、今だ!!皆さん、手鏡の表面を…!フィロスさんに向けて下さい!」
僕がフィロスさんに話しかけている間にシルフィさんたちは結婚の申し込みの証、手鏡を取り出していた。くもりの無いそのガラスの表面は太陽の光を反射してフィロスさんに直撃する。
きらっ(✖️4)!!
「ぐわああああ!!目がぁ、目がぁァァ…!!」
たしかフィロスさんに初めて会った日にも同じような事があったっけ…。両目を押さえて苦悶の声を上げるフィロスさん、そして…。
「ああっ、姉様のドレスが…」
真っ黒なウェディングドレス、それが手鏡の反射した光を受けて様々な色に変わりながら最終的には蒸発するように脱色されていく。そして最後には見覚えのある予定は無いけどいつでも嫁ぐ事ができるようにとフィロスさんが準備していた純白の花嫁衣装になっていた。
「わ、私の闇の魔力が…」
真っ白になったウェディングドレスに気づいたフィロスさんが戸惑いの声を上げる。
「これなら…!ドレスから姉様の強大な闇の魔力が取り除かれている…。今、あのドレスはただ守備力の高い防具に過ぎない。強力な魔法防御の効果を持つ闇の加護は失われた…」
手鏡をかざしながらシルフィさんが呟く。
「ふ、ふふふっ…」
一方のフィロスさんからは小さな笑みを浮かべた。
「私の闇属性の付与を取り除く術を知っていたとは…、いや…」
きりっ!!
フィロスさんの表情が引き締められた、そこには凄腕の魔術師としての顔があった。
「手鏡を目にして私も少し取り乱していたみたいね。だけど、もう…」
フィロスさんが被っていた花嫁のベールを取った。依然その髪の色は黒いままだ。怒りか、悲しみか、弾けた感情により目覚めた伝説の闇エルフとしての姿はまだそこにある。
「心のスキをつかれる事はない。今まで…、今までずっとダメだった…。どうせこれからも…ゆえにッ…!」
ブワアアァァッ!!
フィロスさんの体を包む魔力が再び膨れ上がる。
「この『魔法姫』フィロス幸せ探して三百じゅうなn…、十七年ッ!!」
あっ、今…言い直したぞ…。
「もう淡い期待なんぞに踊らされる事はない!これより後、このフィロスに精神的動揺は…」
フィロスさんが頭上に手を振り上げた。
「一切無いと思っていただこう!ぬあああァァッ…、来たれ…魔界の獄炎すら凍りつかせる絶対の冷気よ!この世界を…」
わわわっ!!
まずい!フィロスさんが覚悟を決めた目で魔法を放とうとする。と、止めないと…。な、なんか無いか、良いアイディア!なんか無いか!
そ、そうだ!その時、ひとつの記憶げ浮かんだ。それは親戚の結婚式での事…。
「も、もったいない!フィロスさん、チャンスあるのに…」
僕は呟くように言った。




