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第713話 家を建てんとすればまず川を上れ


 夜が明け始めた早朝、それは町が動き出す時だ。往来では仕事に向かう人々が現れ始め、商店もまだ店は開けていないが建物の中では人が動く気配がする。


 ミーンから見て西方の山々の中に水源を発し、町の南側を沿うように流れるのは住民の喉を潤すと同時に町を守る天然の堀でもあるノーマウンテン川だ。町の南端に沿うようにそのまま東に向かい、町の領域を離れる頃に進路をやや南に曲げ流れていく。行った事はないがその先には当然海がある、王都もそちらの方にあるという。


 そのノーマウンテン川とは別に町の東には北から南に向け流れる名も無き川があった。今の規模となった町の人々の喉を潤すにはあまりにも小さな川だ、しかしながら小さいとはいえ水が流れるからには元々一番低い場所である。そこでその元々あった小さな川の周囲を掘り舟を行き来できる水路とした。そうする事で小さいが荷揚げ場を作る事が出来た。南からもたらされる物質が運び込まれる玄関口である。


…………….。


………。


…。


 ミーンの町の東、荷揚げ場に僕たちは集まっていた、目的は新築する家の材料を確保する為である。これから舟に乗って一度南に向かいノーマウンテン川に入り進路を西に変えて川を上っていく。そしてラ・フォンティーヌ様から伐採の許可を得た場所で適した木材を入手するつもりだ。


「よし、みんな準備は出来ちゅうががか?そろそろ出発するぜよ」


 ミーンに滞在中の船頭、リョマウさんが川舟の舳先へさきに立って声を上げた。


「おう、大丈夫じゃあ!!仕事道具の積み忘れもない!出して大丈夫じゃ!」


「はっはっは。もし忘れモンサァあってもちょっとしたモンならその場で作ってしまえるべえ!」


 ガントンさん、ゴントンさんの二人の棟梁がリョマウさんの声に応じた。その様子を確認したリョマウさんは今度はこちらに視線を向けた。


「後ろも大丈夫かのう?」


「ええ、準備バッチリ」


 僕も胸を張って応じる。今回の件で僕は一泊二日で建築資材の調達に同行する事になっていた。もっとも僕は木を切ったりできないからベースとなる場所でのお留守番兼料理人といったところ。ちなみに異世界で野外の夜明かしをするのは初めてだ。移動の途中など屋外で夜を明かすというのは冒険者の人だったらよくある事らしいがこちらはそんな経験はほとんどない。これもひとつの経験として学んでみる事にしよう。


「だ、だ、大丈夫じゃあ!坊やには俺らがついちょる!し、しっかり護衛する!」


 近くで声を上げたのはリョマウさんと同郷の船乗りであるゾウイさん。そしてゾウイさん以外にもシンタウロさんたちも一緒だ。みんなやる気に満ちた表情、特にゾウイさんは妙に張り切っている。


 それというのも彼は新しく手に入れた海兵刀カットラスを腰に下げている。なにやら早く実戦で使ってみたいらしいが僕としてはそんな機会がやって来ない事を願っている。

 

「よし、それなら行こうかいのう」


 リョマウさんが声をかける舟は二艘。一艘はガントンさんたちと伐採などをする為の道具を、もう一艘は僕と食料や鍋などを乗せ水路を進み始めた。ノーマウンテン川に入ると今度は西に進路をとる、ミーンの町の南側に沿うように川を上っていく。町の西側の方にまで来る、川は蛇行し北に向いた。町の西側をなぞるように川は上流へと続いていく。


「ああ、このあたりは…」


 かつてこのあたりにあったという古代の王国カイサンリ、その暴君と呼ばれアンデッドとして復活したゲロートポイオスとやりあったのはここだったな。そう言えば助けてもらった太陽神とも光の大精霊とも言われるソル様は元気だろうか。エルフの里に姿を見せてくれたソル様は精霊界に帰る時に奥様である闇の大精霊のルネ様と帰っていった。その時、ソル様は最終的にルネ様の影の中から伸びてくる黒い髪のようなものに全身をグルグル巻きにされて帰っていった。


「夫婦…、水入らず…。ふふっ…、じゃあ…」


 そう言って影の中に沈んでいく御夫妻、まるで底なし沼に沈んでいくようだった。その時のソル様の全てを諦めたかのような表情は今でも忘れられない。結婚するってそういう事なのだろうか…いやいやきっと違うよね、そう自分に言い聞かせて僕は舟の行き先を眺める。行く手には木々の数が増えてきていた。





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