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第695話 異世界ビニールハウスは精霊の楽園


 隊員たちの口から次々と質問の声が上がった。


「ま、まさか!?これだけ強い風が吹き付けているであります!い、いや、あそこだけ風に吹かれている様子がないであります!」


「ゲンタ様、なにゆえあの透明な物に風が吹きつけないのでありますか!?」


 ここから北の扇状に広がるアルプー連峰から吹き下ろしてくる冷たい風に吹きさらされているケシタ、今も僕たちには冷たい風が吹きつける。しかしながらビニールハウスはほとんど風に揺られちゃいない、少なくとも吹きすさぶ風にさらされているようには見えない。


「あのあたりには風の精霊が加護を与えてくれています、だから吹き荒らされる事はありません」


「は、はあ…。が…し、しかし…、しかしであります!」


「なんでしょう?ディスクシステ隊員」


 僕は元騎士爵のディスクシステ隊員に声をかけた。角張った感じの赤ら顔をした彼は子爵領守備隊ミーンズ・ガードの面々の中でファミコ隊員やオーズ隊員に次いで古株である彼はその物言いが一番軍人っぽい。その彼が敬礼をしながら質問の声を上げる、その様子を見ながら今は隊員とか呼んでいるけど階級みたいな制度を設定して呼称とするのも良いかも知れないかな…。


「はっ!自分は騎士爵として村落を預かっていた事もありましたわ、それゆえ農地に関して少しは見聞きしておりました。冷たい風、堅い土質…草もロクに生えぬ真冬のようなこの土地でなにゆえあの木が根付くのでありますか?ゲンタ様は先程、春のように暖かとおっしゃっていましたが果たしてそれが可能なのでありますか?」


「うーん、これは直接見て触れた方が良いですかね。とりあえずビニールハウスに向かいましょう」


……………。


………。


…。


「おお、なにやら暖かい!!」


「制服を着ていると少し暑いくらいだ!」


 ビニールハウスに一人ずつ入って中の様子を確認する隊員たち、その暖かさに驚いている。


「この透明な薄い膜のような物が外の冷たい空気を遮断し、中の暖かな空気を逃がしません」


「それは真冬に家屋かおくの中にいるようなものでありましょうか?」


「うーん、そんな感じですかね」


「で、では新たな疑問が浮かぶであります。いかに家屋の中にいようとも真冬ならば寒さが中に忍んでくるであります。そ、

それなのに…」


「なるほど、その疑念はごもっとも。外よりはマシだけどこんなに暖かいはずが…て」


「はっ!暖炉に火でもべねばこうは暖かくならないであります」


「火をべる…ですか、確かに…。実はこの中では火を焚べているんですよ」


「は、ははっ…ご冗談を…。ゲンタ様もお人が悪い、まきのひとつも無くどうやって火を…」


 軽く汗を拭うような仕草をしながらディスクシステ隊員が応じた、そこで僕はタネ明かしをする事にする。


「いえいえ、実はこんな風に…。火精霊イグニスタスさん、火精霊イグニスタスさん、僕らに姿を見せて下さい」


 ぽんっ!


 僕の声に応じて火精霊がひとり、姿を現した。彼女は同じく精霊のホムラから紹介してもらったこのケシタにいた火精霊である。彼女に時折火をたいてもらう事によりビニールハウス内を温めてもらっていたのだ。


「こ、これが火精霊イグニスタス…」


「初めて見た…」


 隊員たちが目を見開いている。


「彼女だけではありません。水精霊アクエリアル風精霊ゼピュロス土精霊アーシー、そして光精霊ウィル・オー・ウィスプ闇精霊シャルディエ…みんなが力を貸してくれています。彼女たちが力を貸してくれる事でこの春のような暖かさが実現しているんです」


 僕の言葉に応じてか、次々と精霊たちが姿を見せる。


「彼女たちのおかげで枯れないように水を与えてくれたり、根付きやすいように土を柔らかくしたり、花が咲いたら柔らかな風を吹かせてくれます。また、曇りの日でも光に溢れ木をしっかり育てますし休ませるべき時は木をしっかり闇に閉ざします。いわばここは木の生育に理想的な環境になっています」


 僕はこのビニールハウス内が植物の生育にいかに理想的なのかを論じた。同時に植えたブルーベリーが火山灰土の痩せた土でも育つ木であることも伝えた。むしろ下手に肥料をやれば葉がシワシワになって枯れてしまう事もあると…、いわばこれは栽培上の注意事項といったところか。


「な、なるほど…。そんな特徴のある木を育てて実を採取、保存の利くジャムにして売るという事でありますな」


「そうです、そうです。ただ、そんな理想的な環境なら痩せた土地でも生える雑草がはびこるかも知れません。皆さんにはその除去と実を付けたら採取をお願いします。あ、それと精霊の子たちは果物や甘い物が好きなので付けた実とかジャムを分けてあげてくださいね。いわばこれは彼女たちへの対価です」


「そ、そういう事でありましたら…。それにしてもジャムならば数は少なくともとても高価で取引されるもの…、隊の資金に足り得そうであります」


「いや、これは皆さんへの給金の意味もあるんで…」


 僕があくまでも隊員たちの生活資金にと思っていたのだがその声は隊員たちの歓声にかき消えてしまった。


「皆、このゲンタ様のご厚情にこたえようではないか!」


「おお!ゲンタ様に…、そしてケシタの地に栄光あれーッ!!」


「あ、あの、皆さんにはまず第二、第三のビニールハウスをですねえ…」


 盛り上がる隊員たちに僕の声はしばらく聞こえていなかったのだった。


 次回、みなさんが大好きなあの人が登場。


 『ブランドイメージ』


 お楽しみに

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