第693話 子爵領守備隊(ミーンズ・ガード)正式制服
僕の代わりにケシタに駐屯する事で安住の地ともいえる場所を得た子爵領守備隊の面々。常に北にそびえるアルプー連峰から時に降り積もった雪さえ舞い上げ吹き下ろしてくる真冬のような風とロクに草も生えない火山灰混じりの堅い地面…。
生きていくだけで大変なこのケシタの地、だけどこの地に住んでも良いと言われた彼らは喜びに沸いた。それは身の置き所がないう彼らに安住の地が生まれた事、そして僕の代わりにこの地を守る事が出来る事、それが何より嬉しい事であるらしい。
だが、彼らがミトミツク様の命を狙った事は紛れもない事実。ミトミツク様の厚情により罪には問われる事はないが、それでもかつて公という王位にある人と名目上は同格とされる人に刃を向けた事は変わりようがない。それゆえ彼らはもはや二度とおおっぴらには人前には出られないかも知れない。
そんな彼らだから官職としての肩書きを与える事は出来ない。それゆえ彼らにはあくまでも対外的には僕の農奴(主に隷属し保有される農民)として、そしていざという時には精強なる私兵としての裏の顔を持つ事になった。それもケシタの地に穴を掘り地面の下で寝泊まりする、文字通り隠れ住むようにして…。
「コホンッ!」
僕は小さく咳払いをした、騒ついていた一同がピタッと静かになり視線が僕へと集まった。
「こ、これで皆さんには住む土地…、そしてこの地を守るという使命が与えられました。ここにやってきた十六名の皆さんが誰一人として欠ける事なく生き延び、たくましい精鋭となられた事…まことに敬服いたします。これよりはおひとりおひとりが自信と誇りをお持ちになり日々を送られるよう願います…」
子爵領守備隊の面々の顔を一人ずつみながらまるで卒業式の時の校長先生みたいだな…、そんな事を思いながら簡単な挨拶をした。そして少し間を置くと僕は再び口を開いた。
「そんな新たな門出を迎える皆さんに僕から贈り物があります。まずはファミコ隊員、オーズ隊員、両名はこちらに!」
ザッ!ザッ!
名を呼んだ二人が前に出る、そして僕はすぐ傍に停車めてあるここまでやってくるのに乗ってきた二台の馬車…一台は乗用でありもう一台の荷物を運搬する為の荷馬車…。その荷馬車へと向かった、その後方の扉は開かれすぐに中身が取り出せるようにしてある。
「ファミコ隊員!オーズ隊員!」
「はっ!!」
「はっ!!」
名を呼ばれた二人の元騎士がビシッと気をつけての姿勢を取る。
「本日、この時をもって両名は一通りの訓練を終了したとみなし子爵領守備隊の十人長に任ずる!」
部下に十人もつけてやれるほどの人数はいないけど十人にしないと語呂が悪いからとりあえず十人長という役職にした。ちなみに他の隊員には役職はない、いわゆる平隊員である。
ビシッ!!
二人が僕の言葉に応じ敬礼をする、承ったという事だろう。そんな二人に僕も彼らほどサマにはなっていないが敬礼で応じた後、僕は馬車の荷台に手を伸ばした。取り出したのは黒色のフライトジャケット、表生地はナイロン製の中綿入りだ。風を通さないし何より軽く丈夫だ。汚れにも強い。
「こ、これは…」
「み、見たところ…ゲンタ様や奥方様、姫君様と同じ物に見えるでありますが…!?」
フライトジャケットを見て二人は目を見開き驚愕の声を上げた、それを受けて僕も応じる。
「その通りです、命をかけて領を守る皆さんと僕たちの着る物に差違があるべきではないと考えたもので…。これはフライトジャケット、軽いけどそれこそ空の上…いえ雪が残る山の頂上のような寒く風の強い所でも耐えられるようにできています」
フライトジャケット…パイロットが着る為に作られたこのジャケットは作戦地域や用途、搭乗機によって材質や形状に差はあるけど概して寒さに強い。このタイプはマイナス10度までなら耐えられるし防風性も高い。そのフライトジャケットを順番に手渡す。
「おおっ!?か、軽い!」
「ツ、ツルツルしている…」
「さあ、着てみて下さい」
受け取ったジャケットの感触に驚く二人に着用を勧める、その言葉通り二人がジャケットに袖を通すと二人はその暖かさに驚きの声を上げた。
「さ、寒く…ない」
「肌を刺すような風が入ってこないであります!」
「二人ともよく似合っていますよ。では次に…ディスクシステ隊員、ゲムボイ隊員、前に!!」
古参の騎士でありリーダー格の二人が列に戻り代わって新たに二人ずつ前に出る。隊員十六人のうち、騎士爵にあった者から先に呼んでいく。ディスクシステ隊員は角ばった赤ら顔が特徴だ、しかしその記憶力には定評がある。一方でゲムボイ隊員は小回りが利き、どこで何をやるにもそつなくこなす器用さがある。
騎士爵にあった人へのフライトジャケットの授与が終わるとその後に兵士の位にあった者へと続く。スファミ、ロクヨー、キュベにドーウィー…さらに士分(騎士見習い)の若いドーディエスとスリーディエへと次々にジャケットを手渡していく。最後にペドフィリーの私兵だったメガドライにセガサターシロ、プレスティーにネオゲオ、ピシエンにサンディオー…。そして最後に他国出身のエクスボックと大きな石を遠投してみせたビグサドズール、彼らは最近になってペドフィリーに付き従った流れの冒険者だそうだ。
ひとりひとりへの隊員に手渡すと十六人全員がフライトジャケットを身につけた。奥方様以下、全員が同じ黒いフライトジャケットといった装いとなる。戦国時代の話だが伊達軍は鎧を将兵揃って同じ物にして連帯感を出したという、僕はそれにあやかってみたのだ。
「これで我々は同じ物を身につけた同志です。皆さんには領を愛し、この地を堅く守って行く事を期待します」
ザッ!!
子爵領守備隊の全員がキッチリと揃った敬礼で応じた、それを受けて僕は少し間を取ってから発言を続けた。それは彼らに兵としての生き方だけでなく、自分たちで稼ぐ手段を持ってもらう生き方もしてもらう事…。
「それから…、皆さんにはこの地で駐屯し暮らしていってもらいます。しかし、固パンと塩だけでは体を維持しながら暮らしていくのは不可能…。それは食べ物だけではありません、着る者や日常で細々した物…色々とあるはずです。そこで僕は皆さんにはこの地を守りながらお金を得る手段を考えてみました」
次回は…。
ゲンタが用意した稼ぐ手段とは…?
そしてキリが大慌て?
『は、早くしなさいよねっ!!』
お楽しみに。
お楽しみに。




