第68話 試作型(プロトタイプ)塩自動販売機と森の主(.ぬし)
「じゃあ、行ってくる」
ガントンさんやお弟子さんたちとナジナさんウォズマさんの簡単な自己紹介を終え、彼らは狩猟場へと向かった。とりあえず今日一日の共同とはいえ、二つ名付きの凄腕冒険者が四人も揃い踏みして活動するというのは中々無いらしい。
噂を聞きつけてか数名の冒険者が一行を見送っている。それだけ彼らというのは憧れの存在なのかも知れない。
「絶対にたくさん狩猟ってくるからな!兄ちゃん頼む、揉みダレで…、揉みダレで味を付けた肉を食わせてくれええ!!」
椎茸の断面図みたいな目でナジナさんは出発前、僕に非常に熱く懇願してきた。昨日、ゴントンさんと初対面の時に出た猪肉の焼肉の話題…、その美味さを聞いてたまらなくなったのだろう。
大柄なナジナさんに押し相撲の得意な力士のように詰めよられ、僕は断る訳にもいかず嫌も応も無く承諾した。さすが凄腕冒険者、凄い迫力だった。
「行ってらっしゃいでやんす〜」
立ち去る一行に向けてベヤン君の、これまた独特のダミ声が響いていた。
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マオンさんは洗濯を始めた。自分の衣類も、ガントンさんたちの洗濯物も合わせてやってしまおうと言う。
「金も受け取らずやってもらってるからね」
だからせめて自分の出来る事をやろうという事だそうだ。
残った僕たち三人は、機巧の細部について話し合いを詰めていく。もっとも僕自身は機巧については全く分からない素人。なので大まかな概要を伝え、仕組みについてはハカセさんとベヤンさんに任せる事にした。
「そうなると、まずは硬貨を入れた事を認識し…」
「塩を決まった量出すようにするでやんすね」
「あと、塩は水気に弱いからねェ…。すぐに固着してしまうのと…」
「軟弱な外回りじゃ、壊されて塩や硬貨を盗まれてしまうかも知れないでやんす」
「フヒッ!フヒヒ!拙者がそれを考えていないとでも?」
「対策は考えているでやんすか?」
「それには迷宮の宝箱に仕掛けられている罠を参考にしようと思いましてねェ」
「そ、それは死んじゃうヤツじゃ…」
「私の機巧に手を出そうと言うのです。ましてや塩や金を盗もうとする輩…。死んで当然ですがねェ。まァ、良いでしょう、殺しはしませんよ…殺しはね…。せいぜい生きてる事を後悔する程度にしてさしあげましょう。拙者、非常に、非常に慈悲深い!」
基本的には真面目な打ち合わせだが、時折なんか怖い。ハカセさん、マッドサイエンティストみたいなニオイがしてきたぞ。
「まあ、とりあえず試作ですからねェ…。複数の機能は付けず、硬貨の認識と塩の定量排出を可能にすれば良いでしょう。悩んだ時はゲンタ氏にまた相談するとして…」
ずずず…、緑茶を飲みながらハカセさんが作業を開始した。
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一方、その頃…。
ここは町から離れた山に近い森。森のかなり深い所まで潜った場所がここにあたる。鬱蒼とした森だが、獲物としては大物が多い。その分、危険は多いのだが…。
「いや〜。獲りも獲ったりだな」
上機嫌でナジナが獲った猪の血抜きをしている。
「全くだべ。持って来た荷車に載せきれない程とは驚きだべ」
ゴントンが斧で手頃な周りの木を切り、荷車の後ろに連結させる為の追加の台車を現地生産で作っている。最初に引いて来た荷車には既に猪をはじめとして、鹿や兎など大小様々な獲物が載っている。
「それにしても、一度の操作で三連射できる弩弓とは…。動く標的にこれ程有効な射撃武器はない」
ウォズマはガントンの弟子二人が主に使用する弩弓の性能に驚いている。
「嬉しいのう、それの良さに気づいてくれるとは…。それは弟子の発案じゃ。数発同時に打ち出すような弩は確かにある。しかし、連射となると話は別じゃ。同時に三矢発射するなら一本の弦に三本の矢を当てがって飛ばせば良いだけじゃ。しかし、連射は違う。少なくとも弦が三本、そして引き金を引いて少しずつ時間差をつけながら発射するのじゃ。動く相手に照準を合わせながらでも撃てるからの。待ち伏せするにも逃げる相手にも効果的じゃぞ!」
ドワーフは敏捷性による機動戦よりも、筋力を生かした足を止めての肉弾戦に向いている種族だ。ゆえに互いが近接武器や肉体をもって戦う場面が多くなりやすい。
だがそれは相手に攻撃出来ても、同時に自らも相手の攻撃範囲に踏み込む事を意味する。そうなると、どうしても自分たちの損耗も激しくなる。そこでガントンたちは、自分たちの力強さと並ぶもう一つの特性である器用さを活かす事を考えた。
自分たちが精魂込めて作った上質な弩弓、しかもこれは一般的に販売されている物ではなくドワーフの体格や筋力、器用さを最大限活かすように設計されている。そして、これを用いて狩猟などを行う。
そうする事で問題点が浮き彫りになってくる。鍛冶場で作っている時には思いもよらなかった欠点も、逆になんでもない一工夫が思わぬ利点になった事もある。そう言った意味では実戦検証は宝の山であった。先程話題に上った連射の機能も狩猟をしていた時に思いついたものだ。
町の武器屋では滅多には見ないが軍用…、それも城壁の上などに設置される事もある固定式弩弓の中には複数の矢を一気に射出する物は確かにある。だがそれは、敵がこちらに向かって来る事を前提とした広範囲に『ばら撒く』事を目的としている。
しかし、狩猟となると話は変わってくる。標的となる獲物がこちらに向かって来るとは限らないし、不利と見れば逃げもする。そうでなくとも標的は動いている場合が多い。動く標的を狙いながら、つまり照準を動かしながら次々と射撃できるのだ。上手くいけば動く相手に次々と矢が当たる。また、止まっていたり動けない状態なら同じ場所に打ち続ければ良い。
あくまで冒険者としてという前提が付くが、ガントンたちにとってはこの連射機能の付いた弩弓の使い勝手が良いので長らく愛用して来たのだ。
「おおーい、血抜きが終わったぜ」
「こっちもだ」
「ワシの方の鹿はもう少しというところじゃな」
ゴントンが新しく作った追加の荷台に血抜きの終わった猪を積んでいく。
「いやー、この分だと猪と鹿も焼いて食べ比べも出来そうだなや!」
ゴントンが嬉しそうに笑う。
「大猪がいたらもっと良かったんだがなあ〜」
「それは食いでがありそうじゃわい!」
ガハハとガントンとナジナが豪快に笑う。
それを微笑みながら見ていたウォズマであったが、
「静かに!!」
低く鋭い声を出した。意図を察し即座に警戒態勢に入るナジナたち。このあたりは流石に歴戦の強者である。
「あれは…」
ガントンの弟子のうち一人が思わずといった感じで声を上げた。
ゆらり…。
森のさらに奥から象のような…、いや象よりも大きな一体の猪が現れる。
「おいおい…」
ナジナが大剣を背中から抜きながら呟く。
「確かに大猪の一匹でも出て欲しいとは言ったけどよ…」
「ああ、大猪どころか巨大猪…、オレたちはこの森の主を呼んでしまったようだな」
ナジナの横に並び立つように移動したウォズマがナジナの声に応えた。




