第672話 カ、カン違いしないでよねっ!! 〜風精霊の自由〜
メセアの声のイメージは男性声優さんなら神谷明さんのイメージでしょうか(メセアは女性キャラですが)。ギャグパートとシリアスパートの声の演じ分け、オンオフの切り替えが印象的ですね。
女性声優さんなら誰だろう?
ぱくっ!!
ぼわん!!
「え、えええっ!?」
まさかまさかである。世界樹の精霊にしてハイエルフというメセアさんが粒あんを乗せたクッキーを食べた。僕の指先ごと口に含んで…。
「メ、メセアさん!?」
「おぃひぃわ」
噛んではいないものの僕の指先にはメセアさんの体温やら口内の感触が伝わってくる。おまけに僕の指先を口に含んだまま話そうとするもんだから舌とか色んなものが触れてえも言われぬ感触だ。
『ちょ、ちょ、ちょっとアンタ!メ、メセア様になんて事してるのよっ!!』
ぽかぽかぽかっ!
キリ緊急発進!僕の頭に向かって一直線に飛んできてポカポカと殴る。
「そ、そんな事言われても…」
『うるさい!うるさい!うるさい!うるさいっ!!そ、そんな事しちゃ駄目なんだからぁ!!』
よく分からないけどキリの怒りはこちらに向いている、だけどこの問題を引き起こした張本人であるメセアさんには向いていない。僕としては納得しがたいところではある。
「ゲンタ…さん…」
隣に座るシルフィさんが心配そうな声をかけてきた。そうだ、これ以上シルフィさんを心配させちゃいけない!
「メ、メセアさん!僕はシルフィさんとの結婚の挨拶をする為にこの里に来ました!だからこういうのは駄目です」
ちゅぽん!!
「むう…」
メセアさんがようやく僕の指先から口を離した。あれ…?なんか顔つきというか表情が違う。眠そう…というかどこかボーッとした感じのメセアさんが何やらキリッとした表情をしている。
「…これでゲンタと身共は魂がつながった」
「え?メ、メセアさん?そ、それと魂がつながるって…?キリも同じ事を言っていたけど…」
変わったのは表情だけじゃ…ない?話し方まで変わっている…?声色もなんだか…。
「言い換えれば切っても切れぬ縁が出来たという事だ」
「切っても切れぬ縁…」
「そうだ。それを結魂という」
「結魂…」
「け、結婚!?ぐはあっ!!」
フィロスさんが血を吐きながら宙を舞っていた。
「大丈夫なのか、あれは?皆、あまり気にしていないようだが…」
「いつもの事ですので…」
セフィラさんたちが介護に向かっている。
「それならば…良いか…。話を戻すが、この結魂だがどうやっても切れぬという訳ではない。例えば精霊が別れを望めばその限りではない」
「あ…」
僕は昨日の事を思い出していた。パサウェイの実を干す為にキリが風を吹かせている時…。唇が触れて僕と魂がつながったキリに不本意なら縁を切る事が出来るのかと訪ねた時の事だ。
「うん、でもさ…。もし嫌だったら君の方から離れる事も出来るんでしょ?」
『で、出来るけど…』
きっとこの事を言っていたんだ…。
「何か得心がいったような顔をしている、どうやら思い当たるフシがあるようだな」
「は、はい。実はキリも似たような事を言ってたんで…」
「ほう?」
「彼女と魂のつながりが出来た時、不満そうだったので不本意な魂のつながりなら離れる事も出来るの…と尋ねたら出来ると言ってたんで…」
僕の頭のすぐ横で膨れっ面をしているキリを見ながら言うとメセアさんはフムとひとつ頷いてから口を開いた。
「なるほど、知っていたか。だが、不本意ではなく望んでいたのではないか?嫌ならゲンタのそばにいる理由はない。風精霊ならば尚更…、風が象徴とするのは自由…。不本意な束縛を最も嫌う、そうとなれば同じ所に留まりはせず自由を求めてどこへでも行く。それこそ山も川も越えてどこへでもな」
「そうなんですか」
「だが、留まるというのならばそれもまた風精霊の自由…」
「風精霊の自由…」
「そう、留まるのもまた風精霊の自由なのだ。そばにいたい…、そう思うからこそ風精霊は共にいるのだ」
「は、はあ…。一緒にいてくれるのはキリの意志って事なんですね。…あれ?でも、キリは魂がつながっちゃったのは不本意って言ってたけど…」
メセアさんの言葉に僕がキリの方を向くと目が合った、どうやら彼女は僕を見ていたらしい。
「ねえ、キリ?君はどうして一緒にいてくれるの?」
『……ッ!!?…〜〜〜ッ!!!!』
僕がそう尋ねるとキリは一瞬ポカンとした顔をしたが、その顔を一気に紅潮させていく。
『こんのぉ〜…、馬鹿ぁ〜!!!』
「う、うわっ!」
キリは怒ると暴れるが、今回のはいっそう激しい。いつものが乱舞系の超必殺技なら今回のはMAX超必殺技ぐらいの勢いだ。まさに龍とか虎が大暴れしているぐらいの迫力がある、もっとも彼女は小さいからそんなに痛いわけではない。
ぽかぽかぽかぽかぽかぽかっ!!!!
『さ、さ、察しなさいよっ!!この鈍感ッ、とーへんぼくッ、朴念仁ッ!!』
「え?な、なんで?キ、キリが僕について来てるのはもしかして…?」
僕が言いかけたところにキリが慌てたようにして肉薄する。
『わ、わぁ〜〜ッ!?』
ぽかっ!!
乱舞のシメのアッパーがきた。顎先を見事に捉えられちょっと痛い。
『カ、カン違いしないでよねっ!ア、アタシはアンタが弱っちそうだから森で獣に襲われたりしないようにしないように…って。あ、あと、パサウェイの実を乾かすのに力を貸してあげようって…。そ、それだけっ!それだけなんだからねっ!』
「いたたた…。でしょ?キリがついてきてくれたのはそういう理由で…」
『そっ、そうよ!』
「それならカン違いはしてないから安心して」
『う、うん…。そ、それなら…いいわよ…』
「あれ?僕、なんか変な事言ったかな?」
『い、言っないわよ!わ、分かってれは…い、良いんだから…』
「そう?なら良いけど…。すいません、メセアさん。えっと…、とりあえずメセアさんは僕と縁がつながるのを望んだ…って理解で良いんですか?」
「その通りだ」
「で、でも、どうして…?」
「今…口にした甘味、パサウェイの実の工夫…それに興味を持った。世界樹というのも退屈なものだ、いかにハイエルフの肉体も併せ持つとはいえその退屈という名の虚無は癒える事はない。長く生きる中で私は色々なものを手離し落としていった。だが、最近その虚無から解き放たれる事があった…」
「も、もしかしてそれが甘味だったり…」
「そうだ。ゲンタがもたらした様々な甘味だな」
「は、はあ…」
「まだ他にも理由はある」
「他にも…?なんでしょうか?」
はて…、なんだろう…?僕がメセアさんにした事といえば食べ物を持って行ったか、料理を作ったくらいだけど…。数少ない今までの関わりを思い出している僕に向けてそのメセアさんが口を開いた。
「細かい理由は後にするが…」
メセアさんが僕の目をまっすぐに見た。
「ゲンタよ…」
ずいっ!
メセアさんは前に身を乗り出してきた。
「は、はい…」
「身共(古い言葉で私の意味。女性が用いる場合、尊大であったり男っぽいイメージである)の夫となれ」




