第667話 里長の目からビーム!!…じゃなかった。あれは…水?
「おお!ゲンタ殿!お帰りをお待ちしておりましたぞ!!」
エルフの里に戻った僕たちを里長たちが出迎える、初めて来た時とは異なり今や歓迎ムードである。
「ただいま戻りました」
「して…、どうでしたかな?やはり、あの辺りでは何も…」
里長は声を潜めて話しかけてくる。
「その事なんですが…」
僕は背負子の籠からあるものを取り出す。厚さ五ミリ程に薄切りにした干しパサウェイだ。
「む、なんですかな…?これは…」
見慣れない物に里長が怪訝な顔をする。
「これが見つけてきた物です。甘くて美味しいですよ」
「甘くて…美味い…?はて…、あの辺りにそんな物があったろうか…?」
首を傾げる里長、どうやら僕が何を持ってきたのか想像がつかないようだ。周りのエルフの皆さんも同様の反応をしている。これがパサウェイの実だなんて思ってもいないようだ。
「里長様〜、まずは食べてみてよ。食べてみればすぐに分かるよ。でも、これが何か分かるかな〜?ニシシシッ!」
ロヒューメさんが悪戯っぽく笑っている。
「むう…」
ぱくっ…。
里長はスライス状の干しパサウェイを口に含むと目を丸くした。
「な、なんと…!これはなんという深い味わいだ。春先に雪がじんわりと融けていくようにまず甘みが広がっていく…。おお、そして夏が来る!ゆっくり広がっていった甘さがさらに何度も押し寄せ激しい雨季のごとく舌を叩くッ!」
落ち着いた高齢男性といった動作が興奮の為かだんだんと力強いものへと変わっていっているような気がする。…いや、実際に筋肉が膨れ上がっていないだろうか?いわゆるビルドアップ状態だ。そんな中で里長の食レポは続く。
「そして追ってくるのは様々な旨味か!?やってくるのは実りの秋か!?まさに豊穣とも言えるのは様々な顔を持つ風のようだ…、そよ風…突風…旋風…。季節外れの暴風や時には嵐…、猛吹雪…。何度も翻るようなこの味わいだがしつこさは無い…、気づいた時には消えている朝の霜のようにそっと…。こ、こ、これは…」
ワナワナと里長がその身を震わせ始めた。あれ?もしかして有害な成分でもあったろうか?大丈夫かな…、僕がそう思った時だった。
「う…、うーまーいーぞォォーッ!!」
ビー!!
「うわ!!危ない!!」
斜め上方を見上げ仁王立ちしながら叫ぶ里長の目からビームのようなものが発射された。よく分からないけど当たったらタダでは済まなそうなやつだ。
「あ、あれは里長の切り札!目から噴出水!!」
「え?知っているんですか、キルリさん?」
最近セリフが少なかったキルリさんに思わず尋ねた。
「み、水の精霊との親和性が最良の里長が操る水の術です!その圧は凄まじく岩すら貫くとか…。ただ、最近は御歳を召されたので使う事が出来なくなったと聞いていましたが…」
「へ、へえ…」
高水圧カッターみたいなものだろうか。僕が納得の声を上げている間にも里長の食レポは続いていた。だが、それも終わりに近づいている。
「ああ、なんという味わいだ!思わず我を忘れて飲み干すように食べてしまった。しかし、これはなんなのだ!?草が芽吹く春を感じ、夏の強い日差しを蓄えたようにも思える。だが豊かな秋も感じるし、凍てつく冬の風も感じる…。そ、想像もつかない!ゲ、ゲンタ殿、これはいったい…?」
この味を出せるものにまったく思い当たる物がないようで里長が僕にその正体を尋ねてきた…、その時だった。
ザッ…。
「その味の正体…、私に当てさせてくれぬか?」
「えっ?あ、あなたは…」
僕はかけられた声の主の方に振り向いた…、見慣れた人物がいた。
「ザンユウさん!!」
そこにいたのはエルフの食通、ザンユウさんその人であった。




