第529話 大反響の初回公演!トクラスがッ…、舞台上ェェッ!!そして若返るヒロインとは!?
スポットライトが当たった舞台の端っこ…、そこには人が入れるような大きな鳥籠のようなものがあった。その中に豪華な玉座とも言えるような椅子があり、そこにマオンさんが腰掛けていた。だが、普段の彼女からは程遠い無表情…世の中の全てに絶望したような空虚な表情をしている。
ここでいったん舞台に流れる曲が一変する、先程までとは打って変わりもの寂しい…荒野にポツンとひとつ転がる小石を描いたような静かな曲が流れ始める。
「こ、これは…?たしか姫はまだお若いはず…。だが、このお姿は…」
トクラスことウォズマさんが片膝をつき肩で息をしながら姫役のマオンさんの方を向いて驚きの声を上げた。そしてその姿勢のまま…、邪神に背を向けたまま問いかけた。
「驚いたか?これは我が生贄となる事を拒み続けたこの者に呪いをかけた結果だ。もはや生きながらえる事で精一杯…、まともに指一本も動かせぬほど年老いさせてやったわ!分かるか、この者の無力感…絶望感が…。我はその力無き者どもの泣きわめく声…苦しみ…、そして絶望を食ろうておる…。分かるか…?それはまさにこの上ない美味なるぞ!ヌワーッハッハッハァーッ!!」
悪役感をたっぷり出してファバローマさんが笑う、その巨体とも合わさって迫力はたっぷりだ。まさにラスボスといった感じだ。その背後の邪神にトクラス役のウォズマさんは無言で怒りに身を震わせる。
「……………」
「どうした?身を震わせて…」
「おのれ、邪神ーッ!!」
トクラスが邪神に振り向きながら叫ぶ、再びラスボス戦のBGMがかかり始める。同じ曲だが先程のものより少し早く、ドラムを効かせた爽快感と迫力を増したものだ。その音楽に乗りまさに劇のクライマックスが始まる。
怒りに燃えたトクラスは立ち上がると剣を構え直し、それを天高く突き上げ叫んだ。
「光をもたらす聖なる剣よ、力を与えたまえ!!」
すると剣からサクヤの力で光が溢れ、さらにホムラとセラが作り出した湯気が霧となってトクラスの周りを包んだ。さらにはその幻の霧にトクラスの姿がいくつも浮かぶ、作り出された霧にサクヤが工夫して光を当てその屈折率を利用してトクラスの姿をいくつにも見せているのだ。
『トクラスは手にした剣を高く掲げた、剣から光が放たれる!!邪神は幻に包まれた!!』
語り部の声が響く。
「これは…分身…?いや、幻か…!!」
「行くぞ、邪神ッ!!」
「こしゃくな!!ならば討ち倒してくれる、ぬありゃあ!!」
何人ものトクラスが一斉に邪神に切りかかる、迎え撃つ邪神が腕を振るいそのうちのひとつを殴りつけた。しかし、その姿がサァーッとかき消えた。
『邪神の攻撃!!ミス!!攻撃したのはトクラスの幻影だった!!』
「ぬうっ!?ぐわあっ!!」
『トクラスの攻撃!!邪神に深く切りつけた!!』
消えたトクラスの姿に困惑した邪神、そのスキをついてトクラスが切りかかると初めて手傷らしい手傷を負わせた。紫色の血が吹き出す…、だが実際の血ではない。日本の100円ショップで買ってきた紫色のインクを血袋としてファバローマさんの体の各所に仕込み、切りつける動作に合わせて吹き出すようにしたものだ。カグヤの闇精霊の力も借りて見えないようにしている、観客からすれば実際に切られたように見えるだろう。
「忌々しい小細工を…!だが、これで勝ったと思うな!我の力は冷気だけにあらず!目障りな幻影ごとまとめてお前を吹き飛ばしてくれるわっ!!」
『邪神は力を溜めている…』
邪神ことファバローマさんは大きく息を吸い込むとその肉体に力を込めた、元から筋骨隆々の肉体がさらに膨れ上がる。そしてその力を込めた剛腕を大きく振るった、凄まじい嵐のような暴風がまき起こる。
『邪神は大きく腕を振るった、切り裂く風が怒涛のように巻き起こる!!』
「直撃だ…なにィッ!?」
邪神が驚く!霧にサクヤが光を屈折させて浮かび上がらせていたトクラスの全ての幻影がまき起こった風に吹き飛ばされた、しかしそこにトクラス自身の姿はない。邪神役のファバローマさんが大きく目を見開いて驚いてみせた、それは観客たちも同様で消えたトクラスの姿をどこだどこだと探している。
『ああァァーッと!!トクラスがァァ、舞台の上ェェーーッ!!!』
語り部が今日一番の大声で叫んだ、同時にスポットライトが舞台の上…ファバローマさんの頭上に当てられる。そこには日本の舞台でも採用されるワイヤーを使って空中に浮遊しているウォズマさんがいた。ここでワイヤーからその肉体が離される、ウォズマさんが落下を始める。剣を両手持ちしてファバローマさんき切りつけた。
「ぐわあああァァッ!!!」
『トクラスの攻撃!!邪神に致命傷を与えた!!邪神を倒した!!』
胸元からこれでもかと言うほどの紫色のインクを吹き出しながらファバローマさんが崩れ落ちる。そしてその姿はだんだんとカグヤの闇精霊の力によって見えなくなっていく…、邪神は肉体を…実体を持たない霊体の存在だという。そのあたりを演出したものだった。
「う…」
ここで初めてマオンさんがわずかに動いた、そこにトクラスことウォズマさんが駆け寄る。
「ご無事ですか?エリーザ姫」
「わ…私は…?う、うう…邪神に攫われ呪いをかけられ…。指一本まともに動かせぬほど年老いた姿にされ、ただ国が荒れていく様子を見せられていました…」
「そうでしたか…。しかし姫様、ご安心を。このトクラスが…、邪神をただいま討ち倒しましてございます。これで国が荒れるのは収まりましょう、あとは立て直していくだけにございます」
「ええ。ですが、このように年老いた身では国の為に何の役にも立てません…。…あっ、これは…」
悲しみと無力感に打ちひしがれていたエリーザ姫ことマオンさん。その時、マオンさんの体から周りへと少しずつ蛍のような小さな光の粒が浮かび始めた。最初はひとつ…ふたつ…、それが十…二十と増えていき、やがてマオンさんの体を包んで明るく輝いた。もちろんこれは光精霊サクヤによる演出、そして観客たちはひとつの奇跡を目のあたりにする。
「こ、これは…?ひ、姫様のお姿が…」
トクラス役のウォズマさんが驚きの声を上げる。それもそのはず…、腰の曲がった小柄なお婆さんであるマオンさんが若い姿へと変わっていくのだ、スラリとした若々しい姿の女性の姿へと…。
「ああ…、これは…。邪神が私にかけた呪いが消えてゆく…、分かります…。邪神にさらわれた時の…、元の姿へと戻っていくのを…」
おおおおっ!!!
客席がどよめく、そりゃあそうだろう。なんたってこれはハリウッドの映像技術でもなんでもない、マオンさんが得た能力なんだ。この異世界でも劇の上演はあるけれど役者への演出は衣装を替えるとか化粧、あとは付けひげを使うくらい…。だからこんな役者が交代した訳でもないのに見た目がガラリと変わるなんてありえないのだ。
マオンさんは暗殺者ザフリーの暗殺毒から回復する為に健康で若い肉体の持ち主であるヤツ自身の体にマオンさんの傷ついた肉体を移し替え、代わりにヤツの健康で若い体組織と取り替えた。全てが若返った訳ではないけど身に危険が迫った時とかに一時的に肉体が若返る。今ではそれをマオンさんは意識して行う事が出来るようになった。およそ一日に数分程度といった時間制限はあるけど…。そんな訳でここからは一気にフィナーレへと物語は進む。
「戦士様、貴方のお名前は?」
「トクラスと申します」
片膝をつき、姫に絶対の忠誠を誓う騎士のようにウォズマさんが名を告げた。その美丈夫っぷりはまさに絵になる、観客の女性たちからため息が洩れた。きっと自分が姫だったらこんな腕も立ち美しい騎士がひざまづいてくれるのか…、そんな風に思いを馳せているのだろう。
だが、物事には始まりがあれば終わりもある。それにマオンさんが若い姿を維持していられるのにも限りがある。新たにBGMが流れ始め、それに合わせて語り部の声が厳かに物語の締めくくる。
『この邪神を討ちエリーザ姫を救い出した功により騎士爵に任ぜられた。そして邪神の降臨により荒廃した王国を立て直すにあたり多大な功績を積み陞爵を重ねていった。そしてエリーザ姫と結婚し王となる。その善政は何代も続く豊かな国の基礎となり人々はその王の名を長く長く語り継いでいく。後に王として相応しくオウルトラウスと長く音が濁らないものへと改めた、これは人々から親しみとそん時から尊敬を込めて賢王とも英雄王とも言われた男の若き日の物語である』
そして幕が下がっていく、役者たちの出番はこれで終わり。代わって衣装替えをしたミワキーロさんが歌い始める、いわゆるエンディングテーマだ。たとえ海で分かたれた大陸に離れ離れになってもあなたの事は忘れない、トクラスとエリーザ姫の永遠の愛を歌ったもの…、それを最後にミワキーロさんはミワキーロさんは歌い切った。
観客たちは総立ちで万雷の拍手を送り、それがすぐに止む事はなかった。後にこの戦士トクラスの英雄譚は形を変えてミーンの町で常に上演される事になる、王となったトクラスが町に出て蔓延る悪を正していく…勧善懲悪の時代劇のようなレギュラー上演をされるものとして…。
だが、それより反響を生んだのはマオンさんだった。
「どうして若返ったの!?」
観客の女性たちがその事に釘付けとなった。その後、シャンプーなどを売る際に売り子をしていたマオンさんを見かけた人が美の秘訣はシャンプーにあるに違いないと買い込み髪を洗ったところ若返りはしなかったが髪はツヤツヤとなった。そんな訳で若返りの妙薬としてシャンプーが爆買いされる事態となった。それ以外にボディソープも、他にも菓子や酒などがバカ売れ…。そんな訳で僕は観光客という新たな販売チャンネルを得るに到ったのである。




