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第628話 大反響の舞台、開演!


 ド…、ドラクエ3やってました…。遅くなってすいません。


 シルフィさんの登場で貞操(?)の危機を脱し、僕はヒョイさんの経営する社交場サロンの一角…劇場の控え室にいた。


「ははは…、そうかい。そりゃあ難儀なんぎな事だったねえ。ゲンタがそんな風に迫られちゃ…、シルフィの嬢ちゃんの心配も分かるよ」


 ミミさんたち兎獣人パニガーレの女の子たちの魔の手(?)からシルフィさんに助け出され僕はシルフィさんと二人、面白い話を聞いたとばかりに笑っているマオンさんと向かい合っている。


「笑い事ではありません」


 笑っているマオンさんとは対照的にシルフィさんは不満気だ、普段のクールな立ち居振る舞いとは打って変わって軽く拗ねているような感じである。


「しっかりしているようでゲンタは押しに弱い所があるからねえ…」


 シルフィさんに何やら意味ありげな目配せをしながらマオンさんが問いかける。するとそこにコンコンコンと控え室のドアを叩くノックの音がした。


「マオンさん、そろそろよろしいですか?」

 

 ドアの向こうから舞台関係者が声をかけてきた。


「おや、頃合いかい…?じゃあ、行ってくるよ」


 どっこいしょ…、マオンさんが立ち上がる。実は今日の舞台にはマオンさんも出演する事になっている。


「二人とも楽しんでいっておくれ。ああ、それと…シルフィの嬢ちゃん…」


「あ、はい」


「ゲンタをね…、ちゃあんと捕まえとかなきゃ駄目だよ。ちゃあんとね…、だからさ…そろそろ良いんじゃないのかい?」


 ぱちり…、器用に片目をつぶってみせてマオンさんが控え室から舞台に向かう。自然と僕たちもそれに続いた、マオンさんを見送る形になる。


 きゅっ…。


「えっ…?」


 僕の手が不意に握られた。


「こ、このまま…席へ…」


 うつむき、恥ずかしそうな声でシルフィさんが呟く。その表情はよく分からない。だけど、こういう時に取るべき行動はきっと…ひとつだけだと思う。


「はい」


 そう言って僕はシルフィさんの手をしっかりと握り返したのだった。



『むかしむかし…、騎士を夢見る少年がいた…。名をトクラス、母とふたり…貧しい村で暮らしていた…』


 語り部の…、年配の人が持つ独特な落ち着きのある声から劇は始まった。貧しい寒村に生まれた少年が身を立てようと騎士になる事を夢見て故郷を後にして都会に向かう…、そんなよくある物語が今回の歌と劇を織り交ぜた舞台である。


 少年役は孤児院で一番体の大きい子に頼んだ、劇中で少年は村の子供たちの中で一番体格が良く力も強い事になっている。そんな少年だが、村では一番強くても人の多い都会では大した事がなかった。そして騎士になりたいと願っても正規の剣術や戦い方を習得していた訳ではない、すぐに騎士になれないなら…と冒険者になった彼だが中々うまくはいかない…。彼は失意の中に落ちた。ここで舞台は暗転し代わりにミワキーロさんの歌が挟まれる。


 背景は闇精霊のカグヤによって見えない、代わりに登場したミワキーロさんを光精霊のサクヤによってスポットライトのように浮かび上がらせる。


 失意の底に落ちた彼だったが歌の中で郷里にひとり残した母の事を思い出す。ずっと苦労して育ててくれた母、旅立つ時に手渡してくれたわずかばかりのお金…、それすらも貧しい暮らしでは貯めるのも大変だったろう。それを思い出して彼は挫けそうな心を再び振るい起こす。地味な仕事を重ねて経験を積み、稼いだ金は武装を整え剣技を習う事に使った…、そんな内容の歌であった。そしてミワキーロさんの歌が終わる、今度はミワキーロさんに当たっていた光がスウゥーと消えていき代わって劇の側が明るくなっていく。


『少年は強く…、そして美しく成長した…。あどけなさが残った横顔はたくましさを帯びた…、同時に端正なものへと変わった…。少年から青年へ…、彼は町でもその名を知らぬ者のない高名な剣士となっていた…』


 語り部が落ち着いた声で話し出す。主人公は少年から青年へ…、ウォズマさんへと変わっていた。本職の戦士であり冒険者でもあるウォズマさん、本来ならこういったものには出ないのだが先日ヒョイさんとチェスで軽く賭けをして負けてしまったとの事。その為、今こうして出演しているのだがその役者っぷりは大したもの…。登場するなり観客たちの視線が釘付けだ。そして語り部が物語を進めていく。


『騎士爵の家に生まれた訳ではない彼にとって…剣だけでは…、そして強さだけでは騎士になる事はかなわない…。トクラスは文字を…、そして様々な事を学び…そして修めた…』


 舞台ではウォズマさんが華麗な剣技を見せ…、そして様々な巻物スクロールなどを読み羽ペンで何やら書く場面が続く。


『彼は同時に冒険者としてさらに難しい依頼にも挑みその全てを達成した…、だがそれでも騎士への道は閉ざされたまま…。そんな時、トクラスはよこしまなる悪神によって連れ去られ捕らえられている姫君の話を聞いた』


羽ペンでの物書きをやめ、手元にあった剣を手に取るとウォズマさん扮する主人公トクラスは決意の言葉を口にする。


「おのれ!か弱き女性をかどわかすとは!!」


 そして姫君を助ける為に旅立つ主人公トクラス、艱難辛苦かんなんしんくの旅を続ける。魔物を討ち倒し捕らわれの姫へと一歩一歩近づいていく。その間は無言劇、代わりに勇壮な音楽に乗せミワキーロさんが大いに歌う。


 そしてクライマックス、いよいよ姫を助けによこしまなる神に戦士トクラスが挑む。ここで登場したのはあの魔族…ディアボロス族のファバローマさん。ミノタウロスよりさらに一回りも二回りも大きい体は見る者全てを圧倒する。そんな魔族の人たちが住む国でもその人ありと名の知れた豪の者であるファバローマさん、そんな人がなんで出演してくれたかというとヒョイさんが一度だけと出演オファーを出したとの事。報酬は大量の酒である。


 ちなみにこの酒の出所は僕だ。とあるお酒の販売店で量り売りをしていたちょっとお高めの樽に入っていたウィスキー000、これを大いに気に入ったファバローマさんは出演を承諾。そして今に至るのである。


「…剣一振りのみで我に立ち向かうとは…。身の程を知らしめてやるわ!そしてその臓腑はらわたをお前が生きながらに喰らい言葉に出来ぬ程の苦しみを与えてくれる!!」


 ここでオーケストラの曲が始まる、一気に断崖を駆け上るような激しいイントロだ。日本からCDラジカセを持ち込み、その音を風の精霊たちの力を借りて客席に轟かす。曲は何作もシリーズを重ねる人気RPGの第三作目のラスボス戦闘曲、主人公が苦難の旅の末に大魔王に挑む…そんな場面の曲だ。


 日本のコンサート会場となる施設は音の反響を計算し尽くして建設されるという、今は風の精霊たちがその音を最も効果的に客席に届けている。そしてウォズマさんとファバローマさんの立ち回りが始まった。まずはウォズマさんが実戦さながらの鋭い踏み込みから矢のような先制攻撃から始まった、その激しい戦闘の様子を補助すべく語り部の男性の声が響く。


『トクラスは雷光のように素早く切りつけた!』


 それに対しファバローマさんもまた身につけていた黒色のマント一枚をその場を残しその姿を後方に移している。ばさり、その場に残されたマントがウォズマさんの斬撃によりふたつに切り裂かれた。


『ミス!!邪神はひらりと身をかわした!!』


 一方、後方に身をかわした邪神ことファバローマさんは大きく息を吸い込みそれを前方に吐き出すような仕草をした。それに合わせて口から何か白いものが吐きだされる。


 ブワアアッ!!


 それは火精霊ホムラと水精霊セラが協力して作り出した真っ白な湯気。それがウォズマさんに向かって一気に広がる、同時に光精霊サクヤがその湯気をキラキラと輝かせ酷寒の地に降るというダイヤモンドダストのような演出する。


『邪神は炎すら凍りつかせる激しい吹雪を吐いた!!トクラス危うし、これを食らえば体はたちまち凍りつき下手をすれば即死すら免れない!』


 語り部の声が緊迫感を持って告げられる、その時トクラスの胸元から一枚の半紙を適当な大きさに切って文字や絵を印刷したものがフワリと宙を舞った。それはこの劇の途中で入手した事になっている女神の護符。それが今、襲い来る吹雪に対して持ち主を守る盾のように吹雪を吸収していった。


「ほう…、女神の護符…。なるほど…、我が冷気を封じる術を手にしていたとはな…だがッ!!」


 ばさあっ!!


 邪神ことファバローマさんがローブを脱ぎ去り下衣ズボンのみの格好になるとその筋骨隆々の肉体が現れた。


「冷気など我が余技に過ぎぬ…、この不滅の肉体こそ真なるちから…、さあ破壊し尽くしてやろう。そして無数の肉片と成り果てるがよい!!」


『邪神は正体を現した!』


 語り部の声が響くと同時に曲が2ループ目に入った、邪神の猛攻が始まる。トクラスは苦戦を強いられる、邪神の猛攻をからくも凌いでわずかばかりの反撃を行う…そんな展開だ。


「くっ…」


 ついに片膝をつき、窮地に陥るトクラスことウォズマさん。剣を杖かわりきかろうじて体を支えている。


「フハハハハ…、どうした!?もう終わりか?弱き者よ、心に諦めの念が湧き始めたのを感じるぞ!クク…、なんともつまらん。それではまだあの姫の方が気丈であったわ!非力だが逆らい続けたあの者のな…」


「何!?姫だと?そ、そうだ…、私は姫を助けに…。邪神よ、姫は…?姫はどこにいる!?」


「ほう…?気になるか…?ならば見せてやろう、我に逆らい続けた者の姿を!」


 そう言うと邪神は腕を一振りする、合わせて舞台の端にスポットライトが当たる。そこには姫らしい豪華な衣装だが年老いた老婆…、マオンさんの姿があった。

 


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