第603話 白き短剣(セラミックダガー)
体ごとぶつかるようにしてゲロートポイオスに突き刺した短剣は背中まで突き抜け、短剣を握る僕の手が魔王の腹部に入り込むほど押し込んでいた。だが、ゲロートポイオスはこれだけでは倒れず僕の肩に掴みもう片方の手で殴りかかろうとしていた。だが、それより一瞬早く僕のターンアンデッドの術が完成していた。
「ゥワレニカゴヲォォォ!!」
僕が叫ぶとゲロートポイオスの腹の中から強い光が洩れ始めどんどん強くなる、そして…。
ドパアァァンッ!!
中に水を入れすぎた風船のように弾けた。
「グゴガァァッ!!」
およそ人が出さないような…、熊のような猛獣が出す声がゲロートポイオスの口から洩れる。僕の肩を掴んでいたヤツの力が抜けていった、ついには手を離し二、三歩ヨロヨロと後退りした。
「グッ、ググッ、グググ…。ゼ…、ゼハァァ…、な…なぜだァ…?なぜ、余に刃が突き刺さる…?ググッ、は…腹が…焼けるように熱い…この短剣…何処かの聖剣の類か…?」
ゲロートポイオスの体は腹と左胸のあたりまで弾け飛び大穴が空いていた。そしてその大穴を納得いかないといった表情で見つめている。
「違うよ。これは僕の知ってる方法で今朝出来上がったばかりの…、そこらへんで簡単に手に入る材料で打ってもらった物さ。もっともドワーフの名工の作だけどね、だからこれだけの切れ味がある」
まあ、日本でなら簡単に手に入る…だけどね。それは言わないでおくよ。
「ゼイィィ…、馬鹿…な…。いくら名工でも…材料が悪ければ粗悪な物しか出来ぬ。お前が持っていたのでは魔鉄でもミスリルでも余を差し貫く事は出来ぬはず、カイサンリは山国ゆえ優れた鉱山も多く鍛治の技術も高かった…。優れた武具は戦の役に立つゆえ余も研究はした、死して後も地の底で蔵書を…古より伝わる書物を読み漁った。だが、こんな切れ味を持つ材質など…余は知らぬ…」
「これはセラミック…、僕が伝えた新しい技術さ。ミスリルの短剣を作ってもらったけどアンタが言ってた通り僕には魔力が無いから何も切れなかった。だがらミスリルの刀身の上に焼き付けてもらったんだ、切れる刃をね」
「な、なんだ…と…?焼き付け…るだと…」
「そうさ、ミスリルをイチから精錬して…鍛えて…それから刀身に皿とかと同じ陶器や磁器みたいな物を焼き付けたんだ」
「謀るでない!ミスリルの短剣をイチから作るなど…、そんな訳があるか、ぐふっ!!そんな訳が…あれは天からの奇跡と呼ばれる素材で…」
「あるんだよ…、それが…。アンタ、地の底でずっと調べてたって言うけどとっくに時代は動いてる。たまには外に出た方が良いよ、精錬して打って…その短剣が今…お腹に刺さってるんだからさ…」
□
数日前…。
魔力ゼロの僕が持ってたんじゃミスリルの短剣は全く切れない、どうやらミスリルというのは使用者の魔力と呼応しとんでもない切れ味になるようだ。その証拠に試しにウォズマさんやナジナさんが持てばなんでもスパスパ切れちゃうし、大きな魔力を持つシルフィさんが試すとそこらへんの石がバターにナイフを押し込んでいくみたいに切れていった。
そんな宝の持ち腐れのような状況なんだけどこの短剣は僕の為に打たれた物、他の人に渡すのも憚られる。そこで僕は考えた、そのままでは切れ味がないのなら新しく切れ味を与える事は出来ないかと…。そこで僕はまず日本で手に入るもので素晴らしい切れ味を有する物はないかと探してみた。こちらの世界では魔鉄と呼ばれるステンレス、日本では包丁に使われていたりする。
ホームセンターとかの包丁売り場を思い起こす。形も色々あるよね、万能包丁とか菜切り包丁…柳刃包丁なんてのもある。ステンレスじゃなくて刃物で有名な町の鋼を用いた刀匠の名を冠する物もあったっけ…。
「…ん?」
そんな風に包丁売り場の事を思い出していた僕だけど金属質じゃない刀身の包丁があるのを思い出した、真っ白な…一見するとプラスチックみたいに見える刀身の包丁があった事に…。思い立ったが吉日なんて言葉もあるし、ミーンに危機も迫っていると言われていた時だったからひとつでも多く身を守る手段が欲しかった。だから、僕は急いで日本に戻った。ホームセンターは閉まっているような時間だったけど深夜までやってる量販店はある、僕は原付に乗って買いに走った。それで手に入れたのが…。
「これが…、そうか?」
僕が買ってきた包丁を見てガントンさんが怪訝な顔で尋ねてくる。いや、ガントンさんだけではない。ゴントンさんも、そして他のドワーフの皆さんも同じような表情をしている。
例によって僕は昨夜のうちに日本の自宅に戻り、ネットで記事を探しまくった。そして思いついたのが現物があった方が良いという事…。
魔力が無い僕が手にしていては切れ味がゼロになるナマクラでしかないミスリルの短剣、それにどうにかして切れ味を付与する試に考えついたのがこの方法だ。
「ミスリルの刀身の上に切れ味が生まれるような工夫をする」
それが僕の考えついた方法だった。そしてそれを伝える為に深夜まで営業している店で入手してきた物がセラミック製の包丁である。
「えらく軽いのう…」
「んんっ!?こりゃ鋼や鉄みてえな金属とはまるで違う…、触った時に独特の冷やっこさがねえべ!!」
初めて触るセラミック包丁に二人のドワーフの棟梁がそんな感想を述べる。試しに手近にあった芋とか人参を切ってみるとスパッと切れた。
「むっ、むおおおっ!!こ、こりゃあ魔鉄に勝る切れ味ではないか!?」
「なんだべ、こりゃあ!?」
「これはセラミック…、ステンレス…じゃなかった魔鉄より鋭いようです。モノにもよりますがその倍以上の切れ味があるようで…」
「うむうむ!それは間違いない!触れただけで芋が切れてしまったわい」
「これなら僕が使っても切れ味が発揮できます。そして魔鉄と同じく錆たりもしません。作り方は陶器の皿を作る時と似ています、粘土に水を混ぜ捏ねて成型…、乾燥させて焼く…。遥かに複雑な手順や技術、労力が必要ですが…」
「いやいや、すんごい素材だべ!!手間がかかるのはしょうがねえべ!それに魔鉄よりも鋭いのに軽くなるんなら手間を上回る利点があるべ!」
ガントンさんもゴントンさんも…、そして他のドワーフたちも初めて見るセラミックの良さを分かってくれたのか感心したように頷いている。
「ただ…」
「ただ…?なんじゃい、何か問題があるのか?」
僕の言葉にガントンさんが反応した。良い点もあるけど弱点になる事も言わなければならない。
「このセラミック、とても鋭いんですが同時に脆さもあるんですよ。例えば…そうですね、硝子のコップみたいに。アレは地面に落としたりすれば簡単に割れます、でもその破片はとても鋭い…。片付けようとして下手に触ると簡単に指を切ってしまう…」
「むむう…確かに。そう言われるとこの白い刀身の…『せらみっく』…じゃったか?その特性が分かった気がするぞい。じゃが…、この素材をそのまま短剣にするのか?それでは、切れ味は鋭いがいつ折れるか分からぬ代物になってしまうわい」…
「そうだべ!確かに武器の切れ味は大事だんべ。だども、折れやすいのは感心出来ねえだよ。武器には自分の命を預けるモンだァ…、折れちまったら命サァ預けらんなくなっちまうべ!」
歴戦の戦士でもあるガントンさんもゴントンさんも渋い顔をしている。彼らからすれば武器の信頼性というのはとても重要な事なんだろう。
「そこでこのミスリルの短剣なんです」
「んむ!?どういう事じゃい!?」
「みなさんに作って頂いたこの短剣、軽くて扱いやすく…そして何より丈夫です。このミスリルの短剣を軸として…」
僕がそう言いかけた時、ガタッとハカセさんが立ち上がった。牛乳瓶の底のような分厚いメガネがキラリと光る。
「アアアアッ!!分かりましたヨォ!!つまり、アレですね!ミスリルの短剣を芯鉄に見立て、その上にこの『せらみっく』を塗りたくって焼く訳ですねェェ!そうすれば外は切れ味鋭く、中は折れない…まさに理想の短剣になりますよォ!」
「なるほどのう…!よし、坊や!作り方を教えてくれ!試行錯誤は要るじゃろうがワシらも鍛治の民ドワーフじゃ。ワシらの誇りにかけてこの白い短剣…、見事に作ってみせるわい!!」
……………。
………。
…。
そんなやりとりとガントンさんたちの奮闘により完成したセラミックの短剣が見事にゲロートポイオスを差し貫いてこうして大ダメージを与えた。この機を逃しちゃいけない、僕は再びターンアンデッドの術をかけようとした。生きているという皮一枚、それが裂け腹に大穴が空いている今はまさに絶好のチャンス。だがトドメをさそうと詰め寄ろうとしたその時、ゲロートポイオスが口を開いた。
「う、うぐぐぐッ!!待て!!ゼハァァー!!この余を討てばそこの町も…、いや、この周辺の集落も…滅びる事になるぞ!誰も住めぬ汚れた地となるゥゥ!!ゼイィィー、ゼイィィー!!それでも良いのかァ!!」
「なんだって!?」
この町が滅ぶ?その言葉のあまりの大きさに僕のトドメをさそうとする動きを止めたのだった。
次回予告。
ゲロートポイオスはゲンタに自分を討たず見逃せと告げた。自分を討てば町が滅びるとゲンタを脅す。しかし、ゲンタは屈する事を良しとせず自分の命をかけてでも町を滅ぼさせやしないと啖呵を切った。そこに思わぬ助けが入る、それは意外な人物であった…。
次回、異世界産物記。
『やってやるさ』
お楽しみに!!
P.S.
問題!!
現れた助っ人は誰でしょう!?
作者自身、意外な人物を登場させたと自負しております。予想、ついたでしょうか?是非、次回で答え合わせをしてみて下さい!
予想、お待ちしています。




