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第59話 ドワーフの通信術。彼は星になったんだよ…

 テキパキと仕事の支度をしていくドワーフ一行。木製リヤカーから荷物を次々に下ろし、空にする。斧と伐採()った木を束ねる為だろうか。縄などのいくつかの道具と斧を準備して早速向かうようだ。


「親方、木の加工はどうするんで?」


 弟子の一人がそう声をかける。


「うーむ…、そうだな。生木(なまぎ)じゃ家は建たねえからな…』


 ガントンさんが思案顔になる。やがて…、


「仕方ねえ…、あの馬鹿を呼ぶぞ!!」


 ざわっ…。弟子たちがざわつき始める。


「お、親方…。だ、誰が伝令(つかい)に立つんで…?」


「…ベヤン。お前だ」


「ひいっ!オイラでやんすか?」


「二度も言わせるな、ベヤン」


「分かったでやんす…」


 肩を落としてベヤンと呼ばれたドワーフ、おそらくは最年少だろう。一番若そうな印象を受ける。まだ黒々とした髪と口元の髭は濃いものだがまだ短い。目元も特徴的だ、なんだろう、裸眼であるのに眼鏡をかけているようにも見える。


(わけ)えの…、すまぬが先程の酒はまだあるか?」


「少し違う味ですが、同じくらいの強さの物がありますよ」


 先程飲み干したのは麦焼酎、あとストックしているのは芋焼酎だ。


「な、何!?あ、あのような美酒、他の味があると言うのかッ?」


「え、ええ。作り方は一緒ですが材料が先程のは麦、今から出すのは芋から作ります」


「ぐ、ぐ、ぐぐッ!そ、それは飲んでみたい。だが今はッ!すまぬがそれをこの器に少しばかり注いでくれ」


 血涙を流しそうなくらい辛そうな顔でガントンさんが(うめ)くように言葉を絞り出す。


 言われた通り納屋から取ってきた芋焼酎を金属製の器に入れる。量は一口よりやや多いくらい、50mlくらいだろうか。それをガントンさんはフタをしてベヤンさんに渡す。


「ベヤン、コイツを持ってネクスの町に飛べ!あの雨だ、こちら同様あの馬鹿も予定通りには進めねえ。おそらく今日か明日にネクスに着くだろう。ワシからだと言ってそれを渡せ。奴はすぐにでもここへ来るだろう」


「わ、分かったでやんす!」


 彼ら二人のやりとりから目を離し、周りを見てみると大砲のような物が一門設置されていた。斜め45度くらいの角度で空に向く砲口、それを支える台座に移動用の車輪を一組が一体となったそれは正にどっからどう見ても中世時代の大砲だ。

 何をする気だと固唾を飲んでマオンさんと見守っていると、ドワーフ達は遠眼鏡(遠眼鏡)や算数や数学の授業で教諭が使うような分度器のような物を取り出し何かを計測しだした。その間、ベヤンと呼ばれたドワーフは緊張感みなぎる表情でその場で立っていた。


 数分が経ち、弟子のドワーフの一人が声を上げた。


「進路、快晴(クリアー)問題皆無(システムオールグリーン)


 続いて他のドワーフ二人も一列に整列し次々に声を上げる。


「目的地までの距離計算良し!砲口基準角度計算良し!」


「風、地上微風なれど、上空北より南に向け一刻につき9(ラグーン)


 なんだか急に軍隊みたいな口調になってきたぞ。


「砲口、右舷側に14度!角度、基準より1度半上方で固定!」


「「「了解(ラジャー)」」」


 ガントンさんが弟子たちの報告を受け、細かい修正の指示を与えた。弟子のドワーフ達三人は言われた通りに砲身の角度や向きを微調整し、ガシャンと音を立てて車止めの金具が地面に刺さる。しっかりと大地に大砲が固定された。


弾倉(カタパルト)へ!!」


 ベヤンさんより年上に見えるドワーフが砲身の根本側をスライドさせる、すると身を屈めれば入れそうなくらいの出入り口が現れた。

 ベヤンさんがその中に入り体育座りのような姿勢になったのを確認し、スライドした部分を戻した。よく見るとスライドドアみたいな部分は二枚あり、それらを閉じたあとガチャリとロックしたような音がした。ま、まさか、人間魚雷ならぬドワーフ大砲!?


「ベ、ベヤンさん!」


「ベヤン…、お前ならできるぞ…。お前たち、見送りだ!!」


 (かまど)の火を松明(たいまつ)のような物に移し、それを大砲の根本部分に近づけると導火線もないのにシューっという音と共に火花が何故か走り始めた。どういう事!?


「気にするな、仕様だ仕様。そういう気分になるだろ」


 事もなげにガントンさんが言った。


『どぉーーんッ!!』と大砲の発射音。


「「「「アァンプ・アーンチ!!」」」」


 ここに残るドワーフ四人が声を揃えて声を出す。


「バイバ・イキーン!!」


 射出されたベヤンさんらしき声が残り、上空へ大きな砲弾のような物が飛んでいく。良かった、生身で撃ち出される訳ではないんだ。飛んでいく球体はどんどん小さくなり、やがてキラリと最後の輝きを見せるとその姿を消した。



 『二刻ほどで戻る』

 そう言い残してガントンさんたち四人は荷物をマオンさん宅の一角に残して出かけて行った。


 残された僕たちは朝からの目まぐるしい、嵐のような一連の出来事を振り返りながら緑茶を飲み少し談笑した。それから食器類を洗い、ブルーシートを片付けた。

 リュックにいる二人の精霊の存在を忘れていたので、中を開けて見てみるとまだお昼寝中だった。しばらくすると二人とも起き出して来て僕たちの周りをふわふわと飛びだした。


「マオンさん、先に(やす)んで下さい。ガントンさんたちの荷物の番は僕がしておきます」


「いやいやゲンタ、お前さんも眠いんじゃないのかい?今日はゲンタが先にお(やす)みよ」


 交代で(やす)む事にしたのだが、どちらが先かで決まらない。ガントンさんたちの荷物が無ければ問題ないだろうけど…。そうしていると、二人の精霊が並んで僕たちの前に止まって『私たちに任せて』というようなジェスチャーをしている。

 

「良いけど…、どうするの?」


 するとカグヤが荷物の山に向かい、濃い紫色に黒が混じるような『ザ・闇属性』という雰囲気の球体を生み出すとそれを荷物の山に向かって投げると一瞬で荷物が消えてしまった。


「あんれまあ!消えちまったよ!?」


 マオンさんが驚きの声を上げる。

 ど、どういう事?荷物をどこかにやっちゃったの?。不安になっているとサクヤが『私に任せて』とばかりに僕の前で胸を張る。今度はサクヤが白色の球体を作って荷物のあったばかりの所に投げると一瞬にして荷物が姿を現した。


「荷物を…、不可視にしたり可視にしたの?」


 僕はカグヤに尋ねた。するとカグヤとサクヤはコクリと首肯(うなず)いた。…そうなんだ。光と闇の精霊の二人…。

 色は光を照らす事で判別する。光が全くささない場所だったらそれが何色かなんて人の目には判別出来ない、白だろうが赤だろうが真っ暗ならただの闇、真っ黒な視界だ。

 つまり、ガントンさん一行の荷物をカグヤが闇の精霊力を使って光が当たらない状態…不可視(みえない)状態にして盗難を防ぐようにしたんだ。それをサクヤが逆に光を当たる状態…可視(みえる)状態にしたと…。


「すごいな…、二人とも…」


 僕の言葉に精霊の二人は胸を張った。

次回、マオン宅を迫る二つの影。サ○ヤ人急襲!?


『集う者たち』。



皆様にお願いがあります。


よろしければ評価、御感想などいただければ嬉しいです。

また小説を書いている方からのご意見もお待ちしています。

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[一言] 面白すぎたけど、絶対に死ぬと思ったw
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