第57話 〜ドワーフ一行を招いて〜 奇跡の石
ドワーフの石工の棟梁さんを招いてマオンさん宅に向かう事になった。ギルドを出た所に他に四人のドワーフたちがいて一緒に向かう。他の冒険者たちは大抵自分の装備品の他には背負い袋など自分が持ち運び出来る量の荷物が全財産というのがほとんどだけど、彼らは違った。
日本人的に言えばリヤカーだろうか、完全木製の荷車であった。そこに沢山の道具類が積まれている。彼らが冒険者であると共に、石工という技術者集団でもあるからおそらく仕事道具なのだろう。
その荷車はそこら辺の人が使っている荷車と違い、ガタゴトと音がするような振動が少ない。静かでスムーズに道を進んでいく。異世界の道は当然土や小石が剥き出しの状態である。平らに見えてもちょっとした傾斜や凸凹はいくらでもあるが、それをものともせず滑らかに動く。鍛治や石工だけでなく、きっと木工の技術も優れている事が予想できた。
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マオンさんの家の敷地に到着し納屋が一つ『ぽつん』とあるだけの風景を見てドワーフの一行は驚いたようだが、すぐさま石組みの竈が目についたらしく棟梁のドワーフさんはそこに向かって行った。
その間に僕は八畳サイズのブルーシートを納屋から取り出して広げる準備をした。マオンさんも慣れたもので二人で手際良く広げ、飛んだりめくれたりしないように手頃な石を乗せて重しとする。
「すいません、準備に暫し時間をいただきます。その間に皆さんは荷物を置きお休み下さい」
「納屋の裏に井戸があるよ。手足や顔を流しておいでよ」
マオンさんも声をかける。その間に準備をしてしまおうとマオンさんに竈に火を着けてもらおうとしたところ、棟梁さんが煙草を吸う習慣があるのか火種があると言い手際良く炭火を熾してくれていた。マオンさんがその火を大きく育てていく。
僕は今朝方異世界に来た時、納屋に焼酎を保管してもらっていた。納屋に入り、物を取り出すようなフリをして自宅に戻る。冷凍食品の1キロ入りの唐揚げを丼に山盛り状態にしてレンジで加熱する。それなりに長い時間がかかりそうだ。
同時に深型のフライパンと近々食べようと思っていたプルコギの味付き牛肉を取り出す、一袋19円のもやしを二袋、味が薄まるので一応お得用(1リットル)サイズの焼肉のタレも持ち出す。異世界に戻り炭火近くに高さを合わせてフライパンを設置して加熱し、油をひく。その時、ドワーフの棟梁さんが先程までのゴツいブーツ姿からスネまでまくり上げたズボンと革サンダル姿になって慌てたようにやってきた。
「お、おい!若えの!何だ、なんなんだ!あの石は!?」
掴みかかってくる勢いで僕に詰め寄ってきたのだった。
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プルコギの肉を炒める事をマオンさんに引き継いでもらい、僕は棟梁さんに引っ張られるままに僕は井戸端にやってきた。
そこには数日前に僕が日曜大工的に行ったコンクリートを貼った地面があった。棟梁さんのお弟子さんたちが地面に這いつくばるようにその地面を指でなぞったり顔を近づけて観察をしている。僕がやってくると全員がこちらを見た。親方
「こ、これだ!この石造りの地面だッ!割った訳でも削った訳でもねえ!だが、それじゃこんな形になる筈がねえ!それにドワーフでなければ分からぬだろうが、この石は均すぎている。石ってのは一つとして同じ物は無い。正確に言えば含まれている成分が違う。分かりやすく言えばこの石は鉄を多く含むとか、あっちのは少しだがここに金が含まれてるとかな…」
それは多分、僕が水を入れてこねる前からセメントと砂をよく混ぜてムラが無いように中身を均一にしようと努めたからです…、なんて言える筈もなく…。
「そしてこの仕上がりだ。素人丸出しの出来だ、間違いねえ!だが、この石の造形はどうやっても出来ぬ…。口惜しいが、ドワーフの技術でもな…。だが、これはまだ出来てからそう日にちは経っておらん。若えの…、これを誰がやったのか知っておるか?」
「えっと…、僕…です」
「なっ、なんだと…!!」
棟梁さんをはじめとして、そこにいた全員が驚きの声を上げた。
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納屋の向こう、竈の方からマオンさんの『アンタたち、出来たよ〜』という食事の準備が終わり家族を呼ぶ母親の如く呼ぶ声が聞こえた。
とりあえず、コンクリート張りの井戸端についての話題は後回しにしてブルーシートの方に戻る。納屋から自宅に戻り、丼に山盛りの唐揚げを取り出す、まだ十分に温かい。
それをブルーシート中央に、納屋から焼酎を持ち出す。それと思い出したので、とある食パンを取り出す。ファミリーサイズ、3斤分という非常に横長な物。普通の八枚切りとかと比べるともっと横長、3.5斤くらいの横幅があるのではないだろうか。それと切り分けるパン切り包丁を持ち出す。
戻るとちょうど顔や手足を拭き終わり、サッパリとした表情をした一行が敷き物の上に座る所だった。
「では、こちらをどうぞ」
麦焼酎を件の一合(180ml)サイズのコップに注いで、一行に手渡していく。透明な焼酎にドワーフの皆さんは一瞬『水か!?』と戸惑っていたが、アルコールのニオイに気付くと酒だと一安心したのかその目を細める。
「さあ皆さん、お待たせしました。まずは酒と肴、心ばかりの物ですが長旅で乾いた喉を潤して下さい」
紙のレジャー用の皿にもやしを足したプルコギと唐揚げを適量、マオンさんと手分けして盛りつけて配る。僕とマオンさんは酒ではなく緑茶、食器として先割れスプーンを手渡すとドワーフの皆さんからどよめきが起こる。
「さあ、さあ!細かい話は後です。是非温かいうちに食べて飲んで下さい!話はそれからでも出来ますし」
僕の言葉にドワーフの皆さんがおお、と声を上げる。
「せっかくのもてなしとお言葉だ。『何も言わずに酒』、これぞ我らドワーフへの最高のもてなしとこの若者は心得ておる。まずはその気持ちと喜んで酒を胸と胃の腑に収めるんじゃ」
明るいうちから飲む、なかなかに贅沢な時間が始まった。




