第55話 まさかのリサイクルが大儲けですよ!
「パンを売る冒険者、ゲンタです」
僕はキメ顔でそう言った。
「お、おう…」
お爺さんが戸惑い気味にそれだけを呟く。
『ひゅるる〜』とお寒い風が吹きそうな、そんな雰囲気だった。女子小学生が主人公の某国民的アニメなら『ぽかーん♪』という効果音と共に顔に斜線が引かれているような場面だろうか…。
やらかした空気感の中、僕たちは雑貨屋を後にした。そう言えば今日はなんだか人通りが多い。商売人…というか物を売る人が多い町中で、少なくとも小売りをしないような大きな物が運ばれていく。
丸太みたいな物が目についた。何か建設でもするのだろうか、色々運ばれていく。マオンさんいわく『何処かで商家でも建てるんじゃないか』、なるほどそういう事ですか。しかし、これほど目立つ人数なり資材を目にすると言う事は『大きな工事になるね』とマオンさんがその規模を推測する。こういう時は辻売(道端で物を売る行商人)にとってはチャンスで、建築場所の近くで職人や人足たちの需要を見こんで売りに行くのだと言う。
大きな現場なら人も多い、なんせ重機とかが無い世界だ。人力で解決する、それには頭数がモノを言う。飲み食いだけでも大きな消費が生まれるだろう。
一方、僕と雑貨屋のお爺さんとの商談だが、ある程度ペットボトルの数が集まったらまた納品に来るという事になり、買取価格はなんと500mlの方は白銅貨十枚、2リットルの物は十五枚と日本円にしてそれぞれ千円、千五百円という事になる。
それをお店では500mlの方を白銅二十枚、2リットルを二十五枚で売ると言う。僕からすれば日本でゴミとして捨てられている物が値段が付く事にも驚きだが、それもこんなに高値が付くとは…。日本とここ異世界での価値基準や環境の差に驚くと共に、これが貿易って事なのかなと思う。
高校の時、ホームステイでオーストラリアから来た男子がいた。彼はオーストラリアにいる時は野球をしていたそうだが、日本でのクラブ活動では日本文化に興味がある感じで柔道部や剣道部に体験入部していた。そんな彼がお土産として買っていたのが木製バットだった。
「どうしてバットを?」
「オーストラリアではバットが高い、日本で買った方が安いよ。でも、グローブは日本で買うと高いね」
流暢な日本語でそんな事を言っていたのを思い出す。オーストラリアは『羊の背に乗る国』だったっけ?そんな事を中学の時の地理の授業で言っていたのを思い出した。それだけ牧畜が盛んなのだろう、肉を得る以外にも毛や革が手に入る。その豊富な皮革を使って皮革の服を作ったり、グローブを作るのだろう。地産地消なら他国への輸送費、人の手を経れば経る程にお金は発生するから日本で作って売るグローブが高値となるのだろう。
逆にバットに向いた木材がオーストラリアには無い、または少ないのかも知れない。あるいは製造する人や環境か…、何処に理由があるかは分からないが安く売るには障害がありオーストラリアでの木製バットは高価になるのだろう。
余っている物を不足している国や地域に。自国ではありふれた価値がそんなに無い物も他国では希少な物かも知れない。『なるべく安く仕入れ、なるべく高く売る』、商売の基本だが日本でゴミとして扱われるペットボトルが異世界では金を生み出す。
日本と他国ではなく、異世界とだがこれもまた貿易なのだろうか。しかし、大きな儲けになりそうだ。
…密輸容疑で摘発されたりはしないよね?
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後日、空になった500mlのペットボトルをナジナさんとウォズマさん、そして受付嬢の三人にも使ってもらう事にした。評判は上々でナジナさん達のような上級冒険者は普通の皮革製の水袋ではなく、水棲動物の皮革の水袋の為に防水処理をする必要はなく脂臭さは無いが革独特のニオイが付いた水を飲んでいた。しかし、ペットボトルならそれが無いので素晴らしいと喜んでいた。
一方、普段コップに飲み物を入れていた受付嬢たちが喜んだのはフタが出来るという事だった。フタをしたペットボトルなら事務処理中に誤って触れて倒れても溢れることは無いが、コップではそうはいかない。また、持ち歩く事も容易だとその機能性をありがたがっていた。
なぜ彼らに渡したかと言えば答えは簡単。実際に使っている所を見れば興味を持ち、従来の水袋よりこちらを使いたいと考える人が出てくるだろうと考えたからだ。いわばモニターであり広告塔でもある。
その使っている事自体が宣伝になる、先日の先割れスプーンと同じ戦略だ。ラジオもテレビもない異世界では、宣伝するには何かチラシのような物を張り出すか噂話…いわゆるクチコミしかない。
冒険者は儲け話に敏感だ、酒場で何気なく話している事が思わぬ儲け話につながる事もある。それゆえに噂話や与太話が集まる酒場は情報の宝庫である。ただ、その玉石混交の話の中から有益な情報に気付き自分が出来るかどうか見極める事が必要になるのだが。
だが、目に見える現物なら話は別である。これほどその有益無益を見極められる物はない。コレは売れる、ナジナさんをはじめとして全員が同意見だった。
『これならゲンタのダンナの緑茶を安心して飲めるぜ』なんてマニィさんが喜んでいた、自分の品を喜んでくれるのが嬉しい。
これが仕事のやりがいなのかなあとおぼろげにだが思う。お金を得る事もそりゃ嬉しいけど、仕事って基本的には人と接する。その目の前の人が喜んでくれるのはやはり嬉しい。
そう言えば、先日の宴会でお土産にしたクッキーはこれまた大好評、チョコクッキーに関してはなおさら。シルフィさんはチョコについて『何かの植物を使っているのは分かるのですが…』とチョコが植物由来である事は分かったようだが、どんな植物なのかは想像もつかないようだ。
ウォズマさんによると愛娘アリスちゃんが大喜びで、また遊びに行きたいと言っているそうだ。普段、引っ込み思案であまりそういう事を言わない彼女にしては珍しいとの事。
うーん、さすがはチョコレートクッキー。どの世界でも子供の心をがっちりキャッチ、ついでに言えばナジナさんの心も掴んでいた。チョコ、おそるべしである。
そんなチョコレートクッキーをはじめとして僕は様々なお菓子を後に売る事になるのだが、それはまた別の話…。
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次の日の朝もパンは完売し、ありがたい事にたくさんのお金を得た。この数日で二十数万円が儲かり、とりあえずその内の二十万円ほど預金した。残りは仕入れや、先日のように急な宴会をする事も予想されるから酒やスルメとかビーフジャーキーなどのつまみになるカワキモノを仕入れた。
パン以外にも半額になった肉類やプルコギの味付き牛肉を買った。何かあった時…、一番予想されるのは急な宴会だろうかそれに備えた。
いつものように受付の三人にマオンさん、二人の精霊と朝食を摂った。今日はこの時間の依頼者はなく全員揃って和やかに過ごす。
さて、そろそろお暇しようかなと外に出ようとした時にギルドに入ってきた人がいた。
「ドワーフだね」
マオンさんが呟いた。




