第44話 未知と出会う宴会(8) 宴の終わりに小さな袋、お土産です。
突如現れた光精霊をサクヤと名付けてみたところ、彼女はいたくそれを気に入ったようで僕と一緒にいてくれる事となった。
出した料理…、と言っても僕は缶詰の桃を切ったくらいしかしてないのだが、参加客は全て満足してくれたみたいで、みんな綺麗に完食していた。
接待側としてはホッとすると共に、今回の宴会が喜んでもらえたのがとても嬉しい。お酒もまた気に入ってもらえたようで、焼酎がここまで受け入れられるとは思わなかった。
中でもマニィさんは、これからは緑茶で割る酒だなと大変お気に入りになったみたいだ。また猫の獣人であるミアリスさんは、この町では高価な魚を食べる機会は滅多に無いので大根サラダにトッピングした程度だけどとても喜んでくれたのが印象的だった。
「まったく兄ちゃんは凄えな、酒も食い物も凄え!」
「ホントですぅ、あのワインまた飲みたいですぅ」
酔い潰れ静かになってしまった雑貨屋のお爺さんを抱えたナジナさんと、ロゼワインをすっかり気に入ったフェミさんが酔っ払い独特のやや大きい声で感想を言っている。
酔っ払いが複数いる場合大学のサークルでの飲み会の時での経験だが、みんなそれなりに酔っ払っているのに、何故か店を出て二次会に行くか帰るか路上にいる時などは自然と役割分担は出来てたりするもので大トラになる人、急に酔いが落ち着きなだめ役やフォローに回る人、中にはどっか行っちゃう人もいたりするけど…。
今この場ではナジナさん達男性陣の方はギルドマスターのグライトさんが、少しアルコールに弱そうなフェミさんがいる女性陣はマニィさんとシルフィさんがフォローに回っている。もっともフェミさん自身そこまで酔いが回っている訳ではなかったけれども、酔っ払い同士で役割分担がなされるのは日本でも異世界でも共通のようだ。
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宴の終わりに百円ショップで買った布の袋を帰り支度をしている面々に渡す。一人一袋、中にはチョコチップクッキーとミルク風味のプレーン(普通)クッキーが二枚ずつ入っている。もちろんマオンさんにもプレゼントだ。
「これはお土産です。中には焼き菓子が入っています」
「焼き菓子か!?こりゃ、いよいよお貴族様みたいじゃねえか!」
「ああ、来て良かっただろ。爺さん!兄ちゃんは凄えんだ!一体どんな物なんだろうな?」
雑貨屋のお爺さんとナジナさんがはしゃいでいる。
甘い物が貴重というのもあり、全員が甘党とは限らないが基本的に嬉しそうにしている。どんなんが入ってるんだろうな、とナジナさんは早くも興味深々である。
「じゃあ…、クッキーはあと二枚残ってますから、誰か代表して試食べてもらいましょう」
さて、誰に頼むか…。あっ、このメンバーなら一番角が立たないのは子供のアリスちゃんかな。
「じゃあ、アリスちゃん。これを食べてみてどんな味か教えてくれるかな?」
そう言って、僕はクッキーをアリスちゃんに手渡す。お、チョコチップクッキーだ。多分…、チョコはこの町には無いだろう。その味をどう評価してくれるだろうか、小さな子だけに言葉をあまり選ばずストレートな表現が来るかも知れない。さあ、どうなる。
全員が注目する中、アリスちゃんは緊張していたようにも見えたが、焼き菓子の魅力はそれを上回ったようで彼女はチョコクッキーを口にした。
「美味しい…、こんなの食べた事ない…」
小さい声だか、彼女は確かにそう言った。
「凄く甘いの…、少し苦いのもあるけど、キライじゃない…」
苦味はカカオ独特のかな、ミルクとかも入ってるからだいぶマイルドにはなってるだろうけど…。そうこうしてる間に彼女はクッキーを食べ終わった。
「凄く…、美味しかった」
はにかみながら彼女はそう締めくくった。
やはり、チョコチップクッキーはこの世界でも強かった。
「ねえ、アリスちゃん。焼き菓子じゃなくて、パンにこんな感じの甘いのが出来たら食べてみたい?」
「うん…」
じゃあ、チョコチップメロンパンとかも売れるかも知れないな…。おそらくチョコはこの世界には無い…、少なくとも、町中で出回るような物ではなさそうかな。そうなると、個人的には菓子パンコーナーで売れ残っているイメージがあるチョココロネが、一転してこの異世界では大ウケするかも知れない。
「分かった、いつかこの甘いのが出来たら持ってくね」
「…楽しみ」
アリスちゃんはチョコを気に入ったようで、来たばかりの時のように両親の後に隠れたりはせずに良い笑顔で返事をしてくれる。チョコは小さな子にも受け入れられたようなので、大人も…甘いものが好きな人には売れるだろう。
パン以外にも雑貨とか商品を売ってみようかな。もっとも、今の時点で販売しているのは冒険者ギルド内、先割れスプーンはお爺さんの雑貨屋にお願いする。お爺さんの雑貨屋は冒険者向きの物を売ってもらう感じだ。でも、一般の人向けの物はどうするかな、おいおい考えていこうかな。
「さて、あと一枚の焼き菓子は…」
どうしようかなと周囲を見てみると、ものすごい笑顔で期待した視線を送ってくる人物がいる。予想通り…、というか言わずと知れたナジナさん、その人である。
うーん、これはナジナさんに食べてもらうのが無難だろうか。
「えっと…、じゃあ残りの一枚はナジナさんに…って、あれ?」
クッキーを置いていたお皿にあったはずのクッキーが見当たらない。落としたか!?いや、お皿にのせてたんだから落ちたりはしないだろうけど…。
辺りを見回したが地面に落ちていたりはしていない。
「お、おい、俺の試食予定の焼き菓子はどこに…」
心配そうにナジナさんが辺りをキョロキョロしている。
「あ、相棒、上だ!」
ウォズマさんが何かに気付いたのか声を上げた。
そこにいた全員の視線が上に向く。
「サ、サクヤ…」
思わず僕の声が漏れた。そこには両頬をパンパンに膨らませクッキーを頬張りながら宙に浮く光精霊サクヤの姿があった。
「くぉんのクソガキがぁ!」
近所迷惑になる事間違い無し、大好きな甘い物を横からさらわれたナジナさんの絶叫がミーンの町に響き渡るのであった。
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次話、新たな出会い。
その次は恋の話でも…、頑張ります。




