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第289話 集いの輪。


 千客万来、そんな言葉がある。その言葉が意味するところ、それが今ここにある。


「うーむ、やっぱりやっていたかあ!!」


 太い木の棒に狩猟した(ワイルドボア)の両方の前足と後ろ足を縛って吊るしたものを担いで大柄な冒険者がやってくる。


「ナジナさん、ウォズマさんも…」


「相棒がどうしてもって聞かなくてね…」


 ウォズマさんが申し訳無さそうに言う。どうやらナジナさんはガントンさんやゴロナーゴさんなら飲んでいるはずだとにらんでやってきたようだ。そして今回はリョマウさんたちまでいる。全員が全員、揃いも揃って酒好きである。


「これだけの面子(メンツ)が一か所に集まっているんだぜ、酒盛りにならないはずがない!」


 一仕事終えたらすぐにも飲んでいるだろうと予想だったらしい。今回の一豊石(いっぽうせき)を使った石版や蒸風呂(サウナ)用の石以外にもマオンさんの使うパン窯の他にもう一つ一豊石の粉末を内部に仕込んだ窯を作った。


 窯の中で(たきぎ)を燃やし、中が十分に高温になった後に薪を外に取り出す。そしてパン(だね)を入れて窯の中の余熱で焼き上げるのだ。一方で一豊石はその石自体が熱を収束し溜め込むからより強い火力で、しかも遠赤外線の効果だろうか肉などに対して火の通りが非常に良くなるだろう…とガントンさんは予想していた。そんな訳でガントンさんはゴロナーゴさんを交えて朝から窯を製作。そしてリョマウさんたちは…、というよりゾウイさんがほとんど中心になって巨大鮒(ヒュージカープ)(さば)いて切り身にしていた。以前に譲った柳葉包丁を使いたくて仕方がなかったらしい。


「こ、こ、この包丁を思う存分使う事ができるがじゃ!」


 そんな訳で張り切っていたゾウイさんが朝早く仕入れた巨大鮒を次々と切り身にしていったものを僕は下ごしらえした。一通りの作業を終えて彼らは蒸風呂へ向かった。随分と長風呂だったのは汗を一滴でも多くかいた方が後で飲む酒が美味くなると頑張っていたらしい。


大剣(だいけん)双刃(そうじん)もよう来たのう。それは手土産じゃの?」


「ああ、飲むにしてもツマミがあった方が良いだろう?」


「まるまる太った良い猪だべ!」


「こりゃあ食い切れる量じゃないぜよ!」


「ははは、そうだろう!そうだろう!」


 ナジナさんが得意そうに笑う。


「坊や、蒸風呂(サウナ)はまだ十分に暑いはずじゃ。二人を入れさせてやってくれ」


「ええ、もちろん」


「汗を流した方がサッパリするし、酒も美味いぞい!ワシらはその間に猪を切り身にしておくぞい!」


「おっ!ワリいな、風呂させてもらってる間に働かせちまうみたいで」


「なあに、良い肉が食えるなら悪くない話じゃ」


 蒸風呂のある地下に向かう二人にガントンさんがそう声をかけた。


「坊や!塩と胡椒に、あの『なつめぐ』と『もみダレ』もあるべか?あ、あるなら是非…」


「ええ、ありますよ。納屋にしまってますから取りにいきましょう」


「うひょー!あの香辛料は肉に甘い香りサつくし、『もみダレ』は揉み込めば揉み込むほど味が馴染むべ…」


 ゴントンさんが立ち上がる。


「ゴントンの師匠(レーラァ)、私は『しおこうじ』の味も捨てがたいんですがねェ…」

「オイラはバラ肉のあたりを『みそダレ』で焼きたいでやんすー!」


 ハカセさんやベヤン君も次々に自分の好みの食べ方をアピールする。


「ええ、ありますよ。後でそれも納屋から出しましょう」


「な、なあ。坊やン?さっきから話に出てくる『ダレ』とかなんとかっちゅうんは?」


 リョマウさんが聞いてきた。


「坊や秘伝の味付けじゃあ。ワシらはそれまでこんな美味い猪の肉を食った事はない。しかも、その方法が一つではないのじゃ」


「なんだと!そんな美味い味付けが一つではないだとう!」


 ザンユウさんがガバッと席から立ち上がった。


「ガワナカ!ガワナカはおるかぁっ!」


「は、はい!先生っ!」


 近くにいたのだろう。すぐにガワナカさんが馳せ参じた。


「急ぎ宿から私の調理着をこれへ!私も調理に参加する!」


「はっ、はいっ!」


「バ、バラカイはんが猪を調理するやてっ!?こんな話が聞こえたら王都は大騒ぎになるでぇっ!」


 ゴクキョウさんが鼻息荒く叫んでいる。


「ほほう。果物食いのエルフが猪を見事調理出来るんかのう?」


「ふふふ、何とでも言うが良い。至極のメニュー、見せてやろうぞ」


 猪の皮を剥ぎ、肉を捌いているガントンさんがそんな軽口を叩くと受けて立つとばかりにザンユウさんが応じた。


 何やら盛り上がり始めた庭先、そこに三台の馬車がやってきた。降りてきたのはきゃっきゃっとはしゃぎながらやってくる兎獣人族(パニガーレ)の女の子たちとヒョイオ・ヒョイさん。


「ゲンタさん。すみませんなあ。おそらく内輪で飲まれるだろうと思っていたのですが…。猪を担いで冒険者ギルドではなくこちらの方に向かう男性がいたという噂を聞いてウチの子たちが居ても立ってもいられなくなったみたいでして…。ウチの蔵で寝かせていた酒を三樽ほどお持ちしたので是非この宴に加えていただけますと…」


 マオンさんが頷いている。


「ようこそ皆さん、さあ中へどうぞ」


 きゃあ〜と女の子たちから歓声が上がる。


「へへっ、酒に綺麗どころにデカい(にく)。なんでえ、ここには欲しいモンが全部揃ってらあ!」


「それもこれも中心にはあの坊やがいて回っておるのう」


 太陽はまだ傾き始めてもない時間、次々と人が集まり始めた。大きな宴になる、そんな気がしていた。





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