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第283話 黒い石の板。


「私は『金貨千枚』派だっ!」

「いーえ!こっちの蜜がトロ〜リの芋に決まってるわッ!」


 焼き芋を食べたエルフの皆さんが二つに割れて蹇々諤々(けんけんがくがく)の論争になっている。きっかけはごく些細な事だった。


「甘芋と蜜芋、どちらが美味いか」


 誰かが言い出したそんな一言、それが引き金だった。私はホクホクした甘芋が良いとか、蜜の多いネットリとした蜜芋が好みとかいう他愛もないものだった。しかし、いつしかそれが激しい言い争いとなっていった。


 甘芋を好むのは男性が多く、蜜芋を好むのは女性が多い。そんな二派に分かれての言い争いだった。ちなみにザンユウさんとゴクキョウさんはその論争には加わらず僕たちと話をしていた。


「あんさん。ああ、ゲンタはんやったの。この蜜芋にも二つ名をつけてみたらどうや?」


「二つ名…ですか」


「そうや。甘芋(スイートポテト)を『金貨千枚』と呼ぶようにや。実はワイ、この呼び方を始めた事には同じ商人(あきんど)として感じ入っていたんや。なんと言っても響きが()え!仰山(ぎょうさん)金子(きんす)を積まなアカン高級なモンやって子供でも分かる名付けや。『うちトコの芋は、そんじょそこらの芋とはちゃうで』って人々の心には残るしな」


「ふむう…。これは商人(あきんど)ならではの考えですな」


 別に個人的には蜜芋(ハニーポテト)の名前のままでも良いが…名付けか…。


「それにの、ゲンタはん。ワイはこの焼き芋っちゅうんは革命的な甘味(スイーツ)や思うとるんや」


「と、言いますと?」


「考えてもみなはれ。そもそも甘いモンちゅうんは…」


 ゴクキョウさんが語り始めた。砂糖なんてものはそりゃあもう貴重品、クッキーみたいなお菓子なんて貴族にでもならなきゃ口に出来ない。エルフ族は森林と共にあり、果実が収穫()れる季節にはその恩恵を享受(きょうじゅ)出来るがそれとて限られたタイミングと量しかない。そのまま食べるか、ジャムのように保存がしやすくしたものを食べるかの二択だ。


「それがこんな…、温めてやる事でハフハフ、ホフホフと…熱々のところを食べると言うのは未だかつて聞いた事がない!それに甘みがより強調されて…、アカン!また、食いとうなってきた。ゲンタはん、一個もらうで!」


 そう言ってゴクキョウさんは相談して新たに設定した焼き芋の価格、銀貨一枚を僕に握らせ鼻歌混じりで焼き櫃に向かった。手慣れたもので焼き櫃の横に置いてある適当な大きさに切った古新聞に(くる)んで蜜芋の方の焼き芋を取り出した。


「ゴクキョウさんは蜜芋派なのか…」


 とりあえず蜜芋の名付けについては今すぐでなくても大丈夫かな。もしくは甘芋の『金貨千枚』みたいに誰かが言い出すかも知れないし…。





「そういや…(ハフハフ)。あんさん…(もぐもぐ)。一豊石(いっぽうせき)て何を作るつもりなんや?」


 焼き芋を口にしながらゴクキョウさんが尋ねてきた。


「そう言えばその話をするところでしたね。一個だけ試作品を作ってもらったんですが、見てみますか?」


「もちろんや!あの石で何を作る気ィなんや?ただの溶岩が冷えて固まった石をあんさんがどう始末するんか興味湧くわ!」


 焼き芋を食べつつ身を乗り出すゴクキョウさん、その横にいるザンユウさんとヒョイさんも身を乗り出す程ではないが興味があるようだ。


「今、作っているのはこれなんですけどね…」


 そう言って僕はA4程の大きさの黒い板状の物を取り出した。厚さは1センチ余り、一見すると重たげな金属の板のように見える。


「これは…、黒い…」

「板のように思えるが…」


 ヒョイさんとザンユウさんが僕が取り出したものを見て呟く。


「あの一豊石を加工したんか?しかし、これを何に使うつもりなんや?」


 ゴクキョウさんが首を捻りながら僕に尋ねた。


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