第281話 故郷の石。
「なんちゅう事をしてくれたんや…」
そんな言葉を洩らしていたのはとうに老境に入っていると言っていい男性だった。身なりも良く、一目で裕福であろう事が窺える。エルフにしては珍しい…、と言うより初めて見るが剃り上げた頭部。いわゆるスキンヘッドである。
その男性は感動のあまり…といった感じだろうか、ハラハラと涙を流し手に持った芋には一口だけ齧った後があった。
「これは…ゴクキョウさん…。どうされましたかな…?」
知り合いなのだろう、その男性にザンユウさんが声をかけた。ゴクキョウと呼ばれた男性は涙を流しながらも饒舌に語り始めた。
「このお芋さん、上手に炊いたなァ…。芋も見事やが火の通りが抜群や…。ワイはなァ…、山林育ちのエルフなんや…。南方の…、それもやせた土地のな…」
火山から流れ出た溶岩が冷えて固まり、剥き出しの岩場も多い山林がゴクキョウさんの生まれ故郷であるらしい。生活していくには厳しい大地、そこでよく目にしていたのがこの黒い石だったそうだ。
「何の腹の足しにもならんこの黒い石がのう…、そこら辺にゴロゴロしてて…。そのせいでロクに実入りの良い植物は根付かなかったんや…。森を貧しくさせる黒い石、それがなあ…。それがこんなん美味いお芋さんを作るのに一役こうて…。甘い芋…、それだけやない!ワイにはなんかこう…懐かしいニオイみたいなモンを感じるんや。故郷で食う、何気ない糧のようにな」
そう言ってゴクキョウさんはリョマウさんを見た。
「あんさん…、リョマウさん言うたかの?あんさん、四分割地域の…それもトサッポンの出身やな、どないや?」
「あ、ああ。確かにそうじゃ。わしはトサッポン生まれ、四分割地域の南端部にある浜人じゃ」
四分割地域…、ここミーンの南方にある海にせり出した険しい地域らしい。その中心地からまるでバツ印を記したかのように山脈が切り立ちその地域を東西南北に四分割していると言う。その南側にある地域がトサッポン、リョマウさんたちの生まれた地域だそうだ。ちなみに浜人と言うのは浜の近くの出身者と言う意味、反対に山あいの出身者は山人と言うらしい。
「そうか…。それであんさん、浜はどこや?」
「カツランじゃ」
「ホ…、カツラン浜か!ワイの山はオゴウじゃ!懐かしいのう…。ほなら本物や、本物の故郷のニオイや…」
「おんし(あなた)はオゴウか!?カツランから川を上ればすぐそこじゃ、まっこと近いぜよ!!ははははっ!」
目を細めゴクキョウさんが懐かしそうに呟きながら再び焼き芋に嚙りついた。一方でリョマウさんは嬉しそうに笑った。
「オゴウの生まれで…、ゴクキョウ…?…もしや!?」
そばにいたチョウジウロさんが声を発した。
「あなたは…、オゴウ出身の大商人…ゴクキョウ・マンタウロ氏ではありませんかっ?」
「いかにも…。ワイがゴクキョウ・マンタウロや」
「や、やはり…」
何やら急に威厳ある雰囲気になったゴクキョウさん、そしてそのゴクキョウさんを憧れの人を見るような感じで見つめるチョウジウロさん。チョウジウロさんほど熱心ではないがリョマウさんやシンタウロさん、ゾウイさんもゴクキョウさんを見ている。
チョウジウロさんはリョマウさんたちと組んで商売をしている。話を聞いた感じではゴクキョウさんは成功を収めた大商人、同じ郷里の大先輩といった感じなんだろう。
「今日はあんさんたち若い人らにたくさん学ばせてもろうた。もし、何かあったら遠慮のう言ってや!川船頭なら荷を運べるやろうしな」
「そりゃあとってもありがたいきに!」
「商都に荷運びする機会があったらウチにも寄ったってや」
「是非、そうさせてもらいますきに!」
リョマウさんたちも喜んでいる。
「あ、それなら…」
僕はこの黒い石を使っての新たな商品作りを考えていた。
「この黒い石を加工して作りたいと考えているものがあるんです。あと三日くらいで試作品が出来上がる予定なのですが…、皆さんはまだしばらくこの町にはおられますか?」




