第279話 そのおイモ、金貨千枚につき。
ザンユウさんは焼き芋を堪能し、その間はずっと芋についての蘊蓄をひとしきり語っていた。そして、食べ終わるとガワナカさんに一声かけた。
「はっ」
その意図するところを汲んだガワナカさんは、これは芋の代金ですと僕に金貨を一枚差し出した。
(い、芋一個で金貨を?じゅ、十万円だぞ?)
そう思ってアタフタしている僕にザンユウさんは、
「主、良い芋だった。近い内にまた我らが同胞たちがこの芋を求めて集まるであろう。その時はまた寄らせてもらう、楽しみにしているぞ」
「あ、ありがとうございますっ!ザンユウ先生!」
やばい、思わず感動して食い気味に反応してしまった。もしかすると、あの有名なグルメ漫画でナントカ倶楽部を主催する食通の人に認められた料理人たちはこんな反応をしていたけど同じような気持ちだったのだろうか…。
「ふふふ、精進するのだな。…ガワナカ、行くぞ」
そう言うとザンユウさんは悠然と去っていった。ちなみにこの時の芋一個にザンユウさんが金貨一枚を払ったエピソードは瞬く間に広まった。また、地球での品種名『黄金千塊』の由来についての逸話といつの間にかごっちゃになっていた。この芋を食べた殿様がその美味さに黄金千塊(小粒の金の塊)を褒美に与えると言ったのが由来と言われる。その話が脚色され『どこか異国の伯爵が金塊千個を芋の褒美に与えち』と言う事になり、酒場の噂が面白おかしく話を大きく伝えてしてしまう。
「おい、聞いたか?金色の芋の話」
「聞いた聞いた!黄金みたいな見た目の芋らしいな」
「いやいや、違う!坊やの故郷じゃ実際に伯爵が金塊千個と引き換えにしたんだってよ」
「さすがにそんな訳はねえだろう?金塊だなんて…」
「いや、しかし…。あの有名な食通ザンユウが金貨を払って食ったらしいぞ!それも見た奴がいるって話だ」
「すると金塊千個ではなく、金貨千枚の価値って事か?」
「正しくはそういう事なんだろうな…」
「カーッ!俺も一生に一度は食ってみたいぜえ!」
気付いたらサツマイモは町の人々に『金貨千枚』の名で呼ばれるようになっていた。『黄金千貫』というサツマイモが、いつの間にか『金貨千枚』というブランド芋になっていた。噂話か、酒場の与太話か…、とんでもない尾ヒレがついたものである。
後日、冒険者ギルドにはカレーの時のように商会や商店からは様々な依頼が舞い込んだ。しかし、ブド・ライアー商会の相変わらず身勝手な取引条件など考慮に値するものはなかった。そこで僕は前回と同様、それらを相手にする事はなかった。
食べる事が出来たのは近しい関係にある冒険者ギルド関連か、布マスクを手縫いしに働きに来る子供たち。あるいはヒョイオ・ヒョイさんの社交場でだけであった。
いつの間にか、僕の護衛につく冒険者の人たちはナジナさんやエルフの皆さんをはじめとしてジャムとかサツマイモなど現物支給を希望する人ばかりになっている。皆さん凄腕の一日あたり一人五万円とか場合によっては十万円支払うぐらいの冒険者、その人たちがスーパーで買ったら千円しないくらいの品物で引き受けてくれる…。
所変われば価値変わる、その事を痛感しながら町を歩いていた。その時、猫獣人族の人が走ってきた。
「客人、こちらにいなすったか!」
「あ、ゴロナーゴさんの…」
鳶職の棟梁、ゴロナーゴさんの元で働いている職人さんだ。ゴロナーゴさんが僕を客人として扱うようになってからそう呼ぶ人もチラホラいたりする。
「親分から伝言でさあ!リョマウのダンナの船が荷揚馬に着いたそうですぜ!」
「えっ、リョマウさんが!」
川船頭の商人、リョマウさんの到着の一報であった。




