第275話 女子たちの別腹を満たせ!
「別腹…なんだよなあ…」
「うん、別腹なんだよねぇ…」
マニィさんとフェミさんがなにやら難しい顔をしている。
ここは冒険者ギルドの中、早朝のパン販売を終えいつものように朝食を摂っていた時の事。珍しく入手出来た半額のフルーツサンド一パック三個入りを一切れずつ受付嬢の三人が分け合って食べていた。
パンは一つ白銅貨五枚だが、フルーツサンドやタマゴサンドなど単価がお高めのものは倍の白銅貨十枚である。朝のパン販売のラインナップにおける高価格帯商品である。
高い、でも食べちゃう…。女性や甘党の冒険者の人がフルーツサンドの今朝の入荷があるか聞いてくる超人気商品でもある。しかし、そんなフルーツサンドにもマニィさんやフェミさんに言わせると一つ大きな問題点があるらしい。
それは別腹である事。彼女たちにとってフルーツサンドは食事というより甘味を食べている気分なのだそうだ。ゆえにお腹にたまらず他に何か食べたくなってしまうらしい。
ちなみに同じ受付嬢だがエルフのシルフィさんは果物も充分に主食に成り得るものだそうだ。
「別腹という気分は分かりますけどね」
しかし、そんなシルフィさんであってもそれらをついつい必要以上に食べてしまうらしい。そんな風には見えないんだけどなあ…。
「…となると、お腹にも溜まって甘さもあるものか…」
僕は考えを巡らせた。
□
翌日の日没後、僕は受付嬢の三人をマオンさんの自宅に招いた。ドワーフの皆さんもいる。
「へっへっへ!腹にも溜まって、甘い物かぁ〜」
「すまないね、ゲンタ君。相棒がどうしてもと聞かなくて…」
嬉しそうにしているナジナさんとすまなそうにしているウォズマさん。ネネトルネ商会の馬車の護衛に町を離れていたが今日の昼に無事帰還したらしい。二人は依頼完了の手続きの為にギルド立ち寄った時にマニィさんたちから今回の事を聞いてついて来たらしい。
「大丈夫ですよ、ある程度の量は確保しているので…」
そう言って僕は用意したものを入れてきた空き箱を見る。ダンボールには20kgの文字、それが今回用意したものの量である。
「おっ、そうかい!と、ところでよぅ。いったい兄ちゃんは何を用意したって言うんだい?」
身を乗り出すようにしてナジナさんが聞いてくる。彼ほどではないが受付嬢の三人もまたその姿勢は前のめりだ。期待の高さが伺える。
「はい、それはあそこに…」
そう言って僕が指し示した場所には夕闇の中、光精霊のサクヤによって照らされた急遽作った竈と燻る焚き火の跡。その上には石がたくさん詰まった鉄製の大きな桶のような物があり、激しく煤けたそれは直前まで直火に焼かれていた事を如実に物語る。
「あ、あれは…石?」
ウォズマさんが呟いた。
「これは竈の上で焼いた石…?」
「焼き石なんか食べられないよぅ…」
マニィさんとフェミさんが悲しそうな声を出す。しかし、落胆する二人をらよそにシルフィさんとナジナさんが反応した。
「いえ、二人とも落胆にはまだ早いッ!」
「ああ、俺の鼻は甘くて香ばしいニオイをビンビン感じてるぜぇ!!」
「そう、僕の用意した物はッ!!」
軍手をした僕の手が次々と焼き石を掴んで鉄製の箱の外に放り出していく。そしてお目当てのものを探し当てた。
「僕の用意した『お腹に溜まる甘味』、それはこれです!!」
そう言って僕は引っ掴んだ物を両手で持ち、二つに割った。中からは『ほかっ!』と音を立てんばかりに甘い香りを伴う淡い湯気が立った。
「こ、これはァァ〜ッ!!」
ナジナさんが叫ぶ。
「焼き石の中から湯気立つ何かが現れたァァ〜ッ!!」
ああ、ナジナさん。グルメ漫画顔負けの反応、ありがとうございます。さあ、僕が用意した物の皆さんの評価はいかに…?




