第272話 お爺さんの見立て。
手芸用品などを手広く扱っているお店で買ってきたジッパーと過剰供給気味になっていた猪の鞣し革。雑貨屋を営むノームのお爺さんがそれらを使って作った試作品のベストは試着してみたマニィさんによれば良い出来との事。
「うむうむ!これならいけるぜえ!若えのが持ってきた『じっぱー』もまだあるし、しばらくは人族向けに胴衣や短衣を作ってみるか」
何やらお爺さんが意気込んでいる。
「使っていただけるようで良かったです。ところで…、どうして人族向けのものから作るんです?」
「そりゃ、お前さんよう。この町に一番多く住んでるのは人族じゃねえか。それにな獣人族にしたって獣化していなければ体型は人族とそうは変わらねえ。それを基本にしてエルフ族なら細身に、ドワーフ族ならずんぐりと作ってやりゃ大体サイズも合うだろ。さあ、忙しくなりやがるぜ、慣れる為にもどんどん縫わなきゃならねえ。今夜からしばらく酒断ちして針仕事だぜ!」
「酒断ちですか、こりゃ凄いやる気ですね」
「おう、きっと欲しがるだろうって種族を思いついたのよ」
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翌日、再び僕はノームのお爺さんを訪ねる為に雑貨屋へ。そこで古着屋さんで買った革ジャンを手渡した。
「なるほどな…。これなら身体にピッチリと密着して何かに引っかかったりする事がねえ…。確かに思った通りの物が出来る。ありがてえ!手本にさせてもらうぜ」
お爺さんは上機嫌で革ジャンを眺めたり色々と細部を確認したりしている。
「そうだ!これな…、この『かわじゃん』はまだあるのか?」
「え、ええ。あと一着ありますけど…」
するとお爺さんはフム…と一声漏らした後にこう言った。
「なら、それも貸してくれ。冒険者ギルドに吊るしてもらうのよォ。よーく見える高くて良い位置にな。それで一声添えとくんだ、『坊や考案、かわじゃん!製作はノームの雑貨屋へ』…ってな」
「な、なるほど。でも、それで買い手が付くんですか?」
「買い手は付く!ったりめ〜よォ!!この見立て、ピタリと当たるぜえ!それこそ飛んで来るぜ、有翼族がなあ」
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雑貨屋のお爺さんが革ベストや革ジャンを作るようになってから数日もするとミーンの町の有翼族の冒険者たちがお爺さんの店に注文に走った。それこそ飛んで来た人も本当にいたらしい、これからだんだん暑くなる季節なので革ジャンを買う人はいなかったが、一緒にハンガーにかけて展示していた革ベストに注目が集まった。
有翼族の人は見た目には人族と変わらない。しかし獣人族の人が獣化するように、天使のような翼を生やす事が出来る。燕や鷹、隼のような速さで飛ぶのは不可能だがバサバサと羽ばたいて大木の上くらいまでは飛ぶ事が出来る。そこから滑空するように飛行すれば短距離ではあるが全力疾走より速いそうだ。
しかし、その飛行も簡単なものではなく、翼を強く大きくはためかせなければならない。そうなると鎧や服に留紐や金具があると接触してしまったり、そうなる事を嫌って大きく力強い羽ばたきが出来なかったりするらしい。
しかし、体の前側にジッパーを付け体にピッチリとフィットする革ベストは有翼族の人には都合が良いらしい。お爺さんと相談して夏が過ぎたら革ジャンやバイク乗りの人が着るような革ツナギを作る事にした。これもきっと売れるだろう。
「昨日は犬獣人族の狩猟士からも問い合わせがあったぜ。あいつらにもこれの良さが伝わったみたいだぜ」
様子を見に行ったら縫い物をしながら店番をするお爺さんが嬉しそうに言っていた。もっとも酒を飲むヒマが無いと残念がってもいたけれど…。
「まァた近いうちにあの『しょうちゅう』…だったか?アレを売りに来てくれ。針仕事の手が空いたら飲みてーからよォ」
僕は承諾し雑貨屋を後にした。すると入れ替わりに客が入っていく。しばらくの間、お爺さんは晩酌出来ないな…そんな事をおもいながら。




