第266話 世界樹の加護。
「そうですか、今日ここに来たのは精霊たちの噂で僕の持って来る食べ物の事を聞いたからだったんですね」
僕は古エルフ、または世界樹の精霊とも呼ばれるメセアさんと会話をしていた。心の中、あるいは頭の中というべきかメッセージを送ってくるメセアさんとの会話は当然他の人には分からないので僕が声に出して会話を成立させていた。ちなみにメセアさんは念話以外に頷くなどの行動でも示されていた。
「ほええ…。妖精ではなく精霊…」
「私も知りませんでした」
マオンさんが驚き、シルフィさんもまた頷いている。
「だから念話…だっけ?それを使って声を出さずに意思を伝えているんだね」
「はい、そうみたいですね」
「元来、精霊はごく一部を除いて言葉を発さないものですから」
「へえ、そういうものなんですね」
マオンさんとシルフィさんと他愛もない感想を話す。でも、そうなると…。
「やっぱりヒョイさんも念話を送ってもらって話を?」
「え、私ですか?いえいえ…」
「じゃ、じゃあどうやってメセアさんとやりとりを?」
「それは会話をして…」
「か、会話?」
僕が思わずメセアさんを見ると…、
「私…、話せる…」
「「「ええ〜ッ!?」」」
は、話せるんですか…。
こくり…。僕の心の声に反応したのかメセアさんが頷いた。
□
きゅううっ!
シャツの胸ポケットにいる闇精霊のカグヤが僕をつねっている。
「これが…一番…良い…」
そう言ってメセアさんは僕とマオンさんの上着…『エルフの服』を着ている。
報酬を支払ってもらう時に僕がメセアさんが世界樹の精霊である事を思い出し、金銭で報酬をもらうより他の精霊のように服に精霊の祝福を与えてもらう事は可能か尋ねたところお安い御用だと言うのでお願いした。
しかし、メセアさんが予想外の行動をした。
エルフの服に精霊の祝福を与えてもらう為にメセアさんに上着を預けると彼女は着ている服の上から羽織り始めたのだ。手に取って触れるだけかと思ったいた僕たちはとにかく驚いた。
それが気に入らなかったのか、シャツの胸ポケットにいたカグヤが僕の胸をつねる、痛いという程ではなかったけれど…。そしてメセアさんがしばらく着用して返された上着はどこか良い匂いがした。
「また…来る…」
そう言ってメセアさんはフッと姿を消した。おそらくシルフィさんの『瞬間移動』の魔法のようなものなんだろう。
「不思議な…人でしたね…」
「ええ…」
「御伽噺を見ているかのような気分だよ」
突如現れ、そして姿を消したメセアさんになんとも言えない気分になる。
「それにしてもヒョイさん、凄い人とお知り合いですね」
「ほっほっほ。ゲンタさん、年寄りには色々な知り合いがいるものなんですよ」
いつものようにヒョイさんは穏やかに笑っている。色々な知り合い…か、どういう関係かは分からないけど凄く珍しいコネなんじゃないかと思う。
それを色々の一言で済ますヒョイさん。うーん…、底知れない深みを持つ人なんだろうなあ…。そんなヒョイさんの一面を垣間見た一日、神出鬼没のメセアさんに会ったり…。それこそ色々あったなあ…。そんな事を思いながら自宅に戻るともう一つの出来事が待っていた。
「ゲンタの着ている服を貸して…」
カグヤがそんな事を言うので僕は適当なシャツを渡した。するとカグヤは今着ている服の上から僕のシャツを着込んだ。
「これで一緒…」
満足そうにカグヤは呟いた後、僕の手を取った。
「少し…座ろう?」
「う、うん。でも、しばらくしたらパンを買いに行くよ?」
「ん、知ってる…」
そう言うとカグヤは僕の腕を取って瞳を閉じた。少し眠るのだろう。
「カグヤ、最近どうしたんだろうな…」
小さなカグヤと壁際に座って毛布に包まる。ここ何日か彼女の接触が激しくなっている気がする。少し過剰気味かなと思うくらいに。だけど、それが嫌かというとそこまでではない。
「なんていうんだろう、必死過ぎるというか…」
そんな感じさえしているんだ。最初は小悪魔のような感じさえしていたカグヤ、そんな彼女が…。
「起きるまで今日は一緒にいるからね」
そう言って僕はカグヤを見守る事にした。それから彼女が目を覚ましたのは日付が変わるタイミングが近づいてきた時だった。




