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第264話 世界樹の妖精。


 ヒョイさんからの納品依頼を引き受けたところ、その数時間後にシルフィさんから風の精霊の力を使った魔法による通信が届いた。納品の希望日が明日になったという。


「いつでも用意出来ますよ、例え明日でも」


 僕はヒョイさんにそう回答していたのだが、それをヒョイさんが先方に伝えたところ『じゃあ明日』と返事が来たらしい。


「何ともフットワークが軽いと言うか…」


 僕はついついそんな事を呟いてしまう。


「それだけゲンタさんの用意する品が魅力的だという事なのでしょう」


 ヒョイさんとの交渉には必ず同行してくれるシルフィさんがそんな風に呟いている。


「そうだと良いんですが。万が一に備えていくつか他の品物も用意してあるんでなんとか気に入ってくれれば…」


「えっ?ゲンタさん、甘味以外にも何か?」


 シルフィさんが少し驚いたように呟く。


「はい。話を伺った感じでは気に入ってもらえるかな…と」


 僕なりに考えて用意した品々、それらを持ってヒョイさんが待つ社交場(サロン)に向かった。



「ゲンタさん。こちらは(ハイ)エルフ族のメセアさんです」


 ヒョイさんは僕に彼女をそう紹介した。


 ハイエルフ…?聞き慣れない単語が気にはなったが僕はとりあえず挨拶をした。その返事は無言の頷きだった。その対応は意思ある者が行う反応だったが、どこか浮世離れした…少なくともおよそ動物らしくないと感じた。


 とりあえずこのメセアさん、ショートケーキというお目当てがあると聞いていたのでまずはそれを出す。他にもいくつか用意した品があると伝えて僕は社交場のキッチンスペースに移動した。ここに来る前に考えていた品々を出す為だ。


「まさかこの目で古エルフ族を目にするとは…」

(わし)もだよ、と言うより初耳だけどね」


 同行してくれているシルフィさんとマオンさんがそんな呟きを洩らした。


「エルフ族と古エルフ族、違う種族…なんですね」


 一皿目の準備…、と言ってもパッケージから皿に移すだけだが用意しながら僕はシルフィさんにそう返事をしながらキッチンにいるもう一人の人に声をかけた。


「お願いします」


 そう言って僕は社交場の給仕(ウェイター)の人にサラダを盛り付けた皿を託す。


「我々エルフ族は別名『森の妖精』とも言われます。大きな範疇(くくり)で言えば妖精の一員です。それを言えばガントンさんらドワーフ族もまた妖精族、彼らドワーフ族が『大地の妖精』とも言われる所以(ゆえん)です」


 ガントンさんたちも妖精族なんだ…。


「そして古エルフ族ですが…、『世界樹の妖精』とも言われます」


「世界樹の妖精?」


「ええ。森に住む我々エルフ族と違って古エルフ族は世界樹の元に里を作り暮らしているとも、世界樹から生まれたとも言われています、真偽の程は分かりませんけどね。ただ、我々エルフ族には分かります。違う種族であるという事は…。そう言った訳でマオンさんが知らないというのも無理はありません、知る人などエルフ族以外にはほとんどいないでしょう」


 世界樹の妖精ハイエルフ…、よく分からないけど凄い話みたいだ。


「しかし、そんな人と知り合いって…、ヒョイさんって凄い人なのかな」


 僕がそんな感想を言っていると給仕の人が戻ってきた。幸いな事にサラダを盛った皿には残ったものは無く、綺麗に完食してくれた事を示していた。


「では、次はこちらを…」


 そう言って僕は次の皿にマオンさんで先んじて作っておいたどんこ椎茸の煮物を盛り付けたお鉢を給仕の人に渡した。


 その後も僕は料理を出していった。ほとんど皿に盛り付けるだけだったけど…。しかし、一皿だけシルフィさんが懸念した物があった。


「あ、あれはハンバーグでは!ゲンタさん、獣肉は我々エルフ族にもやや重い食材です!ハイエルフには…」


「大丈夫!…だと思います。僕を信じて下さい、シルフィさん」


「え、ええ…」


 僕の言葉にかろうじて納得したシルフィさん。そしてしばらくすると完食されて何も残っていない皿にシルフィさんが驚いている。


(ハイ)エルフ族は獣肉を食べると言うのですかッ?」


「いいえ、それは無いと聞いていますが…」


 戻ってきた給仕の人にシルフィさんが問うが返ってきたのは違うという否定。


「ふふ、あれは肉ではないんですよ」


 そう言いながら僕は最後の一皿を準備した。



「もしよかったら、お口直しにこちらを…」


 メセアさんはイチゴのショートケーキを完食こそしたものの諸手を挙げてといった感じの喜び方ではなかったように感じられた。


 その事が予想された僕は実はもう一品、甘味を用意していた。すると明らかにこちらの甘味に関しては食べるスピードが違う。


「ゲンタ、この甘味はなんだい?」


「これは芋羊羹(いもようかん)というものですよ、マオンさん」


「い、『いもようかん』?」


「はい、甘くトロリとした食感の芋がありましてね。それを潰して練り上げ、固めた甘味ですよ。後で家で食べましょうね」


 そう言っているうちにメセアさんは芋羊羹を食べ終えていた。


「それにしても…」


 メセアさんと同席していたヒョイさんが声をかけてきた。


「最初の甘味が予想に反してメセア殿には大当たりしなかった事が意外でした。しかし、ゲンタさんがさらに一皿準備している事に驚きましたが…」


「わ、私も…。ゲンタさんがまるでこうなる事を予想していたかのようで…」


 シルフィさんもまた僕がイチゴのショートケーキの後にもう一品用意していた事が気になっているようだ。


「ゲンタさん。もしよろしければ…」


 ヒョイさんが僕に語りかけてくる。柔和な笑顔だが声は真面目そのものだ。


「こうなる事を見越していた理由を教えていただけませんかな?」



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