第263話 商人の夢。
「そう言えば…」
冒険者ギルドで依頼票を見ていた時に疑問に思っていた事があったのでグライトさんに尋ねてみる事にした。
「この依頼票には商業ギルドのマスターの名がハンガスになっています。ハンガスって….、商業ギルドマスターの息子じゃありませんでしたっけ?」
「ああ、それはな新人…」
グライトさんは緑茶を飲みながら応じた。
「息子に後を譲ったんだよ。それで自分は王都に向かったんだ」
「王都に?」
「ああ。辻売(行商人)から始めて店を持ち、ミーンの商業ギルドのマスターにまでなった。足元を固めたから再び夢を追ったんだろうよ」
「夢を…、追う?」
「王都か、商都か…。そのどちらかに乗り込んで店を構える、それは商人なら誰もが一度は考える夢らしいな」
王都か、商都に店を構える…。日本人的な感覚で言えば地方で成功した企業が東京へ…、あるいは大都市に進出するようなものだろうか。そう言えば僕が初めて商業ギルドを訪ねた時に対応に出て来たのがギルドマスターだった。そう言えばヒョイさんが言ってたっけ…、新しい町に店を出す時は当主自らが陣頭指揮に立つものだと。既に構えている店は家族などに守らせ、新しい町には当主である自分が行くのだと…。
あの日、普通なら職員が対応するようなギルド所属の継続か新規加入の案件に関わってきた。確か…組合長とか持ち上げられてばかりだと現場の感覚を忘れる…みたいな事を言ってたっけ…。僕はギルドマスターのどこかで聞いたようなあの独特な口調を思い出した。
そして外出前にたまたま受付に来ていた僕たちの対応をしていたんだっけ…。もっとも外出する準備が整うまでの時間だったけど…、そういう意味では空いた時間を何かに役立てようとしているのは立派だ。もっとも後の対応を引き継いだハンガスが最低だった訳だが…。
「ゲンタさん、お客様ですよ」
そこにシルフィさんから声がかかった。
「ヒョイさん…」
そこにはシルフィさんに案内された社交場のオーナー、ヒョイオ・ヒョイさんが穏やかな笑顔を浮かべていた。
□
翌日、僕は社交場に人参や海藻類を荷車に積んで訪問した。納品とヒョイさんとの商談の為である。
「やはり…、これは想像以上でした」
ヒョイさんが目を細め、その周りには兎獣人族の皆さんや人魚族のメルジーナさんもいる。数に限りがあるので一人一つという訳にはいかないがイチゴのショートケーキなどを出した。それをヒョイさんをはじめとして皆で試食しているのだがその誰からも大好評であった。
「エルフ族が納得する程の甘味と小耳に挟みましてね、それならばとお願いしたい事がありまして…」
「と、言いますと?」
「実は古い馴染みの方がおりましてね、その方が近々この町にやって来るとの事でして。甘いものに目がない方なので…、ゲンタさんのこの甘味を是非とも納品をお願いしたくて…」
ヒョイさんの要望は分かったので僕はすぐに承諾した。お世話になっているし、断る理由も無い。
「ちなみにどんな方なんでしょうか?甘いもの以外にもお好きなものがあるのなら…」
「もちろんご説明しますよ。その方は…」
僕はショートケーキ以外にも気に入ってもらえるような品物はないかとヒョイさんに詳しい話を聞くのだった。




