第262話 春の祭のあと。
エルフ族の皆さんがミーンの町を旅立っていった頃、僕はいつものようにパン販売。無事に終わりギルド内で朝食を摂っていた。
サクヤたち四人の精霊たちは昨日食べたプリンを気に入ったようで、プリンが食べたいとおねだりしてきた。もっとも彼女たちは言葉を話す事が出来ないので必死のボディランゲージ、身振り手振りで必死にアピールをしていた。
そんな彼女たちの意思を読み取り、僕はプリンを皿に盛り付けたのだが…。
「ねえ、確かシルフィさんは精霊と意志の疎通が出来るんだから伝えてもらえば良かったんじゃ…」
僕がそう言うとサクヤたちは『あっ!』と声を上げるような表情で固まった。そんな平和な朝のやりとりをしていた時だった。
「な、なあ新人!!これをある程度の数用意する事は出来るか?」
冒険者ギルドのマスターであるグライトさんが声をかけてきた。
「は、はい…。出来ますけど…」
「そうか!ならば二十枚ほど用意してもらえるか?」
「分かりました、では後ほど…」
「おうっ!恩に着るぜ!!買値についてはその時に相談しようぜ」
グライトさんは『また後でな』と言い残して自室へと戻っていく。
「うーん、意外な物に買い手がついたなあ…」
僕は予想外の話の成り行きに驚いていた。
□
グライトさんが僕に求めた物…、それは皿であった。真っ白な四角い磁器の皿、この皿にプリンを盛りつけていた。サクヤたち四人の精霊がプリンを食べている時にこの白い皿が目に留まり声をかけてきたらしい。
なんでも近々グライトさんは王都を訪問する機会があるそうで、その時の手土産にしたいらしい。
「まあ、毎年この時期になると挨拶に行くもんでな。商業ギルドもそうだし、商会主とかも行くんだ。いつもは毛皮とかなんだが…、こんな見事な物があるなら今年はコレにしようと思ってな」
そこまで見込まれたこの四角い皿なのだが、仕入れ値としては無料である。その入手方法なのだが、有名なザキヤマ春のパンフェスタである。
スーパーやコンビニで販売されているパンの製造元であるザキヤマパン…、そのパンの包装パッケージにある点数シールを応募用紙に添付してお店に持って行くとお皿と交換してくれる催しである。
僕は毎日大量のパンを買うのでこの点数シールがとにかくたまっていた。それを応募用紙に貼り、スーパーに持って行って皿と交換してもらっていた。僕はどうにも貧乏性なのかこういうプレゼント企画についつい乗ってしまう。無料でもらえるという言葉に弱い僕はホイホイと交換に行ってしまうのだった。
「良かったのか?ホイホイ交換して」
大量の皿を持ち帰る度に自分でついつい口にしてしまう。元は一人暮らしだしお皿も枚数は必要ない。しかしもらえる物はもらってしまう、そんな自分の貧乏性が今回は役に立った。無料で入手したものに値がつくとは…、まさに丸儲けだ。
僕はグライトさんと皿の値段を決める事になったが、二十枚で銀貨二枚(日本円で二万円)にした。その価格設定にグライトさんは非常に驚いていた。
「いつもギルドにはお世話になっていますから」
僕はそれだけ言ってグライトさんに皿を引き渡した。元値はタダだし、僕としてもこれ以上の値をつけるのは遠慮したかった。
「これを銀貨二枚…か、すまない。俺は正直…毛皮や牙とか武具の類なら価値は分かるが、こういった物は詳しくはない。だが、それでもこの皿が凄い事くらいは分かる。それを…」
グライトさんは随分と神妙な顔をしていた。
僕はそのあたりについてはお茶を濁しながらグライトさんとの話し合いを終わらせた。役に立てれば良いな。
「そう言えば新人。商業ギルドからの依頼は受けるつもりは無いんだろ?」
「あ、はい。そうですね」
「商業ギルド…、あのハンガスは馬鹿な事をしたもんだな。これだけの腕利きを追い返したんだからな、それが依頼を受領されない一因なんだからな。商人に言わせれば絶好の商機を逃した…ってトコか。ウチは間口が広いのが売りだからな、思う存分にやってくれ」
グライトさんがそう言って銀貨二枚を手渡してくる。
「はい。ありがとうございます」
「それと…、改めてウチの三人娘の事もよろしく頼むぜ。泣かせるなんて事は無えと思うがな」
「はい…って、えっ!?」
「アイツらも良い男と出会ったモンだ。いきなり三人の嫁取りとなると大変とは思うが、お前なら大丈夫だろう新人!楽しみにしてるぜ、はっはっは!!」
戸惑う僕と豪快に笑うグライトさん。シルフィさん、フェミさん、マニィさん…、僕が嫁取りかあ…。今でないにしても…か。
僕は…、どうするか…。




