第255話 その店はセブン・エルブン(後編)
明け方、目覚ましの音が鳴る。
「おはよう…」
「ん…、おはよう…」
眠そうな声を上げながらモゾモゾとカグヤが布団の中で動く。
「ねえ、カグヤ?」
「…ん?」
カグヤは僕の胸元にしがみつきながら返事をした。
「せっかく昨日、布団セットが届いて別々に寝てるんだから。こっちの布団に潜り込んで来ちゃダメだよ…」
カグヤは僕の胸に顔を擦りつけながら言った。
「イヤ?」
「イ、イヤじゃないけど…」
「…ふふ。私…誰にも言わないよ?…シルフィにも」
「そういう問題じゃなくてね…。あと、なんでシルフィさん?」
なんだろう、最近カグヤが色々と激しい。
□
早朝のパン販売を終えていつものように朝食を囲む。今日はパンに加えて試食用に持ってきたイチゴなども食べる。サクヤたち三人の精霊は紙のお皿に盛ったイチゴを喜んで食べているが、なぜかカグヤはそのイチゴを僕に手渡した。
『ねえ、食べさせて?』
僕を見上げながら、カグヤの口元がそう動いたように思えた。
通常、精霊と交信できる者…、つまり精霊使い以外では精霊の声を聞く事は出来ないと言う。つまり僕に精霊の声は聞こえない。しかし僕に聞こえる声を発する事が出来ないだけで、精霊は口を動かす事は出来る。
だからカグヤは僕にその唇を見せて意思を伝えてくる。僕がイチゴを指でつまんでカグヤの口元に持っていく。くす…、そんな静かな笑みを浮かべてイチゴを食べ始めた。
「さて…」
僕はシルフィさんとエルフ族の人々を迎える為の打ち合わせをする。まだ見せていなかった果物や料理法を見せた。すると、やはりエルフ族は水果も堅果も好むとのこと。野菜や豆なども好き。調味料も塩より醤油や味噌を好むようだ。醤油を使った煮物などもウケが良かった、…砂糖も多少は入れていたけど…。考えてみれば、どんこ椎茸を焼いて醤油をかけて食べたものもエルフ族のみなさんは気に入っていたようだし醤油を売るのも良いかも知れない。
「あと、皆さんミーンに住んでいる訳ではありませんので…」
「ああ、今度集まる人たちは冒険者をしていたり、ミーンに立ち寄ったりする人だもんねえ。携帯食みたいな物が喜ばれるかも知れない」
シルフィさんの言葉にマオンさんが意見を述べる。
「干肉みたいに保存がきくものか?」
「マニィちゃん、ジャムはどうかなあ?」
マニィさんとフェミさんが話に加わる。僕は二つ目のイチゴをつまみカグヤの口元に持っていった。
「なるほど…、持ち運べて保存がきくものですか…」
ドライフルーツとか、ナッツを忘れず仕入れよう。…しかし。
「商品の目星はつきました。…やはり問題は、初めて会うエルフ族の人たちに買ってもらえるか、料理を口にしてもらえるかですね…」
「それについては私に腹案が…」
シルフィさんが打開策を思いついたらしい。それと、エルフ族の人々を迎える場所についても。さすがに僕が営利目的で商売をするのに冒険者ギルドの中を間借りすると言うのもいかがなものか。そこはシルフィさんにお願いして場所の手配をしてもらった。ありがたいものだなあ…。
考えていけばいくほど、またまだ他にも売れそうなものもある。売れるかどうか…、それはシルフィさんをはじめとしてフィロスさんやセフィラさんたちに感想を聞く事にしよう。そしてもう一人、僕には強い味方がいた。
□
二日後、ミーンの町の日除地でもある広場に僕とマオンさん。そしてシルフィさんにフィロスさん、セフィラさんたち五人のエルフの姉弟がいた。全員で黄緑色の半袖ポロシャツを着ている、言わばお店の制服である。
それだけではない。四人の精霊たちも胸を張り、僕のそばにいた。屋台にはクリームシチューやえのきやぶなしめじのバター醤油炒め、どんこ椎茸の煮物もある。
なぜ煮物を作ったかと言うと、カグヤの発案だ。日本に戻り二人で作る料理について相談していたらコンニャクと厚揚げに興味を示した。
そこでカグヤの感性に従いコンニャクと厚揚げを買って、どんこ椎茸と合わせて簡単な煮物を作った。
「これは売れると思うよ」
カグヤはそう感想を言い、タッパーに入れてミーンの町でシルフィさんたちに食べてもらうと美味しいと言ったので間違いないだろう。
そして以前この広場でカレーの屋台を開いた時のようにガントンさんたちに支柱を二本立ててもらい、ゴロナーゴさんが器用にそこに登って布をくくりつけてくれた。
以前のように縦に読む幟旗ではなく、二本の支柱に布を結び付けて横に文字を読むようにした。よく観光地にある来訪者を歓迎するようなアーチ状のアレだ。そこにはシルフィさんによって書かれた文字があった。
『歓迎!!同族たち!!奇跡の店、七人・森妖精族』
□
「俺たちは先に飲ってるぜえ!」
支柱を立て、布をくくりつけてくれたガントンさんたちやゴロナーゴさんたち。広場の一角で酒を飲み始めた。
そこにエルフ族の人々が入ってきた。やはりと言うか何と言うか、全員が美男美女。うーん…、良いなあ。
おっと…、感動している場合じゃない。ここからが…、僕の仕事だ。




