第252話 人がいない。物がない。
令和ニ年、四月末。
一月末くらいに話題になりはじめた新型コロナ肺炎。わずかずつではあるが感染する人が増えてきている。個人的に一番ショックだったのは、少し前の話になるが有名な男性コメディアンの方が亡くなった事だ。
小さな頃からテレビで見る事が多かった。亡くなったという一報の後、若い頃の活躍をまとめたニュース番組の映像や追悼特番を見ると僕が生まれる前から活躍されている事を痛感する。ネットではこれまた追悼と銘打って出演していた番組がアップされていたりもした。老若男女に愛されていたんだなあ…。
感染者数が増えて、町は緊急事態宣言のまっただ中。大学は教室での授業ではなく、ネットを用いたオンラインでの授業に切り替えようとしている。だが、まだ環境が整わないのかまだ始まってはいない。大学では居酒屋や24時間営業のファミレスでのバイトが無くなり困っている人もいるらしい。
「こんなに立派な建物が多いのに、人が…いないね…」
駅前を歩く僕にそんな声がかけられる。
「うん。でも、普段なら人がいっぱい歩いているんだよ。カグヤ」
僕は手をつないで隣を歩く少女に声をかけた。
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駅の南口のロータリーから伸びる道を行くと、しばらく行った先でT字路の交差点に突き当たる。現在の時刻は午前11時頃、それなのに町に活気は無い。
「あれが赤く光っている時は渡ってはダメだよ。青になったら進んでも良い、ただし周りを見て安全かどうか確認してからね」
僕はカグヤに信号の見方を教える。駅前付近を歩きながら買い物をする為だ。先日、例の古着屋さんで格安の子供服を見かけた。白いブラウスに紺色のベストとスカートに白いハイソックス。あまり可愛らしさを追求しまくったり、派手な格好をさせるより長い黒髪に白い肌、何より整った顔立ちの彼女にはこういう服装の方が似合うと思ったからだ。
靴は爪先が少し丸まったものだ。童謡『赤い靴』に出てきそうな靴、ただし色は黒だけど…。可愛い子って結局何を着ても似合うんだよなあ。
「どうかした?」
カグヤが小首を傾げる。
「うん、カグヤ可愛いなって思って」
「今頃気付いたの?」
「いや…前からそう思ってたよ」
「そう」
そんなやりとりをしていると、信号が青になったので二人で渡り始める。しかし、日中の駅付近なのに僕たち以外には誰もいない。ビジネスマンも学生風の人もいない。
オフィスビルには照明がついているし、夕方開店の居酒屋でもなければ店は確かに開いている。 しかし、人がいないのだ。生活の痕跡はあるものの人々がいなくなったゴーストタウンのようだ。
お目当てのスーパーに着く。カグヤにとっては初めてのスーパーだ。
「普段、僕はここでパンを買ってミーンの町に持っていくんだよ。最近はパンだけじゃないけど…」
そう言ってパンコーナーに向かう。
「うーん、やっぱり…。日に日に少なくなる」
値引きシールを貼ってあるものを優先、それと人気のあるコロッケやメンチカツなどがはさんであるものを買い物カゴに入れていく。しかし、なかなか数は集まらない。緊急事態宣言によりいわゆる在宅ワークが始まったり、学校がお休みになったりして町中から人が減った。そして自宅で過ごす人が増えた事で、パンやインスタント食品などすぐに食べられる物の需要が増えた。働いている時ならば、勤務先近くで食べていたのだが在宅ワークとなればスーパーで買った物を食べるという訳だ。
人流を抑える為に通勤しなくても出来る業務なら自宅で…政府などはそう呼びかけているが、どうしてもそれが出来ない業種だってある。学校が休みになると給食にありつけない、そうなると両親共働きの場合は昼食を作ってやれないので子供にパンや冷凍食品などを用意する。
新型コロナの影響が顕在化してから様々な産業で影響が出て、基本的に昨年同月と比べると売り上げは下がっているが、スーパーなどでは逆に上がっているとの事。コロナ前までは外で食事していたが今は家庭で食べるようになり、その分だけ小売業の売り上げが伸びたのだろう。
「こっちもか…。厳しいなあ…」
インスタントラーメンのコーナーには『お一人様、1パックまで』と書かれた紙が貼られている。売り切れとなっている商品もある。とりあえず僕はとんこつ味のラーメンを買い物カゴに入れた。
この品薄の状況がどうなるかはわからないけど確保出来る物はしておきたい。それと、パンが仕入れられなくなった時に備えて他に何か売れないかと言う事も。
パン以外の炭水化物なら米か?パスタとかの麺類か?
ゴールデンウィークが来る。となると生産体制を変えるなんてのはやりにくいだろう。やるにしても連休の後か?
状況が好転しない時に備えておく必要があるな…。




