第248話 嫁が三人。他にも幼女と自称嫁。
その日の夕方…。
マオンさん宅の庭に人が集まり始めた。フィロスさんやセフィラさんたちエルフパーティの五人。当然、ガントンさんたちもいる。さらにギルドの受付の仕事を終わらせたシルフィさん、マニィさんとフェミさんもやってきた。
そして、もう一人…。
「き…、来ちゃった…」
スキンヘッドに口髭、元戦士らしくガッチリとした体格…。先程のセリフがとてつもなく似合わない人の一人、冒険者ギルドマスターのグライトさんだった。
そう言えば、前にもこんな事があったような…。
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「でも、まあ話が早くなったかな。グライトさんがいてくれれば…」
フィロスさんの冒険者復帰、それも二つ名持ちの凄腕だ。ギルドとしても歓迎すべき事だろう。さっそく、シルフィさんがグライトさんとフィロスさんの間を取り持ち話をし始めている。
フィロスさんやセフィラさんを招くのに同じエルフのシルフィさんを招かないというのも何か変な話だし、そうなるとシルフィさんを招いているのにマニィさんとフェミさんを呼ばないというのもこれまたカドが立つかも知れない。…いや、立ちはしないだろうけど…、人の心はどう動くかなんてのは分からない。波風なんてものは立たない方か良い、これでも僕は意外と気を使っていたりする。
そんな訳でシルフィさんたちが夕食にやってくる事になった。グライトさんはそれをどこかで聞きつけたのだろう。それで一緒に…『来ちゃった』という事のようだ。
……………。
………。
…。
薄暗くなり始めた町の中だが、このマオンさん宅の庭は昼間のように明るい。サクヤが呼んできてくれた三人の光精霊のおかげである。
わざわざ夕食に招くと言うなら豪勢なものになるに違いない、ガントンさんたちドワーフの一行はそう判断したようで、酒のつまみか主菜か…とにかくその為に森に狩りに向かった。セフィラさんたちもそれに同行した。彼らは二刻(約四時間)ほどで猪と鹿を狩って帰還した。
僕は彼らが狩りに行っている間に日本に戻った。精霊たちに留守中の守護を任せる。マオンさん一人では危険かも知れないが、精霊は本気で戦うと強いらしいので頼む事にした。
日本から戻ると人参やジャガイモなどクリームシチューの用意をしていく。それと今回は野菜やキノコ類を多めに買ってある。エルフの人が多いのがその理由だ。
シチューに入れる以外にバーベキューで使う金串にたまねぎを厚めに輪切りにしたものやどんこ椎茸を刺しておく。これは食べたい人が自分で焼きながら食べてもらう。好評だったのでぶなしめじやえのき茸もたくさん買っておいた。やはり今日もまたキノコのバター醤油炒めはエルフ族の皆さんを中心に大好評であった。
「この強い酒は初めて飲むが、変わっておるな。蒸留酒か、それに薬草か香草か…香り付けをしておるの」
初めて飲むジンにガントンさんがそんな感想をもらす。日本ではジン・トニックをはじめとしてカクテルのベースになる事が多いジンだが、ドワーフの皆さんはジンをそのまま飲む。アルコール度数が高い事、彼らはそんな酒を好む。美味い酒である事、それも大事だがドワーフ族は同じくらい強い酒というのも好む。彼らにとって良い酒とは、美味くて強い酒という事になるらしい。
すっかり気に入った揉みダレや塩麹ダレを使って昼間に狩猟してきた猪や鹿の肉を焼いて食べている。その焼肉好きなドワーフの皆さんやグライトさんに混じりホムラは香辛料を聞かせた焼肉を、セラは酒を飲んでいる。
一方、サクヤとカグヤは果物や甘いものが良いらしい。イチゴジャムをさっそく楽しんでいる。こちらは野菜や果物などを好むエルフの皆さん側の席に近い。
「それにしてもシルフィお姉様、決心されたんですね。ゲンタさんとの結婚」
セフィラさんがシルフィさんにそんな声をかけている。そう言えば朝方の冒険者ギルドでシルフィさんははっきりそう言っていた。い、良いんですか?結構人生の一大事だと思うんですよ。
「うう〜。ブラァタの群れを狩る事が出来て、これだけの商品を用意出来て…。しかも物流とか物凄く限られている山深いミーンでこれだけの品を用意できるのよ、ジャムはともかく、野菜も茸も生よ、生!干したものじゃないの!!それを揃えているなんて!凄腕なんて言葉じゃ足りないくらいの商人よ。これでかけだしの商人だなんて…。シルフィ、凄い人に嫁ぐのね…。しょ、正直言って当たりも当たり。大当たりの旦那様よ!!」
フィロスさんが何やら呟いていたと思ったが、急に真面目な顔になる。
「あ、あの…。ゲンタ…さん?ふ、二人目とか三人目とか考えてたり…します?わ、私もそろそろ…いや、いい加減…、とっくに?み、身を固めても…い、良いかな…みたいな…」
「お姉様!」
「な、何?シルフィ…ちゃん?」
「すでにゲンタさんは他にも手鏡を渡している相手がいます」
「えっ?えっ?わ、私知らないよ、それ。そ、それにゲンタさんまだ…じゅ、十九歳って言ってたし…。じょ、冗談よね?まだ早いわよ、何人も…ほ、他にもお嫁さんがいるなんて…」
すっ…。
すっ…。
マニィさんとフェミさんが少し照れ臭そうに以前プレゼントした手鏡をとりだした。きらり、硝子製の鏡面が光る。
「ぎゃあ〜。め、目がぁ〜!目がぁ〜!!」
手鏡が反射した光にやられたのか、フィロスさんが瞳をおさえてジタバタともがく。
「う、うぐううう。そ、そんな…。私より明らかに若い子が嫁いでいくなんてぇ…。うっ、うっ、うっ」
それは嗚咽ッ!いや、慟哭であった…。
「ほう…、坊やの嫁取りか…」
「ウチの受付が三人共か…。いや、しかし…。新人、これからもより一層の付き合いを頼むぜ」
焼酎のストレートを飲みながらガントンさんやグライトさんがそんな事を言っている。
「あっ!そう言やぁ、坊やには他にも嫁ッ子がおったべ。ホレ、あの『双刃』の小さな娘ッ子!確か、五歳か六歳か?嫁ッ子サなるって坊やの袖サ離さなかったべ!」
「ぐはあッ!ご、五歳、六歳で旦那様になる人を決めてるなんて…。わ、私より三百年以上早く…。も、もうダメ…、私。…ぐふっ!」
「ああっ!フィロスさ〜ん!!」
ゴントンさんの話に大きなショックを受けてしまったのかフィロスさんが崩れ落ちた。
「ああ!旦那様と言えば人魚族の歌姫、名前なんて言ってたべか!?」
「ぷはぁ〜、たしか…メルジーナと言うておったのう」
何かを思い出したようにゴントンさんがメルジーナさんのことを話し、グビグビと酒を飲み干して一息ついたガントンさんが応じる。
「おお、それそれ!あの娘も坊やを旦那様と呼んで…」
「ガフッ!…ヒュ〜、ヒュ〜…」
「ゴ、ゴントンさ〜ん!もうやめて〜!フィロスのライフはとっくにゼロよ!」
……………。
………。
…。
その後、全員の必死の介抱によりフィロスさんは息を吹き返した。誰もが『フィロスさんの前で結婚の話はしてはいけない』と痛感した瞬間でもあった。
その後、商人として僕は一人のお得意様を得た。独身のやけ酒に葡萄酒とつまみををよく注文する人が新たに加わったのだ。
その人の名は…。
「魔法にはちょっと自信があります!『魔法姫』のフィロス、十七歳です!」




