第246話 ブラァタ素材の切り分け。
246話かあ…。
そう言えば246といえば神奈川県を東西に横切る国道ですよね。よく走ったなあ、そんな事を思い出します。
「うーん、これは大きめの肩当てにして…装甲は厚めで…。いや、むしろこれだけ深みもある形の物もあるのなら二枚…いや三枚重ねにしても良い。代わりに胸当ては…」
先程までとはうってかわってフィロスさんがブラァタの背甲を切り分けたパーツを真剣な眼差しで調べている。どうやら自分用のブラァタ素材で作った防具のアイディアを考えているようだ。
しかし一つ、大事な事がある。フィロスさんが肩に当てていた大ぶりな肩当の部分、それフェミさんの防具の胸当の部分です…。
「胸当はこれで…。あの、ゲンタさん…。黒色ブラァタだけでなく、茶色のブラァタもあったりしますか?」
「はい、ありますよ」
「では、そちらも分けていただけませんか?」
「良いですよ。在庫は保管してありますので。この黒色ブラァタの素材を切り分けてもらったのもその方たちで…」
「それは凄いですね」
「ですよねー。あっ、噂をすれば…。皆さんお疲れ様です、緑茶淹れますね」
そこに一仕事を終えたガントンさんたちがやってきた。休憩の時間である。
「紹介しますね、こちらは『魔法姫』フィロスさんです。フィロスさん、こちらは…」
そう言ってフィロスさんとガントンさん一行を紹介する。また同時にガントンさんたちによってブラァタの素材を綺麗に切り分けられた事も伝えた。
「この見事な切り口を…。扱いが難しい素材なのに…」
「ほぉ…、物を見る目が確かなようじゃ」
「ゲンタさん、是非とも黒色と茶色のブラァタの素材を私に譲って下さい。そしてそれを切り分けてもらえれば…」
「ふむ。ワシに異存はないわい。坊やの好きにすると良い」
そうなれば僕としても断る理由はない、フィロスさんの申し出を承諾する。そうなると話は早い、どんな防具にしたいかというのは既にフィロスさんの頭の中に浮かんでいるようだ。
それをガントンさんたちに伝えたそうにしていた。しかし、感覚的な部分など伝えにくい事がある。そこで僕はフィロスさんに絵に描いて説明してはどうかと提案した。
プリンター用紙と鉛筆、これをフィロスさんに手渡すと彼女はとても上手にデザインを描き始めた。合わせて注意点なども箇条書きにしてある。ほほう…、大ぶりな肩当の三枚重ね、胸当と背甲は黒色ブラァタの甲殻を使って…他の腰くらいまでの部分は茶色のブラァタの甲殻を使うんだ…。
「これは分かりやすいべ」
「よし、ちょっと待っておれ。素材を取ってくる」
そう言ってガントンさんたちは地下の素材を保管しているするスペースに向かった。
「ゲンタさん、この白い紙と筆記用具も是非お分けいただけないでしょうか?」
「もちろん良いですよ」
そうこう言っている間にガントンさんたちがブラァタ素材を持ってきた。羽の部分は既に切り取られている。
「黒色ブラァタの甲殻はの、確かに硬いが…」
むっ!ガントンさんは一声唸ってブラァタの脇腹に小刀を刺し込む。脇腹の…、見た感じ腹側と背中側の境目なんだろうか。そこに入った小刀をスーッと引くとブラァタが綺麗に二枚おろしになった。
「す、凄い」
「コツがあるんじゃ。黒色ブラァタは確かに硬い。だが、刃が刺さる部分があるんじゃあ!そこに小刀を刺し入れて一気に…引く!!」
なるほど…。そうするとああやって腹側と背中側に綺麗に切り分けられるんだ。それを繰り返して三匹のブラァタを切り分けた。それをベヤン君、ハカセさんが家の裏手に向かった。井戸かな、洗い流す物もあるだろうし。
「次は茶色ブラァタじゃ。こいつはの…」
ずぶり!先程と同じようにガントンさんは脇腹に小刀を刺し入れてわずかに切れ目を入れた。すかさずそこに残っていたふたりの年上のお弟子さんであるアブサさんとドカベさんがそれぞれ薄いが頑丈なフックを入れてそれぞれ上下に引っ張る。そうした上でもう一度ガントンさんが先程と同様にブラァタを切り裂いていく。
「黒色ブラァタと比べて柔らかくての。もっとも…生皮のようにただやわらかいだけではないわい。柔らかでありながら、鞣し革より遥かに丈夫じゃ。並の刃物ではスパッとは切れん」
「んだ。だから切れ目を入れたらそこを左右に引っ張りながら切るだよ」
ガントンさん以下、四人がかりで綺麗に切り分けられた。
「黒色ブラァタ、洗ってきたでやんす〜」
「ご苦労、次は茶色のブラァタを頼む」
ガントンさんは受けとった黒色ブラァタと入れ替えに茶色のブラァタをベヤン君たちに渡す。そして自身は僕が貸した鉛筆でブラァタの甲殻に線を引いていく。
「ゴントン、出番じゃ」
「応っ、兄貴ィ!」
ガントンさんに代わりゴントンさんがブラァタの素材に向かう。ゴントンさんは愛用の得物である両手持ちの大斧を迷い無く振るった。スパッ、スパッと次々にブラァタの甲殻が切り分けられていく。
「凄いわ!あり得ない!普通こんな硬い甲殻に斧を振り下ろしたら切れるかもしれないけど、硬い物は同時に割れ易くもあるわ。それをこんなに綺麗に…、少しの欠損も無く…どうして?」
分からないといった感じでフィロスさんが呟く。
「そうか…。この世に切れぬ物は無し、さすが『剛断』のゴントンさん」
僕が感心しているとゴントンさんは照れたように返事をしてくる。
「こっ恥ずかしいだよ。動かない据え物切りでそんなに持ち上げられちまうとよォ」
そんな時、ベヤン君たちが茶色のブラァタを洗い終えて持ち戻ってきた。
「その茶色のブラァタは吊り下げて四隅を引っ張るだよ」
ああ、なるほど。安康の吊るし切りみたいにして切り分けるんだ…。
「ならワシは肩当を組み上げるか。坊や、精霊たちに頼んでこの桶に熱湯を、こちらの桶には水を入れてもらってくれ」
「分かりました」
言葉通り桶にお湯を満たすと、ガントンさんは肩当て用の黒色のブラァタの甲殻を四つお湯の中に入れた。
「えっ?どういう事?お湯に入れると柔らかくなるとか?」
「…そうか。これは…、熱膨張の効果を使うのか…」
理由が分からない僕と、何かに気がついた様子のフィロスさん。熱膨張ってアレだよね。冬の日と比べると夏の暑い日での線路は幅が広がるってヤツ。空気とか水も体積か増すって言うし…。
そうこう言っている間にガントンさんは甲殻を一つ取り出し、深型の型全体を覆うヤシの実の殻のようなそれを元からあった肩当に強引にはめ込んだ。すかさずそれを水の入った桶に入れた。
「これは左肩用、次のは右肩用じゃ」
そう言って今度はもう一つの肩当の製作に入る。
「凄い、同じ大きさの物がああやって重なっていくなんて…」
僕が思わず呟くと、ガントンさんは首を振る。
「それは違うぞ、坊や。実はの…上に重ねていく物ほど大きくなっていくのじゃ。少し見たくらいではその差が分からんがの」
右肩の肩当を重ね合わせ、それを水の入った桶に入れる。そして左肩の甲殻が二つ重なった肩当を取り出した。
「うむ、十分に冷えたようじゃ」
そして熱湯から甲殻を切り出したパーツを取り出す。そしてそれを力技、強引にはめ込む。そしてすぐに残る右の肩当を取り出し、同様に強引にはめ込む。
「あとは自然に冷まして安定させてやれば良かろう。今回はラクをさせてもらったわい、良い図面があったからの。正直、金属以外の加工など切り分けくらいしか出来んが良い経験になったわい」
ガントンさんが何やら満足そうだ。
「兄貴ィ、茶色のブラァタの切り分けが終わっただ」
「うむ、終わったか。よし、ワシらが出来るのはここまでじゃ、後は専門の職人に任せるが良い」
「ありがとうございます、それにしてもこんなに早く…」
「ふふ、褒めても何も出んぞ。そうじゃ、一つ聞きたいのじゃが…。この防具は鎧と言うよりは衣服の延長に近い。それは良い、丈夫な素材じゃ。革鎧とは比べ物にならん強靭さであろう」
ガントンさんは一度そこで言葉を切った。そして再び口を開いた。
「なぜこの防具は肩当を取り付けるようにはなっておらん。まるで肩に乗せるだけのような…、しかしそれでは固定が出来ん。例え肩に乗せても数歩も歩けば地面に落ちてしまうわい」
えっ!?それって欠陥防具なんじゃ…。まさか、フィロスさんともあろう人が設計ミスを?これはどういう事だろうか…。




