第240話 姫君は十七歳
手早く朝食を済ませ、カットされたブラァタの素材を組み合わせてどんな形の防具にしていくか決めていった。
シルフィさんは胸甲と背甲、そして大きめの肩当てを組み合わせた防具にするようだ。うーん、古き良き時代のエルフ女性が身に付ける胸当てに思える。腰に吊るした細身の剣といいファンタジー小説のオールドファンなら感涙モノだ、さすがシルフィさん…分かってらっしゃる。
マニィさんはやはり動き易さを重視している。肩当ては小さめ、背甲は普通だが胸甲は左胸を中心に守り右胸はあくまで背甲とつなぐだけの最低限のものに過ぎない。しかし…、何と言うかこの胸当ての形…、一秒間に百発のパンチを打ち込めるという小宇宙を燃やせる人が身につけそうな形状だ。
フェミさんはしっかり防御を固めるようだが、外骨格の部分でしっかりとした鎧のようにするようだ。胸甲だけでなく腹部もしっかり守る。まずは守備から、フェミさんの考え方が伝わってくる。しかし、ここからがフェミさんの真骨頂、胸元から首元にかけて外骨格で覆えない部分に翼膜を当てるようにするようだ。しかし…これがなんどめ艶かしいというか…エロい。なんか日本で一番入浴シーンがあった事で有名な女忍者が着ていた忍装束、その黒ストッキングのようなシースルー感がまさか異世界で見れるとは…世の中分からないものだ。
そんな三人の防具の希望を後でしっかり伝える為にメモしておく。と言うのも、運良く僕はガントンさんたちとは異なる鎧職人の方と知遇を得ていたのである。ギルドを後にしたら向かってみる事にしよう。
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「あの…。ゲンタさん…」
僕たちが朝食を終えマオンさん宅に戻ろうとした時に声がかかった。
「あっ、セフィラさん。おはようございます。どうしたんですか、あらたまって」
そこには冒険者パーティ『エルフの姉弟たち』のリーダーであるセフィラさんがいた。サリスさんたち他の四人も一緒だ。
「え、ええ…。実はゲンタさんにお会いしたいという人がおりまして…」
どうしたんだろう、セフィラさんが歯切れ悪くなんとも言えない表情をしている。なんだろう、会わせたくないとか会うと良くない事があるような人なんだろうか?
「もしかして…、僕、会わない方が良かったりしますか?それなら会うのは遠慮しておきますが…」
「い、いえ。そうではないんです」
「そうそう!悪い人じゃないんだよ!」
「私たちの里の出身で…」
パーティの皆さんが何やら必死だ。
「何か訳があるんですね?」
「「「「「………」」」」」
僕がそう訊くとセフィラさんたちが口ごもってしまった。
「何があったんですか?」
僕は話を聞いてみる事にした。
……………。
………。
…。
「なるほど。皆さんの同郷の…、同じ里のご出身の方なんですね」
「ええ、冒険者をしていた頃もあったけど、今は町を出て森の外れに塔を築いて暮らしてらっしゃいます」
「そうなんですか、町を出て…」
「今ではそこで魔法の研究をされているのです」
へえ…、なら冒険者ギルドの先輩って事になるな。
「ん?もしかしてそれはエルフの『魔法姫』の事じゃないのかい?」
マオンさんが声を上げた。その問いにセフィラさんは頷いた。
「魔法姫?」
「そうだよ、ゲンタ。魔法姫ってのは今から五十年くらい前に活躍したエルフの凄腕魔法使いさ。もちろん二つ名持ち、それが『魔法姫』って訳さ。でも、いきなり冒険者を辞めちまって町で見かけなくなってね…。そうかい、町を離れて今は魔法の研究をねえ…」
まるで懐かしいものを思い出したかのようにマオンさんが目を細める。五十年かあ…、そりゃ懐かしくもなるよなあ…。伝説の魔法使い…って感じだ。でも、だとすると疑問が浮かぶ。
「しかし、なんでそんな凄い人が僕に?」
そう、僕はあくまでも駆け出しの商人。若造も良いところだ。
「ゲンタさんの茸が気に入ったようで…」
「んん?」
「実は、先日…ここでゲンタさんの『どんこしいたけ』をいただいた後に…」
話をまとめるとこうだ。ブラァタ討伐の前夜、僕は日本の初めて行ったスーパーで安売りされていたどんこ椎茸を買い占めた。それを営業終了後のギルド内で焼いて醤油をつけて食べた訳だが、その味わいは一瞬にしてエルフたちを虜にした。えのきとぶなしめじのバター醤油炒めも好評で僕はセフィラさんたちのパーティに勧誘された程だ。
そのどんこ椎茸は焼いて食べた後も結構残っていたから、シルフィさんと姉弟パーティで分けて持ち帰ったのだが、姉弟パーティが依頼で町を出た際にその魔法姫さんの所に立ち寄りどんこ椎茸の話題が出たと言う。
「いただいた『どんこしいたけ』をですねェ…、ちょっと味見のつもりで食べていただいたんですよ。そしたらあんなに夢中になってしまって…」
タシギスさんがその時の様子を語る。
「そうだったんですか。どんこ椎茸を…」
そんなに喜んでもらえるとは嬉しい限り。しかも五十年も前に活躍した二つ名付きの凄腕冒険者ともなれば、地球のスポーツ界で例えれば伝説級と言われるくらいの存在だろう。ブド・ライアーのように嫌がらせを受けた訳ではないし、また断ったらセフィラさんたちの顔も潰してしまうだろう。
「分かりました。魔法姫さんとお会いします」
「本当ですか、ありがとうございます!私はさっそくこの朗報をさっそくお伝えします」
そう言うとセフィラさんは何やら魔法を使い始めた、精霊を呼び出している。ああ、なるほど。きっと風の精霊の力を借りて離れた相手に声を届ける魔法だ。電話と違って双方向の会話ではなくあくまでこちらの声を送信するだけだが、電話の無いこの異世界では便利な事この上ない魔法だ。
「そう言えば、魔法姫さんってお名前はなんておっしゃるんですか?」
僕がそう聞いた時だった。シルフィさんが血相変えて走ってくる。
「セフィラ、待ちなさい!そうやって返事を送ったらあの方はすぐに…」
「よし、送信…と。えっ?シルフィお姉様ッ!?」
送信…って、スマホで送るメッセージ機能みたいだな。でも、珍しいな、シルフィさんがあんなに慌てるなんて…そう思った瞬間。
どかあ〜ん!!
「うわあ〜!!」
「きゃ〜!!」
突如起こった閃光と響く爆発音、もっとも音だけで爆発自体が起こった訳ではないから被害はないけどこれは正直ビックリした。
その爆発音がした所をおそるおそる見てみると…何やらフリル多めの服を着たエルフの女性がいた。
「変わってないねー。五十年ぶりに来たけどここはホントに…」
突如現れたその女性は何やら懐かしそうにギルドの中を見回している。逆に凡人な僕はこの状況についていけず唖然としている。
「あ、あの…ゲンタさん。こちらが…その…」
セフィラさんが僕に話しかけてくる。も、もしかして…この人が!
「ゲンタ…さん?」
セフィラさんが口にした僕の名前に反応したのか、『魔法姫』がこちらを振り返った。
「初めまして、ゲンタさん。私は五十年前に引退した元冒険者で魔法使いフィロス…。十七歳です!!」
魔法姫フィロスさんは力強くそう言った。




