第206話 華やかな宴 & ブド・ライアーはその裏で…
宴会の準備をし始めたゲンタたちの様子をナジナとウォズマが見ている。
「それにしても…気付いていたか?相棒…。あの娘がゲンタ君に近づいた事に…」
、
「いや…。兄ちゃんへの殺気があったなら気付いてたろうが…」
「オレもだ…。もしかするとあの娘…、凄腕の…」
「まあ…、害が無いなら今は良いんじゃないか?兄ちゃんを気に入っているようだし…。まあ、それはウォズマにしたら心配かも知れないけどな」
ニヤニヤしながらナジナはウォズマの顔を見る。
「な、何を笑っているんだ…相棒」
「娘が気に入っている男がモテ過ぎるっていうのは…心配だろ?」
「ッ!?あ、相棒ッ!」
「わはははっ!怒るな怒るなっ!」
二人がそんな少し子供のようなやりとりをしていると、今日の作業を終えたガントンたちが納屋裏の井戸周りで水浴びを済ませ庭先に出てきた。
「おおっ、来ていたか!二人とも」
さっそくガントンが声をかけた。ゴントンも続く。
「二人ともヒマなら手を貸すだ!いつか狩猟った巨大猪の肉を引き取ってきてあるだ。『もみだれ』に胡椒に『なつめぐ』、せっかく揃ってるなら良い肉を焼いて酒を飲むべ!」
それを聞いてナジナはふざけるのをやめた。
「そりゃあ良いぜ!なら肉を切らないとなあ!」
「んだ!」
「それに…援軍も来たようだね」
ウォズマが通りを眺める時マニィにフェミ、ギルドマスターのグライトがやって来るのが見えた。見るからに足取りが軽い、心から宴会を楽しみにしているようだ。
「魅力的な人物の周りには人が集まる…か。確かにその通りだね」
「おおい!ウォズマー。肉切るぞ、肉ぅ!手を貸してくれー!」
通りの様子を見ていたウォズマに声がかかる。すぐ行くと返事をしてウォズマはナジナやガントンたちと肉を切り分けていた。豪快な男の…、そして冒険者の料理だった。
その夜は誰もが楽しみ、そして飲めないというゲンタ以外誰もが酔った。メルジーナが歌い、兎獣人族たちが踊る。ナジナが大盃に注いだ焼酎を飲み干し、ガントンがそのナジナの姿を即興でその辺に転がっていた木材の余りに木彫りし、その技巧の凄さを見せる。
特に決まったステージは無かったが、そこはやはり秀でた実力の持ち主たち。その技量は人の目を引きつける。
招待客以外に目を向ければサクヤたち四人の精霊たちだけではなく、無数にいる精霊たちも見守る。光の精霊が夜の闇を融かし、闇の精霊は声や音を周りに漏らさない。火と水の精霊が調理に手を貸すのは言うに及ばず、他の精霊たちも何かと力を貸していた。
「あー、コレ好きー!」
兎獣人族たちが列を成して待ち望むゲンタやマオンが作るたい焼き、女性人気は凄まじく大人気。ちなみにナジナも並んでいる。
宴はまだまだ盛り上がりを見せていった。
□
一方、その頃…。
ブド・ライアーはと言えば…。
結局、ネネトルネ商会とは接触出来なかった。一日中見張らせた商業組合には姿を見せず、いつ訪問されても良いようにと戻った自分の商会にも現れない。
だが、それは当たり前だ。そもそもネネトルネ商会としてはブド・ライアー商会に関心は無い。あくまでお目当てはゲンタである。
ゲンタの扱う胡椒、そしてナツメグという新しい香辛料。そのどれもが優れた品質であった。他にも様々な調味料もあると言うので面識のあるナジナ、ウォズマの二人の冒険者に護衛と仲立ちを頼んだ。ゲンタと取引が出来るようになれば他の商会と取引する意味は薄れる。
ましてやブド・ライアー商会の品質は低い。ネネトルネ商会としては取引はおろか面会する価値も感じていなかった。
そしてブド・ライアーが常識に欠けていた為に気付いていない事があった。普通、商会同士で対面し商談するのであればきちんと日時を定めて訪問するのが常識である。
だが、ブド・ライアーはそういう事をした事が無い。元々が町の住人相手に小売していたので自分のペースで塩を広げ売っていた。店を構えてからは客が勝手にやってくる。
自分の塩が先住の塩商店を駆逐してからはまさに殿様商売だ。こちらから頭を下げる事無く、住民たちが塩を買いにやって来る。他の商店と話す事は少なかったが、他の商人を傘下に組み入れる際は相手の都合など聞かない。
自分の都合の良いタイミングで訪問し、相手はそれを出迎えるものだとブド・ライアーは考えていた。だから冒険者ギルドにカレー作りを依頼しに行った時も、ネネトルネ商会の行き先を尋ねるにしても相手に話しかける許可を得る事無く本題に入る。
たとえそれが話しかける相手が他人と話しているとしてもである。好感を持たれる訳がなかった。
ブド・ライアー商会にネネトルネ商会から面会を申し込む先触れは来ていない。この時点で気付くべきだった、ネネトルネ商会はブド・ライアー商会を訪れる意思は無いという事を。
また、せっかくネネトルネ商会を追って冒険者ギルドを訪れたのなら加入の有無などを調べるべきだった。素直に教えてくれる訳ではないが、それでも聞き方を工夫するなりしてやれば冒険者として登録した事は知る事が出来たかも知れない。あるいは冒険者イブ・ネネトルネに依頼として面会し、いずれ商談につなげていくように行動していく事で違った展開になったかも知れない。
結局この日、ブド・ライアーはネネトルネ商会と接触する事は出来なかった。仮に会えたとしてネネトルネ商会はブド・ライアー商会から購入に値するものを見出してはいない。
新たな販路を開拓し収入の柱とする…そんなブド・ライアーの見込みは既に破綻していたのだ。
昨日のカレー騒動で客足はさらに離れた。皆無に近い。
閉店後、イライラした気持ちでブド・ライアーは商会を後にする。お目当てはヒョイオ・ヒョイが経営する社交場、そこで兎獣人族を眺めながら酒でも飲もうと考えた。
…が、その期待は脆くも崩れ去る。
『本日休業』
そんな知らせが社交場の入り口にかかっている。ブド・ライアーは地団駄を踏んで悔しがった。丁度その頃、ヒョイオ・ヒョイたちはマオン宅で飲めや歌えやの宴会中である。
しかし、ブド・ライアーにとってこれはまだ良かった。商会の経営には響くようなものではないからである。
翌日からブド・ライアーにとって地獄の釜のフタが開く。
客が来なくなる…、当然金が入ってこない。新たな販路を開拓くどころか今ある販路が閉じ始めるのは翌日の朝からであった。




