第204話 来客の前に、すごい数の客?
「こっ、こりゃあ凄いよ。前よりも体が軽いと言うか…」
「ええ…、何か言葉にするのは難しいけど分かります。僕も魔法の事はよく分からないけど…」
加護が凄まじく強化されたエルフの服に袖を通してみて僕とマオンさんが驚きの声を上げた。着てみてビックリ、有り得ない程の力を感じた。体が軽い、軽く跳んだだけだがいつもとジャンプ力が20センチは違う。
「パ、力だ…。力にあふれている…。こ、これが僕の真の力なのか…」
思わず厨二病的な事を口にしてしまった昼下がりであった。
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話はゲンタたちがマオン宅に戻った時に遡る…。
今日の護衛を依頼しているセフィラさんたちエルフの姉弟パーティであるが、今日に限って言えば朝方冒険者ギルドからマオンさん宅に戻って以降は特に外出する予定はなかった。
そこでセフィラさんたちにはマオンさん宅の周囲の警戒と護衛を頼んだ。朝早かったのでマオンさんは自宅内で寝んでもらう。
商談が終わった夜には宴会があるから長丁場と言えば長丁場だ。明け方前から起きて夜まで起き続けてはさすがに体力的に厳しいだろうと考えたからだ。
また、作業をしているとは言え敷地内にはガントンさんらドワーフの一団もいる。護衛と言う程の苦労も無さそうだと夕方までセフィラさんたちは精霊を召喚、交流し僕たちのエルフの服に精霊の加護を集めてくれると言う。
「あの精霊溜まりでの修行を経て我々も少しは腕を磨いたつもりです。それに精霊たちがここに集まってくれていればきっと共に守護ってくれるはずです」
精霊魔術に長けた彼らがそう言うのなら間違いは無いだろう。ならばと彼らエルフ族や精霊たちが好むという果物や甘いものを預けておく事にしよう。僕もマオンさんと同じく寝むという事にしてこの場をセフィラさんたちに任せた。また、サクヤたち僕についていてくれる四人の精霊たちにも家を守ってもらうように頼んだ。
「これは『伯爵の紅茶』で…」
「ええ、覚えていますよ。果物の香りを焚き込んである紅茶ですね。私はこれに目が無いものでして…」
目を細めながら身を乗り出すタシギスさん、確か紅茶の淹れ方にも詳しかったからティーパックは預けてしまおう。
「もしかしたらこの紅茶の風味を好む精霊もいるかもしれませんね」
「確かに。私もそうですがこの果物の香りに惹かれる精霊も少なからずいると思いますよ」
「なら、この茶葉についてはタシギスさんに一任します。ティーポットもお持ちでしたし…」
「よろしいのですか?私で…」
「ええ、お願いします。ここにあるのは全て使ってしまって良いので…」
そう言って36包のティーパックを差し出すと、小躍りしそうな勢いでタシギスさんは茶道具の準備を始めた。
(一度日本に戻って買い出しをするから、全部渡しちゃっても良いな…)
僕はそう考えてリーダー格のセフィラさんにリュックや納屋にある役に立ちそうなものを預けていく。
「これはジャム…、この丸い焼菓子で甘いものです…、四角いのは砕いた堅果を練り込んだものです。これはゼリー…なかに生の果物を閉じ込めた甘い汁を柔らかく固めたものです。ウチの精霊たちにも評判が良いんですよ」
その言葉を裏打ちするようにジャムやお菓子を広げた石木のテーブルにサクヤたちが『ひゅーん』と飛んで来て大きく頷いた。きっとゼリーが食べたいのかなと予想がついたので、セフィラさんたちに容器の開け方を伝える意味も含めアウトドアなどでよく使う紙皿にゼリーを取り出した。
「みんな、食べて良いよ」
そう声をかけるとサクヤたち四人は慣れたもので大喜びで食べている。
「すご…、美味しそう…」
エルフパーティの末っ子格、ロヒューメさんが呟いている。
「皆さんもつまんで下さい、そして来てくれた精霊たちにも分けてあげて下さい。これも皆さんにお任せします、よろしくお願いします」
そう言って外の警戒、またエルフの服の強化をお願いした。
僕が建物に戻る時、カグヤがチラリとこちらを見ていた。『買物が終わったらすぐに戻るから、ここは任せたよ』そんな気持ちを込めて頷いてみせた。にこ…、いつものようにカグヤは静かに微笑んだ。
「行くか…」
僕は日本へと戻る。それなりの時間で戻ってこられるし、別に問題は起こらないだろう…。そう考えて買い物に向かうたのだった。
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「せ、精霊が…、いっぱいいる…」
日本で原付を三往復させたくさんの仕入れをしてきた僕がマオンさんの家の扉を開けた時に出た第一声がこれだった。石木のテーブルの上には山が出来ていた。それは土が盛り上がった地形としての山ではない。
サクヤたち見慣れた四人の精霊たちの髪型や服装をアレンジしているような感じなら一発で分かる。同じ光の…とか水の…みたいな同族の精霊であると。
しかし、そこにはいろんなタイプの精霊たちがいた。葉っぱやツタを上手に加工して作った服と髪に花飾りを付けているのは植物の精霊だろうか?
服装に特徴は無いけど困り眉に泣き黒子が印象的な儚い感じの精霊がいたり、逆に剣に鎧と盾を身に付けた小さな姫騎士のような精霊もいて何人いるのか想像もつかない。
「ああっ、ゲンタさん!!」
僕に気付いたセフィラさんたちが大慌てで駆け寄ってくる。そこには僕に助言をしてもらう為に予定より早く来てくれたシルフィさんの姿もあった。
「どうしたんですか?何かありましたか?」
「そ、それが…」
なんでもセフィラさんたちはいつかの精霊との交流の時と同じような感じで精霊を呼び集めたという。しかし、以前の精霊との交流の際にとても効率よく精霊使いとしての修行が出来た為に思った以上の精霊との結び付きが強くなってしまっていたという。
そのおかげでおそらくは町全体、それどころか町の周りの森などの精霊たちまで呼び寄せてしまったのではないかとセフィラさんは語った。
「確かにセフィラたちは以前より実力は上がっていますが…。ですが…それだけではないかも知れません」
セフィラさんの言葉の後に少し考えてからシルフィさんが話し始めた。
「以前のセフィラたちの修行の際にこのジャムだけでも精霊たちはたくさんやってきました。しかし今回はそれに加えて焼菓子に『ぜりー』に『貴族の紅茶』まで…。おそらく精霊たちが喜びのあまり他の精霊たちを次々に呼んで…。おそらくこれらの甘いものを目当てにどんどん集まって来たのでしょう…」
「ちなみにジャムとか甘いものは足りましたか?」
「いえ…、さすがにこれだけ集まってしまうと…」
「…ですよねえ」
僕の問いかけにセフィラさんは申し訳無さそうに応じた。
「うーん、ヒョイさんたちもしばらくしたら来るだろうしなあ…」
基本的に精霊召喚はその場で魔法力をの素である精神力を振り絞ってするものだ。その場払いでツケは利かない。いかにセフィラさんたちが優れた術者であってもこれだけ精霊がいたら精神力がもたないだろう。
なら、予定は早まるが急いで準備をすれば間に合うか…。そもそも論で言えば僕らのエルフの服がパワーアップするんだし、何も損はない。
「ホムラ、セラ、力を貸して欲しいんだ。サクヤ、カグヤ、ここにいる精霊たちに今から甘いものを作るからもう少し待って欲しいと伝えてもらって良い?」
いつもそばにいてくれる四人の精霊に呼びかけると彼女たちは頷いた。なら、後はやるだけだ。僕はかなり前倒しになったがたい焼きの準備を始めた。
焼き上がったものから大皿に盛り、セフィラさんたちが運ぶ。庭にブルーシートを敷き、そこにたい焼きを載せた大皿を置いた。次の皿を少し離れたところに置いてもらう。
ブルーシートを敷く事で精霊たちには石木のテーブルから場所を移ってもらった。テーブルは大きいとは言え、これだけの数の精霊が一度に食事をする程の広さは無い。だから複数枚のブルーシートを敷く事でたい焼きが出来上がったらすぐに精霊たちに食べてもらう事が出来る。
それと、商談はテーブルで行うつもりだからそこを空けたかったのもある。いずれにせよ甘いものは正義なようで、どの精霊たちも喜んで食べていた。ついでに言えばエルフの皆さんもそうだが、こちらは我慢してもらった。商談が終われば宴会にする予定だし…。
そしてたい焼きを矢継ぎ早にどんどん焼いていく、屋台一個の焼き板で12個が焼ける。それを屋台二つ、つまり一度に24個焼ける展開した。
もう一つの屋台はマオンさんが引き受けてくれた。マオンさんは背が低いので踏み台を使いながら焼いている。1パック1キロ入りの粒あんを前回は20等分…すなわち一個あたりあんこを50グラムで作っていたが、これだと一度に24個焼けるから焼き板のスペースに無駄が出来てしまう。
なのでガントンさんにお願いして1キロのあんこを20等分する器具を、24等分出来る器具に作り変えてもらった。中身は少し減ってしまうけど焼き板を使わない…、つまり遊ばせておかずに済む。そのおかげで無駄に手間をかけなくて済む。作業の効率が上がった。
粒あんのパックを10キロあまり使った頃、精霊たちは満足してくれたようだ。その恩を返してくれているのだろうか…僕たちの『エルフの服』が多数の精霊たちの手によって揉みくちゃにされている。
「ねえ…、精霊に加護をもらう儀式って…。ホントにアレで良いの?」
精霊たちがエルフの服に精霊の加護を与えているという行為だが…、なんだか単に服をもみくちゃにしてるようにしか見えない。そこで僕は屋台のたい焼きに目が釘付けになっていたロヒューメさんに不安になって聞いてみた。
「う、うん…。多分、大丈夫だと…思う…よ?触れてはいるんだし…」
ロヒューメさんが僕から目を逸らしながら返答える。そんな不安極まりないやり取りをしたが、その効果は抜群だった。
服に袖を通した瞬間、僕は正に肌で感じた。すぐに体が軽くなったと実感する。
「ありがとうね、みんな。セフィラさんたちも」
僕がお礼をそんな時、申し合わせたように馬車が二台到着した。




