第162話 『ねえ、可愛い?』に対するベストアンサーとは?
「こんな美味え食いモンがあったなんて…」
「このニオイたまんねえ…」
「このパンすごく柔らかい〜!」
「柔らかいだけじゃないわ〜、もの凄く白いパンよ!」
広場に町の人たちが入場できるようになって僕たち冒険者ギルドの屋台には人が押し寄せた。どどどどっ!まさに地響きがするかのような迫力。
「だ、大地が震えている…」
スキンヘッドのギルドマスター、グライトさんが戦慄したように呟く。町の人たちは広場の入り口から他に脇目も振らずにこちらに押し寄せてくる。しかし、僕もマオンさんも、受付嬢の三人も…。ダン君とギュリちゃんに至っても平然としている。
「お前ら…、よく平気だな…」
グライトさんが驚いたように呟く。
「まあ…、慣れだよ慣れ」
マニィさんがそんな風に応じる。確かにそうかも…。
□
「『かれー』を食うのにも、他のものを食うにも役に立つ『さきわれすぷーん』だ、さあ、見てってくれ!」
「これは…ワサギナヤ騎士爵様。さあ…、こちらへ…」
カレーの屋台以外にも実は店が展開している。
一つはノームのお爺さんの雑貨屋、先割れスプーンと空のペットボトルをなどをメインに販売している。
携行品を持ち、獲物なり採集したものが有れば持ち帰る必要のある冒険者、だがそれ以外の職業の人にとっても食匙と食叉を兼ね、さらに金属製で丈夫なこれはきっと需要がある。食器二つの機能を一つで兼ねている、それにペットボトルはなんといっても軽い、職人さんとか行商人の人に喜ばれるんじゃないかと思ったからだ。
せっかく人が集まるんだ。人の目に触れる機会があれば売れるんじゃないかとお爺さんを呼んだ。それに活気はあった方が良い、人が集まればそれがさらに人を呼ぶ。僕自身にとってもメリットはある。
もう一つはヒョイオ・ヒョイさんの社交場。
こちらでは屋台で販売しているカレーやクリームシチューの他に、ヒョイさん持参の酒や紅茶を楽しめる。また、同席を希望した兎獣人族の皆さんへの人参の牛酪甘煮、クッキーなどを買う事ができる。
おやつ時にはたい焼きも販売するつもりだ。
この社交場、さらにもう一つ工夫がある。それはカグヤたち闇精霊のみんなの力を借りて周りからは見えず音も漏れない空間にした事だ。
これならただの広場でも衆目に晒される事はない。
狙いとしては高級路線。いわゆる高所得者層向けの販売チャンネルと考えている。接客や場所を提供する分の手間賃として高めの値段設定にしている。
こちらも売れ行きは上々だ。
それにしてもカレーは大人気。そして焼きそばに比べて常に調理する必要が無いのがありがたい。大鍋で煮ていれば良いのだから。
しかも、焦げ付かないようにかき回す作業は、水精霊セラが鍋の中を常に対流させる事によって解決。
昨日に比べてすごく楽をさせていただいてます、ハイ。
「ゲンタ!」
「あ、アリスちゃん」
ウォズマさんとナタリアさんの愛娘、アリスちゃんがやってきた。
「いらっしゃい。カレーにする?クリームシチューにする?」
「ゲンタにする!」
屋台の隙間から入り込み僕の足にしがみついた。
「はは、ありがと。で、どっちにする?」
「むー。クリームシチュー」
「ん、ちょっと待っててね」
クリームシチューを渡すとアリスちゃんは美味しそうに食べる。美少女は何をしても可愛い。
「そう言えば…今日、働いて良い?」
「あ、うん。一応用意は出来てるけど…。ホントに良いの?」
小さな子を働かせて良いのだろうか?その辺がちょっと心配、
「お母さんが良いって」
ん?ウォズマさんの意見は…。ま、まあ良いか…。
「じゃあ、喫茶の時間に頼んで良い?」
「うん!」
アリスちゃんがなかまにくわわった!
□
「終わったよー!」
手の空いた兎獣人族の皆さんの手を借りてアリスちゃんの着替えが終わった。
ざわっ。ざわざわ…。ん、どうしたんだろう?
アリスちゃん…び、美少女が超美少女になっている。金髪碧眼だし…。まさか、ここまでの結果になるとは…。
「うーむ。ウチの社交場で働く事は出来ないですかねえ…」
「あー、可愛い!お持ち帰りしたい〜」
経営者として何か光るものを感じたのだろう。着替え終わったアリスちゃんを見て何やら呟いているし、着替えを手伝ってくれた兎獣人族の子たちは後ろからアリスちゃんを抱きしめたりしていた。
その気持ちは分かる。もともと可愛いアリスちゃんに僕はある服を渡していたのだ。
話は昨日に遡る…。
「一緒にやりたい!」
小さなアリスちゃんがアピールする。
どうやらたい焼きを売るこの屋台に興味津々なようで、一緒に働きたいみたいだ。
小学生へのアンケート、将来なりたい職業という項目で女の子は『お菓子屋さん/ケーキ屋さん』が上位に来る事が多いらしい。
どうやらそれはこの異世界も同じようで、たい焼きを初めて食べたアリスちゃんはその美味しさに惚れ込み、さらにはコレを作り販売している事が大きな動機になったらしい。
確かに考えてみれば、ある種のお菓子屋さんだ。
「ウォズマさん、ナタリアさんが良いって言うのなら…」
僕はそれを前提としてアリスちゃんによく考えてみるように伝えた。
そして深夜まで営業している激安を売りにしている某お店に薄力粉やあんこを買い出しに行く。30キロでも売り切れたからなあ…、もう少し仕入れようと思うたが残念、32キロ分しかない。
何か代替えはないかな…。色々と食品コーナーを探し回り簡単かつ、手間いらずとろけるチーズとハムを手に取った。
そしてレジに向かう途中…、見つけてしまったのだ。
コスプレ衣装(子供用)メイド服ッ!!
おそらくは昨年のハロウィン衣装の売れ残りなのだろう。値下げラベルがいくつか貼ってあり、2980円。僕は迷わなかった…。
とてててて…。
アリスちゃんが目の前にやって来る。
紺色ベースに純白エプロン。白い肌に金髪碧眼の美少女アリスちゃん。この装備は反則級だ。
「ねえ…、可愛い?」
フオオオオッ!上目遣いに小首を傾げてその質問!?
装備と可愛さだけに頼らずそんな小技を効かせてくるあたりタダ者ではない。馬鹿なッ、この子はこんなわずかな会話でも戦闘力を激しく変化させやがる!
6000…、7000…、馬鹿なッ!
8000以上だッ!!
だ、だけど戦慄いてばかりではいられない。アリスちゃんの質問に真摯に対応しなくては!
でも、なんて言おう?可愛いのは間違いない。『はい』と返答すれば良いのかな…。
でも、これは正解なんだろうか…。
『どんな風に可愛い?』とか追加質問来そうだし…。
あるいは『どのぐらい可愛い?』とか…。
「ッ!!?」
そ、そうだ!これだ!『どのぐらい可愛い』に対しては理想的な解答があるじゃないかっ!!もう、悩む必要なんて無い。
そう、『謎は…全て…解けた…』状態だ。
だから僕はひざまづく。アリスちゃんと同じ視線の高さに合わせた。
さあ、言うぞ。僕の導き出した最良の回答を。
「うん、アリスちゃん。世界一、可愛いよ」




