第120話 ソース焼きそば & 『塩商人』ブド・ライアー、閑古鳥が鳴く
前半はゲンタ、後半はブド・ライアー視点です。
いやー、屋台と言えばこの料理。お好み焼きも捨てがたいですが焼きそばの方が作りやすいのでこち、にしました。
空腹時の焼きそばソースのニオイは反則級の誘惑です。
「急げっ!坊やのメシはもう売り出し始めているみたいだぞっ!」
「チキショウ!良いニオイさせてやがるぜえ〜」
「ああっ!なんか嗅いだ事の無えニオイだが美味そうな感じがするなあっ!」
どどどどっ!冒険者だろうか、三人組の男たちが広場の外れにあるゲンタが開いた屋台に走る。見れば既に十人やそこらは列を成し並んでいる。あまりに大盛況なせいか行列はこうしている間にも長くなっていく。
ゲンタは忙しい様子でせっせと料理を作っている。出来上がった物はマオンが丸い使い捨ての紙の皿に盛って客に渡していく。よく屋外でバーベキューとかをする時に使うあの紙皿だ、当然日本でゲンタが買ってきたものだ。
代金は白銅貨10枚、銀片なら一枚(日本円で千円)。これは手伝いに来たマニィがレジ係のように金の受け取りをしている。
価格については昨夜試食をした受付嬢三人とそれについて来たギルドマスターのグライト、さらにはマオンやドワーフの面々と相談して決めた。何せこれだけしっかり味付けがされており、香りも良い。都市部の評判の料理店でもなければこんな料理は食べられないだろう。
もう少し高くても…、そんな声もあったがとりあえずこの価格にした。ある程度は手が出る値段にしたいからだ。
先程の三人が購入する番が近付いて来た。
「この間の『かれー』も初めて食ったが美味かったよなあ」
「今日のは何て料理なんだ?」
「おい、これじゃねーか?書いてあるぞ、なになに…?」
まるで日本の縁日で出店している屋台のような形状の出店の暖簾に書いてある文字を読んだ。
「『そーすやきそば』って書いてあるな…」
□
「はい、七人前できました!」
「あいよっ!」
マオンさんが次々に紙皿に盛りつけ、さらに仕上げをする。
「はい、白銅貨十枚だぜ!毎度!お、アンタは銀片一枚か、毎度っ!」
僕たち三人が前に出てやきそばを作ったり盛りつけたりして、
「人参、切り終わりました!」
「ありがと、ギュリちゃん」
朝方、冒険者の皆さん用の塩の売り子をしているダン君とギュリちゃんに猪肉や野菜の切り分けをしてもらう。
一気に七人前を作った僕だが、すぐに次の調理に入る。細切れにした猪肉を鉄板に、焼き目が付いたらひっくり返す。野菜…、キャベツにモヤシ、そしてモヤシとそう変わらないサイズにした人参、火の通りにくい人参から入れ次々に炒める。その隣りのスペースで麺を投入、液体ソースを回しかけながら蒸し焼きにしていく。
火が通ったところで二つを合わせて馴染ませる。さあ出来た、甘いソースの匂いがして香り立つ。それを鉄板の端に寄せる、そこにはマオンさんが控えていて器用にトングを使って紙皿に。さらに仕上げで鰹節と青のりをかける。
「さあ、お待たせしたね。出来た順に持って行っておくれ」
その間も僕は次の具材と麺を炒めだす。どうやら一休みするヒマも無いようだ。
□
「うひょー!こりゃあ何だ!?今まで食った事のねえ味だぜ!」
「甘辛い味付けがピッタリだな!面白い料理だ!」
「このニオイがヤベェぜ!待ってる間、腹が減って仕方が無かったぜ!」
やきそばにありついた三人組の冒険者たちからそんな声が聞こえてくる。もう百人前くらいは作ったが行列は伸びるばかり。それどころか広場のあちこちから人がやってくる。うわあ…こりゃマズいな。これじゃお客さんを待たせ過ぎてしまう。そんな事を考えていた時…、
「坊や、手伝いに来たぞい!」
「ガントンさん!グライトさん!」
声のした方を見ると荷車を引いたガントンさんらドワーフの一行とギルドマスターのグライトさんがいた。
「冒険者ギルドの名前で場所を借りてるからな、様子を見に来たが…こりゃあスゲえな」
そう言っている間にも荷車改め、簡単な調理だいに早変わり。鉄板を乗せる。薪で煮炊きをする訳ではなく、火精霊のホムラの力で煮炊きをしている。具体的には赤色の球体が鉄板の下でふわふわと浮いていてそれが加熱するのである。
直接に薪を置く訳ではないから荷車が燃える心配もない。
「ゲンタが作っているのを見ていたからね。こっちでは儂がやるよ。もし、手順とかが違っていたら言っておくれよ」
そう言ってマオンさんが僕がやきそばを作っている鉄板の横に設置した新たな鉄板に向かう。
「疲れたら代わるぞ、俺だってメシは作れる」
「なら俺は肉を捌くだ!野菜切るのは性に合わねえけんど、肉なら任せるだ!」
そう言ってゴントンさんはダン君たちの方に向かった。
「ダン君、ギュリちゃん、肉はゴントンさんに任せて野菜をお願い」
新たに加わった仲間と共に僕たちは作業を再開した。
□
「なぜだ!なぜだ!なぜだあッ!?」
もうすぐ夕方という頃…。広場中央の自分の屋台の様子を見に来たブド・ライアーは憤り、声を荒らげていた。
「なぜ一日店を開いて、屋台二つで三十人程度しか来てねーんだよ!お前ら、遊んでたんじゃねーだろうな!!?」
品質が劣化気味の肉と野菜とは言え、町の辻売(行商人)が売っている物よりも具は多く塩もちゃんと入れている。
肉や干し魚を売っている屋台にしてもそうだ。最近売れてないとは言え塩は貴重だ、それで味付けした肉に貴重な海の魚まで出している。それがなぜ売れない!?
人がいないのか?そう思って広場を見回す、確かにこの辺りには人がいない。このままではもう店終いだ。
ここ異世界では一日に食事は朝と夕の二回だ。朝は早朝に、そして夕食はそろそろ食べ始める時間だ。明かりは貴重である、薪にしろ油にせよ金がかかるのだ。ゆえに人々は日の出と共に起きて働き、日が沈んだら早く寝む。だからこそ今ここで売らなければ、後は売れるチャンスは無い。もうすぐ日が沈む、どうなっているのだ!?
そう言えば冒険者ギルドの奴らはどうしているのだろうか?こんなに人の入りが悪ければ奴らは客の一人も来てないのではないか…。
「少し見に行ってやるか…」
薄暗くなり始めた広場を歩き、ドブ川が流れる広場の外れに向かう。…が、しかしイヤなニオイはしてこない。不思議に思って川面を見ればゴミが浮いてるはずの川は澄み渡り、清流とさえ言える様相。
「バカなッ!昼間のアイツらは困惑した様子だったじゃないか!それがなぜ?」
さらに視線の先には老若男女、さまざまな人々がいるのが見える。行列だ、それが屋台に向かって伸びている。
しかし、肝心の屋台には調理をしている様子はない。そこに列を成す人々の声が聞こえてくる。
「なあ…、まだかな…?」
「売り切れになったから、また新しく材料を仕入れてくるみたいよ」
何だと!?売り切れ?ウチはほとんど売れてねーのに、こんな狩猟ってきた肉をそのまま焼くような連中の店が売れてるってのか?バカな、あり得ねえ!
「そうかッ!この川が…」
こんな綺麗な川だ。見物してたらたまたま隣に屋台があったというだけじゃねーのか?いきなり川が綺麗になるなんて事はねえ、そんな幸運に奴らはありついただけだッ!
「だったら簡単だ!この場所を奴らから取り上げてやりゃあ良いんだ!広場の中央?なにが中央だ、ここは場所が悪いんだッ!二つ分のスペースをくれてやりゃあヤツらだって否とは言うまい!クソがッ、一日損したぜ!」
そう言って怒りを露わにしたままブド・ライアーはこの場所を後にする。木を見て森を見ず…、ブド・ライアーの悪い癖であった。
確かにドブ川が清流になった事は重要である。悪臭は消え、清流を眺める事が出来る眺望。しかし、肝心なのは料理である。
「皆さん、お待たせしましたッ!なんとか二百五十人分くらいはありますッ」
「うひょ〜!待ってたぜ、兄ちゃん!?」
先頭にいたおおがらな男が歓声を上げている。
「ナジナさん、今日四皿目…」
「い、良いじゃねえかよう!そんな事より早く作ってくれよ!な、な?」
そんなやりとりから始まった広場の片隅の屋台営業はあっと言う間に焼きそばを売り尽くした。それでも並んでいた人がまだたくさんいた為に、屋台を開いていた青年は秘伝の『もみだれ』や『しおこうじ』と呼ばれる味付けをした猪肉を焼いて販売していたという…。
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