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第114話 マニィの心と『塩商人』ブド・ライアーは手広い商いで乗り切る事を考える。

 前半はゲンタ、後半はブド・ライアー視点です。

 あれから少しずつ、そしてぎこちなくだけど僕とマニィさんは二人並んでガントンさんたちが砂鉄を採取している川の流れが澄んでいるという場所に向かう。


 手をつないだり、腕を組んだりとかは全く無く今までと変わらない距離を保って歩く。だけど、一つだけ感じられる事がある。心の距離が近づいたとでも言おうか、精神的な結び付きみたいなものが出来た気がする。そんな事が感じられた時に不意に彼女が、


「オレさ…、マニィってのは通称で真の名はマニィエラって名前なんだ。ダンナは遠くの島国から来たって言ってたから、もしかしたら通称と真名(まな)については知らねえかもだけど…」


 マニィさんによると、このあたりの国々では名前というのをとても大事にしているらしい。特に女性の名というのはなおさらの事で、親兄弟か夫くらいしか真の名を知る者はいないという。

 後で聞いた話だが、恋人だとしても結婚目前ぐらいでないとなかなか真名を明かすものではないという。


「そんな大切な名前を僕に?」


「ああ、知ってて欲しかったんだよ。オレが持ってるものなんてこれしか無いしさ」


 そう言って彼女は小さく笑ったが、その瞳は真っ直ぐに僕を見つめている。純粋な思い、それが凄く伝わってくる。

 だから僕も真っ直ぐ彼女を見つめ返す。


「確かに貰いました。大切な…、大切なマニィさんの名前と心を」


 そして僕も告げた、僕の名を。竹下元太、これが僕の名前ですと。彼女の大切な名前を教えてくれた事に対してのせめてもの誠意として。すると、家名(ファミリーネーム)持ちだから貴族階級(おきぞくさま)なのかい?と彼女は驚いていたが、僕はそれを否定する。


「僕の故郷ではみんなが家名を持っています。だから貴族でもなんでもなくて…。実家は山あいの畑を耕しながら小さな雑貨の店を営むような…そんな暮らしです。家名はだいたいは地名とかにちなんで名乗ってる事が多いですね。僕の名前はこちらの言い方に合わせればゲンタ・タケシタって呼び方になるのかな」


 そんな風に僕は彼女に話す。そうこうしているうちにガントンさんたちが作業している現場の川べりに着いた。


「おう、坊や!見てみい、大漁じゃ!」


 ガントンさんが僕たちを見るなり指差した先には河原に置かれた木製の荷車、その上には木製の箱に濡れて黒光りする砂が入っており、それが何箱も積まれている。


「誰もこっだら(トコ)で鉄を集めようなんて考えもしなかっただな。手付かずの砂鉄が…ほうれ!こんなにあるだ!」


 ゴントンさんも嬉しそうに言う。


「それに他にも、収穫がありましてネェ…」


 ハカセさんが続いた。


「あの水を張った桶を見て下さい。大田螺(おおタニシ)ですヨ。これは野趣溢れる味わいで…」


 その桶を見て見るとなるほど田螺(タニシ)がいる。日本でも見かけるような形だ。しかし大きい。その大きさたるや横幅はバレーボールくらいあるだろうか。

 彼らによればこの大田螺(おおタニシ)をしばらくは綺麗な水に浸けて、体内に溜まった泥を吐かせた後に塩茹でにして食べると言う。そうしないと泥臭く、下手すれば口にした時に身に砂や泥が混じっている事もあるのだという。しかし、丁寧に泥を吐かせれば酒の肴に丁度良いらしく、砂鉄を採取()りに来た河原で得た予期せぬ副産物に彼らの喜びはさらに増していた。


「塩なら沢山有りますから、茹でる時には遠慮なく使って下さいね」


「くはははっ!相変わらず豪気(ごうき)じゃて!普通なら海の近くでもなければ塩は貴重じゃ。ましてこんな山に近い所では海からの塩の仕入れが途絶えては相場が天井知らずになるわい」


(おう)っ!そうだんべ!普通海から入って来なければ、山あいの土地じゃ後はわずかな岩塩にでも頼るのみだべ!それを遠慮なく使ってくれとは凄い事だんべ!」


 棟梁(とうりょう)たる二人の兄弟が唸りながら言う。


「そうだよ、ダンナ。ミーンの町は海から遠いんだよ。だからどうしても塩が高くなっちまう。ブド・ライアーの商会(トコ)の砂が混じってるようなヤツでもあるだけまだ良いんだよ。でも、最近のダンナの塩のおかげで町のみんなが真っ白な良い塩を安く買えるようになったから大助かりさ!」


 マニィさんも頷きながらミーンの町の塩事情を語る。


「それにダンナは気付いてるかい?日に日に客が増えてるんだぜ」


「た、確かに。毎日補充している量は増えてきてますね」


 そう、確かに塩の補充量は増えてきている。ここのところ一日の補充量は10キロを超えている。のべ人数で考えれば一日千人以上の購入者数だ。改めて考えてみると凄い事だ。


「あの塩を売る機巧(からくり)を増やした方が良いかも知れんのう」


「んだ。最近は並んでる人数が増えてきたべ」


 ここはお願いした方が良いかも知れない。僕はこれからの塩販売の事を考えると共にガントンさんたちの作業を見守るのだった。



 ゲンタが河原にてガントンらと共にいる頃…。


ミーンの町で一番の塩を扱うブド・ライアー商会、その主人(あるじ)であるブド・ライアーは昨日の業務報告を受けていた。


「塩は売れねー、窪地の埋め立ても進まねーしどうなってる訳?」


 苛立ちを隠そうともせずブド・ライアーはまくしたてる。


「ドワーフどもはどうした?もう何日経()ってる!?なんで来ねーんだよ!?」


 言ってるうちに怒りが増して来たのかどんどんヒートアップしていく。

 ドワーフどもと呼んだ者たち…すなわちガントンら一行の事であるが、彼らは二度とブド・ライアーの依頼を受けるつもりはない。ゆえに商業ギルドにいくら依頼を出しても来る筈はないのである。


 また、埋め立ての工事自体も思うように進まない。理由の一つにブド・ライアーの見落としがある。作業量を単純な計算で行ったのは以前にも述べたが、もう一つ作業手順がある。

 単純に土を埋め立ててそれで終わりではない事である。土を埋め、そこを突き固める…、その手順をブド・ライアーは知らなかった。

 日本の(ことわざ)に雨降って地固まるというものがある。用法としてはさておき、新たに庭石などを敷き直した場所などは固まっていない事が往々にしてある。そんな状態は時間が解決してくれたりする。時間をかけ土がしっかりと沈み、雨がそれに拍車をかける。水気を含んで重くなったた土がしっかりと掘り返した土壌を落ち着かせる。

 逆に言えばただ土を盛っただけでは時間と共に地盤が沈む。ゆえにガントンらは石木(せきぼく)で万里の長城のような形状の橋をかけた。いわゆる版築(はんちく)(外枠を作り、中に土を突き固めながら建てる工法)の技法である。ただ掘った土を持って来て埋めれば良いと考えたブド・ライアーの誤算がそこにある。


 そしてブド・ライアーの商売の根幹、塩の売り上げが激減しているのである。塩の街道(みち)の改修も上手くいってない為、物質の運搬も滞りがちだ。仕方なく少し遠回りとなるが窪地を避け徒歩で運ばせた。今は水も引いてきた為に窪地を通る荷馬車もいる。

 そんな中、海のある地域からやってくる塩は貴重で町衆は先を争うように買っていくものと思っていた。しかし、そうはならなかった。

 『白い塩』…、皆がそう呼んでいた冒険者ギルド前で妙な機巧(からくり)を使って売られていたあの塩…、あれに人が群がっていた。そのせいだ…、町の北西部のどちらかと言うと貧しい地域の者たちが買っていた塩が今や町中の者が買いに行くようになってしまった。おかげで商会の塩が売れない、誰だ?誰が売っている?まずはそこを突き止めるか…、毎日あれだけの量を売るなら仕入れをどこからか行っているはずだ。まずは町の外から来る荷馬車に目を光らせるか…。それで誰が塩を売っているかが分かる。

 あれだけの白い塩だ…、必ずや何処かで精製しているはずだ。あるいは精製してから持ち運んできているのか…。


「まあ、どっちでも良いか。俺は塩だけ売ってる訳じゃねーし」


 ブド・ライアーはほくそ笑む。


「俺は塩だけの男じゃねーんだよ。他にも手広くやっている。色んな物を売ってんだ。今は塩売って良い気になってりゃ良いぜ。だが、今売ってる塩の在庫が無くなったら商売が立ちいかねえようになる。それまでに俺は他の(モン)売ってりゃ良い…。それで例の塩売りが窮したところを…」


 にやあ…、ブド・ライアーはいやらしい笑みを浮かべる。


「…買い叩いてやる」


 いつものようにな…。そう付け加えてブド・ライアーはもう用は無いとばかりに使用人たちを部屋から退出()し、お気に入りの酒を一杯呷(あお)るのだった。

 今回で第四章、ゲンタの塩販売は終了です。

 次回より五章が開始になります。よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ブドライアーの勘違いがいつも通りで安心したw買い叩くとか、そんなことばかり考えてるから人が離れるんだぜ。たしかに利益を求めるのは商人として当然だけどね
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