表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
信長の庶子  作者: 壬生一郎
津田所司代編
114/190

第百十四話・天正争乱

 俺の予想に反し、四日後の早朝に、黒田官兵衛は単身京都所司代屋敷へと戻って来た。その時俺は新次郎と共に槍の稽古をし、存分に打ち据えられていた。


 「新次郎は加減がないな。疋田殿の時は、打ち身などしたことは一度もないのだが」

 「加減出来る程、殿は弱くございません」


 何というか、言葉足らずな説明を貰いつつ、俺は打ち身を冷やす。


 「どうぞ」

 スッと、井戸水で冷やされた布が手渡された。見ると、可憐な少女という言葉がピッタリと似合う娘が一人立っていた。目は肩口の赤らんだ肉に注がれており、俺よりも余程痛そうにしている。


 「ああ、ありがとう。このようなもの、すぐに治るから気にせずとも良いのだよ」

 「でも……」

 「新次郎にも渡してやってくれ」


 言うと、少女はゆっくりと首を横に振り、隣を見た。そこには既に白い布を少女から手渡されている新次郎の姿があった。よく似ており、それでいて向こうにいる少女の方が少し背が低いので姉妹だと分かる。『強い人は弱い人をあんまり虐めたらだめです』と言っている声が聞こえ、悔しさに唇を噛んだ。新次郎が首をキョロキョロと動かし、困っている。少しくらい困ればいいんだ。


 「朝からの御勤め、誠に敬服いたしますわ、所司代様」

 中庭の縁側に、少女達とよく似た女性が一人、俺は会釈を返し、お早うございますと答えた。


 「煕子(ひろこ)殿、何か不自由はございませんか?」

 「はい、所司代様のお陰で、私も、珠も華も、身に余る生活をさせて頂いておりますわ」


 惟任日向守光秀殿の御正室、煕子殿が上品に微笑みながら頷いた。痩せていて、それでいて年も四十を超え何ら色香を見せるような人物ではないのだが、どこか見惚れてしまいそうな雰囲気を持つ、気品のあるお方だ。森心月斎殿ご婦人と並び、織田家においての二大恋女房として知られる。斎藤家から浪人し困窮していたみぎりに、己の髪を切って売り、十兵衛殿が連歌会を開く金を工面した話は広く知られている。そして、妻からの内助の功に応えた十兵衛殿は今もって側室の一人も置かず、三男四女を儲け今に至る。


 「今頃夫は四国で何をしておられるのでしょうか」


 遠慮深い煕子殿は俺にだけ座布団を用意し、自分は座らずにいたので、娘の珠、華に皆の分の座布団を持って来てくれと頼んだ。はいと二人が頷く。素直だ。どちらかと言えば珠の方がおしとやかで、華の方が元気である。


 「十兵衛殿は優秀です故、ついつい、右府様も某も頼りにしてしまいます。今頃瀬戸内の魚釣りなどしつつ調略を進めておられるのではないでしょうか?」


 四国勢は、大将に三七郎を据え、実質的な指揮官には十兵衛殿が入った。惟任の姓が九州の名族である為西国においての効果を期待したという点、長宗我部家との知遇があり、四国勢の取り纏めに適しているという点が抜擢の理由だ。無論のこと、前提として今言った通り十兵衛殿が優秀であるからという点も挙げられる。


 「お元気だと宜しいのですが」

 憂い顔で、遠くを眺める煕子殿。憂い顔も良く似合うなあと思う。


 彼女達は十兵衛殿の領地近江坂本に屋敷を構えて住んでいたが、この程十兵衛殿が行儀見習いに、と言って送り込んできた。その時は賑やかになって大変宜しい。くらいに思っていたのだがどうやら、『家族が少なくなって家が寂しい』と俺が愚痴っているのをどこかから聞き付けたのが彼女らを俺に送り付けた理由であるそうだ。


 俺は、嫡男の勝若丸を安土に置いている。母上と、御坊丸に藤も同じく安土である。母上は父上の面倒を見るのに丁度良いし。弟妹も幼い頃に両親がいる環境があれば良いだろう。勝若丸も、きっと可愛がって貰えるはずだし織田家に対しての愛情も育まれるに違いない。俺が側に置いておくよりも余程良い。


 とはいえ、旧公方御構を暮らしの場としてしまっては余りにも広すぎる。村井の親父殿は隣の屋敷に住んでいるし、ハルですら、親父殿の面倒を見に出かけてしまい俺の相手をしてくれなかったりするのだ。うかつに近づくと『仕事をして下さい』と言ってくる。それは確かに、仕事はいつでも山積みではあるが、それがどうしたと言うのだ、と一度開き直ってみたら睨まれたのでスゴスゴと引いて客人の相手などをした。いっそのこと公方様の亡霊でも良いので現れてくれないかとすら思っていた。一緒に詰将棋でもしよう。この天下は何手詰めでしょうか?


 そんな状態の俺に対し、十兵衛殿は当初三女の珠か四女の華を送りつけようとしたらしい。すると、一緒が良いと娘達が言い出し、坂本よりも京都の方が夫に近いと煕子殿がいじらしい事を言った。十兵衛殿が俺に手紙を出し、全員一緒の方が賑やかで良い。と結論付けた俺が全員招き、今に至る。


 非常にほのぼのとした経緯を辿ったように見える一連の流れだが、重要な意味もある。人質という意味だ。惟任殿を疑うようでは信頼出来る人間がほぼいなくなってしまうと俺は思うが、俺が家族を安土に住まわせている状態も、言ってみれば人質を差し出している状態である。野心が無いことを対外的に主張する為の、十兵衛殿なりの処世術である。


 「タテ様、官兵衛様がお待ちでございますよ」

 暫く話をしているとハルがやって来た。そうだ。官兵衛がやって来たからこうして稽古を切り上げたのだった。


 「いやすまない。急いで向かおう。官兵衛殿は?」

 「お食事の部屋でお待ちです」


 分かったと言って、『頭巾』を付けて貰う。今は周囲に目があるので目の前の山に手を付けることはない。揺れている。もう少し袂をはだけてその深い谷を

 「出来ましたよ」

 「痛い!」


 手早く頭巾を付けたハルに頭を叩かれた。何故叩くのかと苦情を言うと、煩悩退散の為ですと言われた。むう。


 小走りでさっさと『お食事の部屋』に向かう。無論そんな名前ではないが、茶室より一回り大きい程度の広さを持つその部屋に、俺が人を招いては食事をするのを見てハルがそう呼ぶようになった。既にあの部屋が本来持っていた名を覚えている者はいない。


 「いや、官兵衛殿申し訳ないな。待たせてしまった」

 部屋に入ると、官兵衛が一分の隙も無い姿勢で待っていた。とんでもございませぬと言って頭を下げてくる。


 「お連れの三人すら置いて、単身来られたと聞いたが」

 「はっ、取り急ぎ、所司代様にお詫びを申し上げたく、単身船に乗り、馬を飛ばし参りました」

 うむと頷く。その言い方からすると、良くない報告だろう。


 「報告の前に一つお聞きしたいが、貴殿、五畜は食えるか?」

 「……食えまする」


 突然何の質問だ? と訝しんだ官兵衛であったが、それでも余計なことは聞かずすぐに答えてくれた。うむと俺が頷くと、更に話を続ける。


 「拙者、所司代様と御母上様が提唱しておられる『食育』なる考えに深く感銘を受けておりまする。より多くの種類の食物をより良い配合で食べれば寿命も延び、健康であれると。誠理にかなっており申す」

 「それは良かった」


 理解者が一人いた。母上の名が少なくとも播磨まで到達していることについては不安であるが。パンパン、と外に聞こえるように手を二回叩いた。


 「では、聞こうか」

 「は……されば、我が小寺家、並びに実家の黒田家は別所小三郎様の要請に応じ、織田家との対決の意思を固めつつありまする」

 「……丹波に播磨が敵に回ったか」

 「拙者は織田に付く利を主に説きましたが受け入れられる様子はなく、間もなく出兵になろうかと」

 「武家の習い故、手切れは止む無し。恨みには思うまい」


 この四日間で、織田家が関与する二つの情報が京都にもたらされた。一つは姉小路頼綱卿が武田家に敗北し、飛騨から撤退したという報せ。もう一つは、上杉家が能登を接収したという報せ。どちらも久方ぶりの織田家敗北の報ということで、東国西国の反織田家勢力は喜びをもって伝えた。


 「織田家劣勢と見たか」

 「誠、愚かなことなれど」

 襖が開き、盆が差し出された。温かい急須に、陶器の器、一瞬、官兵衛がほう。という表情を作った。


 「この器の良さが分かるかな?」

 「は……目を奪われました」


 成程と言って笑う。中国由来の陶器の良さは、正直俺はよく分からないが、こうして客人が来た時に茶を出すとともに見せる。意外と食いついてくれる者は多い。緑茶とも麦茶とも違う、香りの強い中国茶を注ぎ、無作法に盆にのせ、そのまま奥へと押し出して渡した。先に一口、と言いながら自分でも飲む。少しぬるい。だが腹を温めるにはこのくらいだろう。


 「織田家にとって、此度続いた二つの敗戦は織り込み済みでございましょう」

 「……詳しく、貴殿のお考えを聞いても宜しいか?」


 確信を持った言い方に、グッと茶を飲みつつ答える。されば、と、官兵衛が話をする。


 「飛騨については、朝廷が動き再び姉小路家を名実ともに飛騨国主に、と話されておりました。これに抗ったということは即ち武田は朝敵。最早討伐を躊躇う理由はございませぬ」

 「二万の大軍を僅か五千で追い返したと、天下は大喜びだが、それも織り込み済みかな?」

 「追い返しただけにございましょう。そのうちの殆どが無傷で美濃に帰っております。次は三万、その次は五万の兵が飛騨や信濃へ向かうは必定」

 「能登については?」


 話を変えた。というか進めた。正解であったからだ。


 「上杉謙信の失策にござる」

 「ほう、軍神の一手を、それも短期間にて一国を得た妙手を、失策と仰せか」

 「余りに短兵急に過ぎまする。長続連(ちょうつぐつら)遊佐続光(ゆさつぐみつ)らを降し、一族を討ち滅ぼしたとてその家臣や一向門徒たる住民らが直ちに心服するなどあり得ませぬ」


 能登本来の主は畠山氏であるが、畠山氏は畠山七人衆と呼ばれる家臣達に実権を奪われ、傀儡と化していた。更に、その七人衆の中でも仲間割れが起き、官兵衛が先に述べた二人を含めた有力者達が主導権争いに勝ち、能登運営を行っていた。上杉謙信公はこれを一気呵成に呑み込むように陸路海路から攻撃し、全てを奪い取った。奪われた連中の一体誰が生き残り、誰が死んだのかはまだ分かっていない。


 「能登一国、上杉に対抗できる者が攻め寄せれば直ちに離反しまする。それが織田家であればなおのこと」

 「しかし、それは加賀とて同じではないのかな? むしろ、百姓の持ちたる国と言われた加賀の方が危ないのでは?」


 織田家の俺が、織田家の不利を述べる。そしてそれに織田家と敵対する家の者が反論する。何だか変な感じだ。


 「織田家は室町小路において浄土真宗と和を成し、本能寺の後にも協力成されたではありませぬか。この冬においても、大坂より多くの坊官が向かい、慰撫に務めたとの事」


 頷く。下間一族総出で加賀門徒を慰めてくれと頼んだのだ。戦いが全くなかったわけではないが、効果は大きかった。明らかに門徒から得た金を貯め込んでいる連中を叩き潰して蓄財を没収し、加賀門徒に分け与えると抵抗は更に小さくなった。織田と石山本願寺が和議を成した話や、長島で死んだ門徒衆は今手厚く供養され菩提を弔われているという話も広く流布させた。武力ではなく金や物や情報を惜しみなく使った為、この冬における加賀一国は織田家にとって大赤字の国であったが、その効果あってか、門徒衆は予想よりも遥かに大人しい。


 「加賀が上杉に合力する可能性と、能登が織田に合力する可能性、比べれば後者の方が遥かに高いかと」

 「加賀と能登が手を組む可能性は?」

 「無いとは申しませんが、そうなれば国力に勝る織田がやはり優勢」

 「お見事」


 成程、ではなくお見事と言った。俺が父から言われた内容がほぼそのままであったからだ。父は今後、三介を大将にし武田攻めをする予定である。その際の御守りは滝川彦右衛門一益殿、父は彦右衛門殿を関東管領職に就け、甲斐を攻めた後には北条家をも攻める大義名分を作るつもりである。与力に、まだ経験の浅い森長可と、森家の主力が加わるらしい。


 更に東海道からは徳川家が東へと進む。同時に、伊豆にいる今川氏真殿が兵を挙げ、駿河攻略を目指すそうだ。駿河は元々今川家が守護職を担ってきた家であるので、侵略ではなく、奪還ということになる。


 関東管領職及び、今川家の駿河守護職は朝廷の官職ではなく幕府が任命する役職である為、これを任命し、認めるのは当然勘九郎である。これらの任命によって織田家の権威も勘九郎の名も高まるだろう。唯一気になったのは駿河攻めの後、駿河を今川家に任せては徳川殿が不満に思わないかという点であるが、それに対しては心配無用だと勘九郎から手紙が来た。多分、駿河を東西で分け取りにするとか、駿河は徳川家でそのまま伊豆も攻め取って伊豆を今川領とするであるとか、そういうやり方をするのだと思う。


北陸は主力が浅井家、そして権六殿の与力に又左殿と内蔵助殿が加わる。両名とも、『親父殿の為ならば』と気合が入っていると聞いた。筆頭家老に相応しく、人望も厚いのだ、彼の猛将は。


 北陸の上杉も東海の北条も、浅井と徳川が主力を担う為織田家の兵力は殆ど使わない。となれば東の戦いはほぼ全力でもって、武田家のみに当たることが出来る。逆に、今名が挙がった三家は共に後背に敵を抱えることになる。北関東諸勢力や、常陸の佐竹氏、上総下総の里見氏等には織田家が既に手を回してある。三家でもって織田家を囲んだのではない。織田家が、三家を囲んでいるのだ。


 又、襖が開かれた。盆の上には、薄切りにしたパンを四角く切り、その上に野菜や肉やタレなどを乗せ、更にその上にパンを乗せて挟んだ食べ物だ。握り飯のように手で掴んで食うことが出来る。用意したものの一つは卵と鶏肉、一つは豚の燻製肉、最後の一つは牛の肉を揚げたもの。それぞれに野菜を挟んでおり、栄養の配合はとても良いとのことだ。細かく、一口大に切られている。


 「恐らく、大急ぎで来られたのでござろう。珍しい食い物で食欲は湧かぬかもしれないが、話のタネに一つご賞味あれ」

 話をして喉も乾いただろうと、急須を持ち上げる。官兵衛は残っていた茶をくいっ、と飲み干すと、両手で器を差し出してきた。注ぐ、官兵衛は立ち上がり、俺の器に茶を注いでくれた。


 それから、二人でパンを食べながら感想を述べた。手が汚れないし、箸が不要であるから糧食に丁度良いと官兵衛は言う。確かにと答えた。官兵衛は鶏肉と卵に胡麻だれをかけたものが最も旨いと言った。俺は牛の肉が良い。そう言うと年を取ればこちらになりましょうと言われた。そんな年でもないだろうにと、二人で笑った。


 「丹波に播磨、或いは丹後と但馬、この辺りの兵力を糾合し、決戦に及ぶとなれば、或いは勝ちの目があるのでは? と官兵衛殿は思わないのかな?」

 不意に俺が話を本筋に戻すと、官兵衛はそれに意表を突かれることも無く、何事もなかったかのように淡々と答えた。


 「ただ一戦の決戦にならば是と答えましょうが、小寺家が、或いは黒田家がということであればあり得ませぬ」


 分厚い肉を挟んだパンを口に放り込み、モグモグと噛みしめた。肉汁が口内で弾ける。どういう事かと訊くと、官兵衛は食べようと手を伸ばした燻製肉のパンを置き、答える。


 「仮に、決戦に我らが勝ち、恐れ多きことながら所司代様や右府様、或いは亜相様を討ち果たしたと致します。確かにそれで、織田家は崩壊するやもしれませぬ。ですが、勝った我らが、織田の領地をどう手に入れます? それも播磨の一豪族風情が首尾よく摂津に山城に河内にと、働きに見合った領地を得られると思われますか? 小高い丘に登れば一望できるような狭い領土を父祖伝来の地であると後生大事に守り続けている者らですぞ。国替えや領地替えを肯んじる者がどれだけおりましょうか。結局、勝った段階で仲間割れが始まり、西は毛利、北は上杉、東は武田に呑み込まれます。その時、小寺家の領土が寸土でも残っておればよいですが、そうなるとは思えませぬ。まして加増されるとはとても。織田家は、羽柴様を始め多くの外様、或いは出自定かならぬお方が出世なさっておられます。今織田家に付き、活躍をすれば播磨一国も夢ではないと、申し上げたのですが」


 そこで、官兵衛が這いつくばるように俺に頭を下げた。


 「京都所司代様。今しばらくの御猶予を、必ずや理を解き、主を説き伏せて参ります故、何卒」


 賢い。自分が天下の賢人などと思ったことはないが、それにしても自分では決して敵わないと思わざるを得ない人物になど、そうそう会えるものではない。今俺がここで自分の持っている情報を全て打ち明け、どうしたらよいだろうかと聞けば、即座に当意即妙な答えが返ってくるのだろう。だからこそ、惜しい。そこまで全て分かってしまう男が、どうして播磨の主家に拘るのか。羽柴殿は松下家にて出世の目がないと分かれば出奔した。十兵衛殿も、多くの場面において大胆に決断し、そして織田家に辿りついた。今この場で、織田家に仕えると言ってくれればそれこそ小寺官兵衛が播磨の主となれるかもしれないのに。


 目の前で這いつくばる男がそうしない理由、播磨と京都の間を往復する理由、そういったものも見えてしまうが故に、俺は悲しくなった。そして、死なせたくないと思った。


 「その儀には及ばない。貴殿の気持ちはよく分かった。某から右府様並びに亜相様に手紙を書こう。小寺家を決して蔑ろにせぬようにとお伝えしておく」

 「あ……有難き幸せ!」


 騙そう、この男を。俺はそう思った。こういう一途な人物が報われることは余りない。三好家では篠原長房殿がそうだった。三淵藤英殿や一色藤長殿もそうだと言える。両名については報われないめに遭わせたのは他でもなく俺だが。滅びた斎藤家や朝倉家でも、忠臣による忠言は殆ど顧みられることなく、大概は主に疎んじられ、切り捨てられる。


 「貴殿は供の者らが京都に到着するのを待ち、安土に向かわれよ」


 そうして、俺は二日程官兵衛を屋敷にて賓客として遇し、後から現れた三名と共に安土へと向かわせた。手紙には、この男の知略は使えるが、恐らく播磨に向かわせれば斬られるか、幽閉される。どうするかは父上と勘九郎の存念次第。戦になれば、黒田家はともかく小寺家は間違いなく滅ぼす故に心配無用。と書いた。


 「又、恨まれる心当たりが一つ増えたな」

 官兵衛一行が東へと向かった日の夜、俺は複雑な気持ちで空を見上げた。何が見えていたか、よく覚えてはいない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ