幕間:ミーアとアリス、初めての出会い
冒険者ギルドに勤めることが決まり、制服に袖を通して、初出勤した日のこと。
朝礼で大勢の平民の方々に囲まれた私は、ちょうどギルドマスターに紹介されるところで、とても注目を浴びていた。
「冒険者ギルドで新しく貴族対応をしてもらうことになった、ミーア嬢だ。仲良くしてやってくれ」
貴族の集まりならともかく、平民の方々と共に過ごした経験はない。
ここはホープリル家に恥じぬよう、貴族令嬢として正しく振る舞うべきだと思った。
「本日より貴族担当を勤めることになりました、ミーア・ホープリルと申します。よろしくお願いいたします」
ピーンッと背筋を伸ばして、指先まで意識して、丁寧にお辞儀する。
自分でいうのもなんだが、子爵令嬢としては上出来……のはずだったのだが。
「また随分と固そうな奴が来たな」
「ホープリルって言うと……、堅物の騎士んところか」
「あの鬼人と呼ばれた騎士の娘さんだな。父親に似て、随分と真面目そうだ」
思っていた展開と違い、第一印象は関わりにくいと決まった瞬間である。
本来であれば、この場に引継ぎをしてくださる貴族担当の令嬢がいるので、このような空気は生まれない。
しかし、本日は体調を崩されたとのことで、欠勤すると連絡が入っていた。
運が悪い……とは思うものの、引継ぎ作業もないまま、新人の私が貴族担当の仕事を任されることはないため、今日はあまり仕事がない。
よって、この時間を有意義に使おうと思い、平民の方たちの仕事をお手伝いすることにした。
うまくいけば、これで平民の方々とも仲良くなれると思うから!
「こちらのテーブルの上、書類の整理をしておきますね」
「……ど、どうも」
「ゴミがいっぱいになっておりますので、処分させていただきます」
「……あ、ありがとう」
「お茶をいれましたので、喉を潤してくださいませ」
「えっ? あ、はい。……えっ?」
その結果、全然打ち解けられなかった……!
身分が違うこともあり、互いに変に意識している影響か、うまく馴染めない。
逆に関わりにくい印象を与えているみたいで、ぎこちない笑顔を向けられてしまう。
私が何か行動する度、逆に心の距離が離れていくような感じがしていた。
そんなこんなで時間だけが過ぎていき、冒険者ギルドに昼休みを知らせる鐘が鳴り響く頃。まったく手応えのないまま、休憩時間に入ってしまった。
午後からどうやって過ごしたらいいだろう……と、打ちひしがれていると、冒険者ギルドの制服に身を包んだ同年代の女の子が近づいてくる。
「こんなこと言うと失礼かもしれないけど、ミーアさんの距離感がわからなくて、貴族という名の不審者になってるよ」
自分でもそう思うだけに、何も言い返す言葉が見つからない。
「ああー……はい、すみません」
「別に謝ってほしいわけじゃないんだけどさ。えーっと、普通に接してもいいんだったら、後でみんなに紹介する場くらいは作るよ」
頭をポリポリとかいて照れくさそうにする彼女の口から、とても素晴らしい提案をいただいた。
彼女の優しさが身に染みた私は、思わず前のめりになる。
「よろしいのですか……!」
「う、うん。なんか見ていられないくらい空回りしてるし」
平民の方々との距離感がわからなかったので、仕方のないことかもしれない。
ここは、彼女からいろいろと学びを得て、今後のコミュニケーションに活かしていこう。
「とりあえず、自己紹介からだね。私はアリス。冒険者ギルドは今年で三年目だから、まあまあ一人前扱いにはなってるかな」
「私は、ミーア・ホープリルと申します。冒険者ギルドの書類には目を通して参りましたので、簡単な仕事はこなせると思います。差し支えなければ、ご助力いただけますと――」
「待って待って待って。まず問題はそこなんだよね。なんでそんなに固い表現なの?」
「……これが一般的ではないのでしょうか」
「貴族同士だったら、の場合じゃないかな。平民の身からすると、話を聞いてるだけで肩が凝ってくるよ。言葉が難しくて、会話が成立してないような感じがするんだよね」
なるほど。皆さんの反応が悪かったのは、普段聞きなれない会話ややりとりをした結果でしたか……。
平民の方々と打ち解けるための関門として、言葉の壁が存在していたとは、盲点でした。
「言葉が難しいだなんて、とても難解なことをおっしゃいますね。貴族の中では、話しかけやすい風貌だと自負していたのですが」
「そういうところだよ。違和感がすごいもん」
「左様ですか。では、皆さんと打ち解けるために、まずは敬語を崩す練習から始めなければなりませんね」
今後の方向性が見えてきて、キリッと真剣な表情で課題を確認していると、不意にアリスさんに笑われてしまう。
「ぷっ! タメ口で話す練習なんてするもんじゃなくない? そのうちできるようになるから、心配しなくてもいいよ」
今すぐできることはないと言われてしまい、とてもムズムズする……。
早くアリスさんとも打ち解けたいのだけれど……と思っていると、私の肩に彼女の手が軽くポンッと乗せられた。
「ねえ、昼ごはんはどうするの? 前の貴族担当はダイエットで食べてなかったけど、ミーアさんもそういうタイプ?」
「いえ。無理なダイエットは続かないので、食堂か近くのお店でいただこうかと考えております」
「おっ、いいじゃん。いける口だね。じゃあ、ちょっと付き合ってよ」
「は、はい。ぜひよろしくお願いいたします」
今日は一人で食べることになると思っていただけに、このお誘いは嬉しい……!
善は急げ、と言わんばかりに、私はアリスさんと二人で冒険者ギルドを後にしていく。
「ねえねえ。貴族のお嬢様ってさ、本当に天蓋付きのベッドで寝てるの?」
「いえ、普通のベッドですね。かなり高貴な方でも、使用されている方は少ないと思います」
「マジか。夢が壊れたわ……。じゃあ、あれは? イケメンの執事さんが毎朝起こしに来て、耳元で囁いてくれるって話」
「私の知る限り、一人もいません。殿方は別として、基本的に令嬢の寝室に入る方は、同性だと思いますよ」
「うわー……。貴族の生活って、意外に夢がないんだねえ……」
平民の間では、貴族令嬢と使用人とのラブロマンスが流行っているのだろうか。
現実でそのようなことをしたら、勘当されるかもしれないというのに。
「あっ、私もお聞かせいただきたいのですが、平民の方々は友人の家にお泊りされる際、枕を投げ合う風習があるというのは、本当なのでしょうか?」
「うーん、微妙だね。やってみたらわかるけど、当たるとめっちゃ痛いんだよ」
「ご経験があるのですか!?」
「顔に当たって鼻血が出たから、もう二度とやらないかな。あれ、仲が悪くなるから。それよりさ、さすがにあれは本当でしょ? 高貴な身分の息子が平民の女の子と恋に落ちて、駆け落ちを……」
この後、アリスさんから貴族あるあるというものをいくつか聞かされたが、思い当たる節は一つもなかった。
しかし、それが逆に話のネタになったみたいで、アリスさんに平民の方々に紹介された際、意外にすんなり受け入れられることとなる。
「「「ええー! 貴族なのに、裏通りのパン屋さんのパンを食べてるの!?」」」
「あちらの店のパンは、おいしいと思いますよ」
「「「いや、わかる。親近感が湧くわ~」」」
平民の方々と仲良くなるためには、共通点を見つけるべきなんだと、私は察するのであった。
【あとがき】
本作の書籍1巻を記念として、幕間を書かせていただきました。
下記に表紙の画像もありますので、ぜひぜひチェックしてみてください。
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