第85話:魔装具の功績
魔法陣を破壊してから、一週間が過ぎる頃。騎士団が瘴気の浄化を終えて、王都周辺の魔物が減少し始めていた。
冒険者ギルドと協力体制を取っていた治安対策も終わり、今ではスッカリ元通りになっている。誰も不安を感じる人はいないようで、街中はワイワイと賑わっていた。
これには、ようやく薬草栽培が正常化して、市場に出回った影響も大きいだろう。
錬金術ギルドにも問い合わせが多く、ポーションの作成依頼を積極的に発注していると聞く。
ポーション不足が解消される日も、すぐそこまでやってきているのだ。
私もポーションの納期が迫りつつあり、忙しい日々になりそうではあるのだが……。
宮廷錬金術師の工房には、肝心の主の姿がない。魔力焼けを起こしたクレイン様の手は重症で、休養を余儀なくされていた。
どうしても回復には時間がかかるみたいなので、今はゆっくりと休んでほしい。毎日、朝早くに出勤して研究ばかりしていたから、心と体を休める良い機会になるだろう。
そのためにも、クレイン様が戻ってくるまでの間、私がしっかりと工房を守り続けなければ……などと思って、気合いを入れていたのは、数日前のこと。
今となっては、一刻も早くクレイン様に戻ってきてほしいと思っている。
なぜなら、私はいま――――。
「ミーア・ホープリルよ。此度の件、見事であった」
破魔の矢を作った功績を称えられ、謁見の間で国王様と向かい合っているのだ。
私室で話し合いをした時のように緩い雰囲気ならまだしも、この場には有力な貴族や大臣などが多数出席していて、とんでもない緊迫感に包まれている。
何より私の頭を悩ませているのが、上司であるクレイン様が安静にする代わりに、出席してくれた人物のことだった。
「相変わらず詰まらない儀式だねえ。こんなの誰も喜びやしないよ、まったく」
どうして空気の読めないオババ様が代理なんだ! 絶対に余計なことを言うとわかっているんだから、別の人にしてほしかったよ!
普段は絶対に式典とかに出席するような人じゃないのに……うぐぐっ。完全に有難迷惑というやつだ。他に頼める人がいないし、文句を口にできる立場じゃないけど。
周りの貴族たちから冷たい視線を浴びる私は、早くも冷や汗が止まらない。全身を針で刺されているような感覚になり、喉がカラカラになっていた。
そんな中、国王様が気にする様子もなく話を進めるため、ついに私の出番がやってくる。
国王様にゆっくりと近づき、立膝をついた後、破魔の矢を差し出した。
「こちらが今回使用した破魔の矢です。本来の力は失われましたが、まだ付与効果が残っているため、国王様に献上いたします」
「うむ。しかと受け取った」
ようやく出番が終わった……と思いつつも、私は気を緩めない。貴族の振る舞いをしっかりと意識して、国王様に一礼した後、ゆっくりと後ろに下がる。
最近はポカをすることが多いため、今日だけでも貴族らしく振る舞うと決めていた。そして、無事にミスすることなく役目を果たしたはずなのだが……。
力を失われた破魔の矢を見て、周囲の貴族たちが騒めき始める。
「力が失われた? 本当に魔装具だったか怪しいものだな」
「フンッ。見習い錬金術師が魔装具を作るなど、作り話に過ぎん」
「万が一、魔装具が事実だった場合、製作者は別にいる。こいつは替え玉だ」
素直に受け入れられる様子はなく、とんでもない深読みする人まで現れるが、私もそうなることくらいは予想していた。
本来であれば、見習い錬金術師が作るものではない。正確に言えば、作ってはいけないもの、と言った方が正しいだろう。
見習いが作れるほど簡単なものだと誤解されたら、他の錬金術師は何をやっているんだと勘違いされてしまう。
だから、多少の批判くらいは受け入れるつもりだ。
しかし、この場には冒険者ギルドで働いていた時に付き合いのあった方や、ポーションの取引をしている方もいらっしゃるわけで――。
「素直に称賛できぬ者ほど、嫉妬深い傾向にある。王の御前であるというのに、恥ずかしい奴らだ」
勝手にバチバチと言い争いが生まれ、派閥争いに巻き込まれたような雰囲気があった。
さすがに場所が場所なので、クレイン様とゼグルス様の言い争いよりはヒートアップしていないけど、隣に厄介な人がいるから、余計に話がややこしくなってしまう。
「どこの貴族も詰まらない連中ばかりになっちまったねえ」
オババ様まで言い争いに混ざらないで……と思っていると、国王様の大きな咳払いで、謁見の間が静寂に包まれた。
「魔装具を制作した褒美を取らそう。ミーア・ホープリル、其方は何を望む」
人というのは不思議なものだ。国王様の言葉を聞いただけで、先ほどまでの心配な気持ちがすべて吹き飛んでしまう。
なぜなら、合法的に国をバックに付けるチャンスが、ようやくやってきたのだから。念願のボーナスステージ到来である。
だるんだるんに緩みそうな頬をキュッと引き締めた私は、国王様を見上げた。
「私はまだ見習い錬金術師の身です。このまま錬金術に集中できる環境に身を置けると幸いです」
「そうか。では、引き続きクレイン・オーガスタの下で錬金術に取り組むといい。再び著しい功績を上げることに期待しておるぞ」
「ありがとうございます……!」
安泰した錬金術生活を確保できて、思わず私は口元にハンカチを当てる。
これで変な縁談話が来ることはない。そう思うだけで、頬を緩めずにはいられないのであった。







