第84話:忘れられた人物
ようやくすべてのことが片づき、平穏な日々が訪れると思っていたのだが……。
使用した破魔の矢を騎士が回収してくれて、わざわざ持ってきてくれた時、もっとも放置してはならない人物の存在に気づいてしまう。
「あっ。オババ様に見せるの忘れてた」
国王様が頭を下げ、破魔の矢の情報と素材を提供してくれた以上、一言伝えておくべきだっただろう。
オババ様の性格を考えたら、時間が経つほど面倒くさいことになりそうだ。
よって、急いでイチゴ大福を三箱も買い、破魔の矢を見せに来たところ――、
「カアアアアアッ! 力を失った魔装具なんて見せに来てどうするんだい!」
案の定、差し入れに持っていたイチゴ大福を頬張るオババ様に怒られてしまった。
急いでいたとはいえ、完全にこちら側のミスなので、何も言い返すことはできない。思わず、私はタジタジになってしまう。
「すいません。状況が状況だっただけに、報告するのを忘れていました」
「その年でもう物忘れかい? あんたの頭の中には、錬金術のことしか入ってないみたいだねえ」
「あははは……。自分でもそう思います」
なんといっても、初対面だったゼグルス様を怒らせたり、国王様に失礼な態度を取ったり、貴族らしさがなくなったりと、錬金術以外はどんどんダメになっている。
さすがにそろそろしっかりしないと……と思っていた矢先に、オババ様の存在を忘れていたのだ。
「無事に破魔の矢が作れて、魔法陣を壊せたんだからいいじゃないですか。終わり良ければすべて良し、と言うことにしてください」
「フンッ。この程度の魔装具じゃ、下級魔法陣くらいしか壊せやしないね。もっと付与のレベルを高めないと、痛い目を見るかもしれないよ」
……ん? オババ様、いま変なことを言わなかった?
「下級、魔法陣?」
「そうさ。瘴気でちっぽけな魔物を生み出すなんて、低レベルな次元の話じゃないか。普通はもっと大きな魔物を作り出すか、短期間のうちに魔物を大繁殖させるだろうね」
オババ様は何を言っているんだろうか……と思う反面、国王様の語られない歴史のことを思い出す。
『世界に瘴気と魔物を生み出し、凶悪な魔物が大地を支配した混沌の時代を作ったと語られておる』
前回の魔物の繁殖騒動も、魔法学園の生徒が関わっていたから被害が大きくなっていただけにすぎない。
明らかに被害が少ない現状を考えると、オババ様の言葉が正しいような気がした。
「怖いことを言わないでください」
「事実を言ったまでさ。前にも言ったがね、錬金術は生殺与奪の権利を持っているんだよ。いろんな意味でね。イーッヒッヒッヒ」
破魔の矢の威力を見た後で聞くと、オババ様の言葉の重みが違う。
魔装具を作れるようになったら、とんでもない兵器を作れるだろうし、もっとすごいポーションだって作れるようになるはず。
制作者の力量次第で、幸せも不幸せも作り上げることができるのだ。神聖錬金術を使えば、それが顕著に表れる。
「あの~……。神聖錬金術と古代錬金術って、別ものなんですよね」
「当たり前だよ。一緒にしないでおくれ。破滅に導く古代錬金術と違って、神聖錬金術は未来を切り開くものさ」
「じゃあ、古代錬金術の対抗策として、神聖錬金術が生み出されたんですか?」
「いいや、逆だね。すべてを破壊するために、古代錬金術が生み出されたんだよ。憎しみによってね」
すべてを壊したくなるほどの憎しみ……か。知りたいようで知りたくない内容だなー。
「まったく、そんな古臭い話はどうでもいいんだよ」
「これ以上は教えるつもりがない、ということですね」
「ヤイヤイとうるさい子だねえ。そんなところが破魔の矢の付与に現れるんだよ。もう少し丁寧に付与することを心がけな。このあたりなんか手を抜いて……」
強引に話を変えたオババ様は、破魔の矢のダメ出しを始めてきた。
とても細かいところを指摘されている気がするが、オババ様は私よりもハッキリと魔力路を認識しているからできることなんだろう。
錬金術を深く知る度、オババ様がずっと遠くにいる存在だと痛感する。
戦争で多くの人々の命を奪い、『悪魔の錬金術師』と恐れられたオババ様。それと同時に、大勢の人々の命と国を守ってきたのも事実だ。
錬金術で生み出したものが悪用されるかもしれない。でも、それ以上に助けになっているのであれば、錬金術をする意味が――。
「あんた! 人の話を聞いてんのかい!」
「えっ? あっ、すいません。ちょっと疲れていて聞こえていませんでした」
「カアアアアアッ! 物忘れが早いと思ったら、耳まで遠くなっちまったのかい!」
「あははは……。神聖錬金術で魔力を使い過ぎましたかね。ちょっと甘いものでもいただきましょうか」
「お待ち! 勝手にイチゴ大福に手を付けるんじゃないよ」
「差し上げたとはいえ、私が買ってきたものです。一つくらいいいじゃないですか。あっ、全然お茶とか気にしなくても大丈夫ですので」
「茶まで要求するんじゃないよ、まったく。我が儘な子だねえ」
と言いつつ、オババ様はお茶をいれに行ってくれる。
今日は長期戦になりそうな気がするけど、破魔の矢の報告を忘れたお詫びも兼ねて、オババ様の話し相手を勤めるとしよう。
「そういえば、少し前に身に付けていた破邪のネックレスも完成したんですよ」
「どれどれ、見せてみな」
「あっ、すいません。もう元の製作者に返しました」
「カアアアアアッ! あんた、馬鹿にしてるんじゃないだろうね!」
「してないです、してないです。ちょっと報告の順番がズレただけで……」
今度何かを作ったら、真っ先にオババ様に見せにこようと、私は改めるのであった。
『あとがき』
本日四話更新して、第二部が終わりになります。
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