第75話:魔装具作成5
魔装具を作りたいという熱い想いを伝えるため、私はグッと手に力をこめる。
「縁談の話を断りたいんです!」
「……ん? えっ? ん、んんっ?」
珍しくヴァネッサさんが戸惑いを見せているが、そんなの関係ない。
ついに縁談の手紙が宮廷錬金術師の工房にまで届き始めた私にとっては、非常に重要なことなのだ。
家に手紙を送ってくることは理解できるが、職場にプライベートな手紙を持ち込んでくるなんて、言語道断。貴族のマナーを……いや、社会人のマナーを逸脱した失礼極まりない行為だと言えるだろう。
いくら身分の低い子爵家であったとしても、我慢の限界がある。
なんといっても、クレイン様に『……俺がひとこと言っておこう』と、思いっきり気遣われたんだから! 職場の上司にそんなことを言われる気持ちにもなれ、って話だ!
こんなことを一人ずつ対応していたら、そのうち変なトラブルに巻き込まれるに決まっている。また色恋沙汰のトラブルが起きたら、錬金術師としてのイメージまで悪くなりかねない。
だから、私は魔装具を作りたい。たとえ不純な動機であったとしても、魔装具を作った先に楽しい錬金術生活が待っているのだから!
「訳あり貴族や空気の読めない貴族と結婚したくないんです。王都で少し良い噂が流れたタイミングで婚約を申し込んで来るなんて、ろくでもない男だと自分で言っていると思いませんか? 結婚したら絶対に苦労しますよ」
「み、ミーアちゃん? あの、求めていたものと違うんだけど」
「私だって、幸せになりたいんですよ! 結婚だけが女の幸せじゃないと思いませんか! ヴァネッサさん!!」
「シーッ! ミーアちゃん、シーッ! ここ、錬金術ギルドだから」
あの自由奔放ヴァネッサさんに注意されて、私はハッとした。
いろいろと大変ですね、と言いたげな視線を周囲に向けられるが、貴族スマイルを浮かべて無理やり誤魔化す。
もう少し貴族意識を持って、お淑やかなに振る舞わなければ。
最近は反省してばかりだな……と思いつつ、落ち着きを取り戻した私は、ヴァネッサさんに小声で話しかける。
「最初はリオンくんの力の腕輪で怪力令嬢になって、物理的に圧をかけようと思ったんです。でも、女の子が付けるデザインじゃなくて、断念せざるを得ませんでした。なので、私が魔装具を作って、国をバックにつけることにしたんですよ」
途中で熱くなりすぎるというハプニングが発生したが、言いたいことをすべて伝え、包み隠さずに話した。
すると、なぜかヴァネッサさんがクスクスと笑い始めてしまう。
「やっぱりミーアちゃんは面白い子ね」
「とても真面目に話しているんですけど、もしかして、バカにされてます?」
「してなーい、してなーい」
絶対にしてるじゃないですか、もう。
「もちろん、単純に作ってみたいなーと思うところはありますよ。秘めた力を持つ魔装具を身に付けていたら、カッコいいですからね。オババ様が言うには、空も飛べる魔装具もあるみたいなので」
「夢があっていいと思うわ。変な男と結婚しないように魔装具を作るなんて、不純な動機だとは思うけどね」
「大事なことですよ。いま、私は人生の分かれ道に立っているんですから。錬金術ができる生活と、婚約者に首輪を付けられる生活という二択です」
「それは前者しか選べないわね」
「そうなんですよ。だから、魔装具について、知っていることを教えてください」
頑なに教えてもらおうとする私は、ヴァネッサさんに詰め寄る。
すると、気が変わったみたいで、内緒話をするように顔を近づけてきた。
「ミーアちゃんは魔力路がわかるのよね?」
「はい。これが特別なことだとは思わなくて、さっき知ったばかりです」
「それなら話が早いわ。私の作った破邪のネックレスには、付与を使っても魔力が通せなかった魔力路が一本だけ存在するの。それが魔装具になり切れなかった原因よ」
「えっ? そんな場所ありました? 何度か拝見してますけど、魔力を流せそうな場所なんてどこにもありませんでしたけど」
私が魔力を感知する限り、綺麗に魔力が付与されている形跡しか見当たらない。
ここにもう一つ違う魔力を付与しようと思うと、大きくバランスが崩れて、魔装具から遠のくような気がした。
ただ、それを教えようとしてくれているのか、ヴァネッサさんが破邪のネックレスを触り、魔力を流す。
すると、ネックレスが呼応するように光った。
「おかしいと思わない? 常時発動型の装備が、魔力を消費しないと起動しないなんて」
「……あっ」
一般的なランプの魔道具であれば、魔石という動力源を組み込み、付与した力を制御する。リオンくんの力の腕輪も同様で、装備者の魔力を用いて起動するだろう。
ただ、聖なる矢や聖光の矢みたいなアイテムは、常に魔力が循環していて、破損しない限り効果が失われることはない。
つまり、魔力を流せること自体がおかしく、本来は術者の魔力を消費しないアイテムであって――。
「装備者が動力源になっていることがおかしい、ということですね」
「そうよ。本来は魔力が循環して、エネルギーを生み出す仕組みなの」
「じゃあ、この魔力路に魔力を付与することができれば……」
破邪のネックレスが完成する、ということか。
おそらく形成と付与を二重展開していたのは、性能を向上させるためではなくて、魔力路を作っていたんだ。
ヴァネッサさんの精密な魔力操作でもそこに付与できないなら、普通の方法では難しいだろう。
それなら、魔装具に昇華させる方法は一つしかない。
「後はミーアちゃんの好きなようにするといいわ。知っていたところで魔装具が作れるか作れないかは、別の話だもの」
「なんとなく魔装具の構造が把握できたので、やれるだけのことはやってみます」
「ミーアちゃんが魔装具を作れるように祈っておくわね」
「ありがとうございます」
いつもより柔らかい笑みで見送ってくれるヴァネッサさんを見て、私は思った。
本当はまだ錬金術がやりたくて、自分の手で破邪のネックレスを完成させたかったんだな、と。







