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【漫画3巻発売中】蔑まれた令嬢は、第二の人生で憧れの錬金術師の道を選ぶ ~夢を叶えた見習い錬金術師の第一歩~【Web版】  作者: あろえ
第二部

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第74話:魔装具作成4

 本当に魔装具が作れるかもしれない、そんな気持ちに後押しされた私は、すぐにオババ様の元に走った。


 いつも肝心なことは言わないオババ様のことだから、一筋縄ではいかないだろう。でも、ご機嫌取りに栗饅頭を持っていけば、きっと少しくらいはヒントをくれるはず。


 そう思っていたのだが――。


「むぅ……。オババ様の意地っ張りめ」


 あっさりと追い返されてしまった。しかも、きっちりと栗饅頭を取られた後で、である。


 簡単に協力してくれる人じゃないとはわかっていたけど、私に仕事を押し付けたんだから、少しくらいは教えてくれてもいいのに。


 古代錬金術を打ち破る方法を知っているなら、どういう状況か理解していると思うんだけど。魔装具が作れなかった時は、国王様の元にオババ様も連れて行こうかなー。


 ブツブツと文句を言いながら、私は王都の街中を歩き進めていく。


 すれ違う人々は幸せそうで、街の様子に異変はない。古代錬金術のことは一部の人にしか知らされていないので、落ち着きを取り戻しているみたいだった。


 これには、国王様が機転を利かせたことも影響しているだろう。


 魔物の繁殖騒動が大きな混乱をもたらしたと認め、冒険者ギルドと協力体制を取り、騎士団と共に治安対策を強化している。


 街中の警備はもちろん、街道にも大勢の騎士を派遣して、周囲一帯の安全を確保。民間人を移動させる馬車にも補助金を出し、一時的に護衛依頼の人数を増やすようにしていた。


 魔法陣のあるエリアに近寄らせないようにする思惑と、市民の不安が解消される良策だと言えるが……。


 今のうちに対策を取らなければいけない側の立場としては、ちょっと気が重かった。


「一か月も二か月も時間をかけられるとは思えないし、頼れそうな人には頼っておいた方がいいよね」


 そう思ってやってきたのは、ヴァネッサさんのいる錬金術ギルドだ。破邪のネックレスを完成間近まで作り上げた彼女なら、何かわかるかもしれない。


 でも、古代錬金術のことは国王様に口止めされているから、こちらの事情は話せない。それだけに、協力してくれるかは未知数だった。


 不安な気持ちを抱きながら錬金術ギルドの中に入ってみると、幸いにも混んでいなくて、人が少ない。受付女性も事務仕事をする余裕があるくらいだ。


 ヴァネッサさんもカウンターに座り、山のように積まれた書類を整理していたので、ゆっくりと近づいていく。


「あら。ミーアちゃん、いらっしゃい」

「お邪魔してます、ヴァネッサさん。真面目に仕事しているなんて、珍しいですね」

「たまにはね、仕事したいなーって気分だったの」

「絶対に違いますよね。あまりにも仕事をサボりすぎて、怒られただけなんじゃないですか?」


 ヴァネッサさんの手がピタッと止まるあたり、やっぱり無理やり仕事をさせられていると、よくわかる。


「はぁ~、涙を流さずに聞いてね。実はギルドマスターに仕事を任せていたのに、やってくれていなかったのよ。挙げ句の果てには、人を頼らずに自分でやれ、って言われてね。酷いと思わない?」

「いえ、まったく。自業自得ですね」


 どうしてヴァネッサさんが錬金術ギルドのサブマスターを続けられるのか、不思議で仕方ない。冒険者ギルドだったら、三日でクビになっているだろう。


 これが噂の天下りというやつかな……と不穏なことを思いつつも、私はシュンッとするヴァネッサさんの前に腰を下ろした。


「逆によくここまで書類を溜め込みましたね」

「ミーアちゃんって、意外に褒め上手なのね」

「褒めてませんよ。まあ、ある意味では感心しますけど。私は怒られるのが怖くて、こんな真似はできませんから」


 周りの目を気にすることなく自由に生きるヴァネッサさんだからこそ、こうして仕事を溜めこめるんだと思う。


 真面目に出社しているなら、もう少しちゃんと仕事したらいいのに。錬金術ギルドの奥でギルドマスターが睨みを利かせてるから、自由の代償は大きそうだ。


「ところで、今日はどうしたのかしら」

「……あまり大きな声で言いたくないんですが、ヴァネッサさんと話がしたくてここに来ました」

「そう。デレ期に入ったのね」

「違います。言えない事情があるだけなので、そのままの意味で捉えないでください」

「ついにミーアちゃんがデレ期に……!」


 どうやら聞こえていないらしい。なぜか照れたヴァネッサさんが恍惚の表情を浮かべている。


 話を長引かせるとややこしいことになりそうなので、私はいきなり本題から入ることにした。


「破邪のネックレスについて知りたいんです。ヴァネッサさんからいただいたネックレスは、魔装具と認められるまで、あと一歩なんですよね?」


 錬金術の話になった途端、さっきまでの照れていた姿はどこにいったのやら……。


 急にヴァネッサさんの顔つきが変わり、ピリッと張り詰めた空気が生まれてしまう。


「錬金術師に製作物のことを問いただすのは、マナー違反よ。いくらミーアちゃんでも、教えることはできないわ」

「お願いします。どうしても魔装具を作りたいんです」

「無理ね。私はもう錬金術師を引退したんだもの」


 スパッと言い切るヴァネッサさんに、これ以上のことは聞きにくい。真っ当な言い分だけに、言い返す言葉も見つからなかった。


 ただ、オババ様に追い返されたばかりの私は、心に大きなモヤモヤを抱えてしまう。


 魔装具の作らせようとしてきたオババ様といい、破邪のネックレスの未練を託してきたヴァネッサさんといい、どうして非協力的なんだろうか。


 押し付けてきているような形なんだし、ちょっとくらいは手伝ってくれてもいいのに。


 未だかつてないほどひねくれた私は、ムスッとした表情を浮かべて、ヴァネッサさんをジトーッと見つめる。


「…………」

「…………」


 しばらくすると、さすがに思うところがあったのか、ヴァネッサさんは大きなため息を吐いた。


「ミーアちゃんには、一歩ずつ乗り越えていってほしいの。近道しても良いことはないわ」

「言いたいことはわかるんですが、私には時間がないんです。今すぐにでも魔装具を作る力が欲しいんです」

「じゃあ、そこまでして作りたいと思う理由を聞いてもいいかしら。ミーアちゃんの心を動かす原動力を教えてほしいの」


 ヴァネッサさんがお姉さんモードに突入した姿を見て、オババ様よりも話がわかる人でよかったと安堵する。


 あとはもう……この熱い想いをぶつけるだけだ! 貴族女性なら誰もが抱く、この熱い想いをッ!!

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