第73話:魔装具作成3
リンゴの魔力を読み取り終えた後、肝心の中身を確認して、答え合わせをすることになった。
ナイフを持ってきたクレイン様に、リンゴを切ってもらうと――。
「朝食に食べ損ねたリンゴだったが、随分と出来の良いものだったな。ミーアの言う通り、甘そうなリンゴだ」
半分近くが蜜で埋め尽くされていて、とても瑞々しいリンゴだった。
せっかくクレイン様が皮を剥いてくれているので、リオンくんと一緒にいただくことにする。
「う~ん、甘いですね」
「う~ん、甘いですね」
クッキーやケーキなどの菓子類も捨てがたいけど、果物は酸味が利いていて、サッパリとした後味がいい。そして、仕事中に食べる背徳感で、より一層おいしく感じる。
「お前ら、相変わらずだな」
ハッ、またリオンくんとシンクロしてしまったようだ。双子でもないのに、いったいどうして。
「冗談はさておき。俺やリオンの魔力感知は、基本的にリンゴの表面を中心に読み取っている。内部魔力に関しては、かなり曖昧なものだ。だが、ミーアは違うだろ」
「そうですね。リンゴの内部魔力も読み取れますし、普段の仕事でも魔力をしっかり認識するように意識しています。言われてみると、徐々に判断できるようになった覚えがあるんですけど……。いつ頃だったかな?」
私の記憶にある限り、魔力を強く意識するようになったのは、元婚約者の元で薬草の下処理をしていた時のこと。
婚約者の役目を果たすため、少しでも品質の良いポーションを作ってもらおうと懸命に努力して、試行錯誤を繰り返していた。
ちょうどその頃に冒険者ギルドで働くことが決まり、ポーションの査定で錬金術に触れるケースが増え、少しずつわかるようになっていった気がする。
「俺と出会った頃は、まだ完全にわかっていない様子だったな。しかし、そこから駆け足で階段を上るようにして、才能が開花したことをよく覚えている」
「確かに、クレイン様がいろいろなポーションを持ってきてくださってから、難解な査定が増え始めて……。って、最初から気づいていたんですか!?」
「当たり前だろ。何のためにご意見番として雇ったと思っているんだ」
衝撃の真実が発覚するが……。思い返してみると、私はすでに納得する出来事を経験していた。
冒険者ギルドを退職した日、クレイン様の持ち込んだ偽造ポーションを、私は見抜くことに成功している。自分で作ったはずのクレイン様でもわからないと言っていたので、魔力路がわからないと判断できないんだろう。
実際にアリスに確認してもらっても、見事に普通のポーションだと騙されていたわけであって――。
「それならそうと教えてくださいよ。ご意見番ってなんだろう、ってずっと不思議に思っていたんですから」
「伝えたところで、ミーアが信じるかどうかは別の話だ。助手に誘った時点で伝えても、絶対に納得しなかっただろ」
「……はい」
妙に納得した私は、素直に認めてしまう。助手に誘われた時点で採用理由を聞いていたら、逆に不信感を抱いていたかもしれない。
「これはあくまで俺の推測だが……。リンゴの魔力に影響を与えない程度に自分の魔力を流し、内部魔力を認識しているんだろう。実際にミーアが錬金術や査定をする時に、そう言った傾向が見られる」
私、無意識にそんなすごいことをやっていたのか。自分のことなのに、まったく気づかなかった。
普通の人が魔力を確認しようとしたら、視界に映る範囲でしか魔力が判断できなかったなんて。
あっ! そういえば、ヴァネッサさんに破邪のネックレスをもらう時にも似たようなことを言われたっけ。
『やっぱりミーアちゃんには魔力の流れがわかるのね』
今まで私と関わってきて、ヴァネッサさんは気づいていたのかもしれない。彼女自身も『魔力の波長を感じる』と、錬金術ギルドに登録していた時に言っていた記憶がある。
オババ様も当然のように理解しているんだろうなー。いつも買い物する時、素材の魔力を判別するところをしっかり見られているから。
「単純な疑問なんですが、普通の人はどうやって付与しているんですか? 内部の魔力がわからないと、うまく制御できないですよね」
「それを可能にするためのスキルが【付与】です。付与領域を展開していると、細部の魔力を感じ取りやすくなりますから」
「……感じ取りやすく?」
「はい、正確にはわかりません」
「じゃあ、力の腕輪を再調整するときって……」
「基本的には、付与した魔力を引き剥がして、再付与します。付与領域を展開し続けなければ、修正箇所もわからないので、魔力量が多くないとできない仕事なんですよ」
「へ、へえ……。そ、そうなんですね」
「だから、僕よりも錬金術を長くできるミーアさんの方が――」
「それ以上は言わないでください! 私の方が魔力量が多い話を受け入れられるほど、心にゆとりがありません!」
次々に衝撃の真実を伝えられた私は、全力で現実逃避する。
まだまだ見習い錬金術師という責任の少ない立場であり、知識も乏しく、業界にも疎い。
クレイン様の下で働きながら、基礎的なスキルを覚えている最中で、これから楽しい錬金術人生が広がっていく――はずだったのに!!
宮廷錬金術師のクレイン様でもわからない魔力路が判断できて、力の腕輪を研究するリオンくんよりも魔力量が豊富で、魔装具に限りなく近いものを作るヴァネッサさんに想いを託されるなんて!!
こんなの!!!! 私の求めた平穏な錬金術生活では……ん? これって、逆にチャンスなのではないだろうか……?
一周まわって落ち着いた私は、自分が置かれている状況を冷静に判断する。
「もしかして、本当に魔装具が作れたり、します?」
「可能性はあるだろうな。面白いという理由だけで、オババが無理難題を押し付けるとは思えない」
「ヴァネッサ様のネックレスも同じです。魔装具が作れると思っていなければ、託さなかったはずですから」
つまり、ここで魔装具を作り上げたら、多大なる評価を得られることになる。怪力令嬢を目指すより、無理難題な縁談話から遠のくんじゃないだろうか。
だって、私のバックに国王様が付くんだから……!
「ちょっとオババ様の元に行ってきます!」
居ても立っても居られなくなった私は、工房を飛び出していく。
平穏な錬金術師の生活がいつまでも続くように願いながら。







