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【漫画3巻発売中】蔑まれた令嬢は、第二の人生で憧れの錬金術師の道を選ぶ ~夢を叶えた見習い錬金術師の第一歩~【Web版】  作者: あろえ
第一部

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第7話:宮廷錬金術師の助手

 冒険者ギルドの受付から宮廷錬金術師の助手に転職した私は、新しい職場となる王城に足を運んでいた。


「なにこれ。うわっ、すっご……」


 初めて宮廷錬金術師が働く施設を目の当たりにして、とても貴族令嬢とは思えない言葉遣いで驚いてしまう。


 思わず「あっ」という声と共に、手で口元を隠した。


 冒険者ギルドのみんなと打ち解けようと努力して、口調を崩すことを意識していたのだが……。今となっては、口調を崩す癖がついてしまい、意識しないと敬語で話せなくなっている。


 王城の敷地内で働く以上、貴族令嬢らしい姿を求められると思うので、昔みたいな敬語を中心とした話し方に戻さなければ。戻せる自信がないと思うあたり、相当やばい領域に踏み込んでいると思うけど。


 あっ『やばい』も平民言葉になるのか。うぐっ、言葉狩りがツラい。


 もっと気を付けて過ごさないと……と思う反面、規模の違う工房を目の当たりにすれば、呆気に取られるのも仕方がないと思ってしまう。


 それくらい宮廷錬金術師が過ごす施設は衝撃的だった。


 国内の優れた錬金術師の中から、たった十人しか選ばれない宮廷錬金術師には、一人ずつ工房が用意されている。平然とした表情で行き交う人々を見ても、いつも歩いている王都とは光景が違う。


 宮廷錬金術師に関わる助手や弟子さんが多いみたいで、エリートオーラを放っていた。


「場違い感がすごいなー。やばっ、周りの人たち、頭良さそう……」


 とても頭が悪そうな感想をこぼしてしまうが、今日から私もここで働く人間の一人だ。正式に通行許可も下りているし、不審者のようにキョロキョロするわけにはいかないので、堂々としていよう。


 ……いま『やばっ』を使っちゃったな。この言葉が使えないのは、本当にやばいわ。


 少し緊張しながら歩き進め、クレイン様の工房にたどり着くと、大きく深呼吸をした。


 そして、意を決してドアをノックすると、クレイン様が出迎えてくれる。


「おはよう。歓迎するよ、ミーア嬢」

「おはようございます。本日から、よろしくお願いします」

「ああ、よろしく頼む。ひとまず中に入ってくれ」


 あっさりと中に入れてもらった私は、見た目以上にしっかりとした工房に圧倒されてしまう。


「広いですねー……」

「宮廷錬金術師の仕事場だからな。国の支援があるし、その辺の工房よりは遥かに豪華な設備だぞ」

「噂には聞いていましたが、実際に目の当たりにすると違います。見たことのない機材もいっぱいありますね」


 クレイン様以外に誰もいないためか、妙にシーンッとしていて、高そうな機材ばかりに目がいく。


 研究に不自由のない設備と、潤沢な資金が提供されていると聞いていたが、まさかここまで違うとは。


「気持ちはわかる。俺も使ったことのない機材の方が多いくらいだ。錬金術師でも専門分野が違うと、なかなか使う機会がない」

「そういうものなんですね……。うわっ、知ってる機材も形状が違いますよ」


 錬金術の機材では一般的な『ろ過装置』でさえ、かなり豪華なことになっている。


 作業の正確さを求めた結果なんだろう。不純物を取り除くフィルターが三段階に分かれていた。


「最新型の設備を揃えている影響だな。基本的な構造は同じだが、使い勝手が僅かに変わる」

「慣れるまで大変そうですが、頑張って覚えたいと思います。せめて、雑用くらいは足を引っ張らないようにしなければ……!」

「そんなに張り切らなくてもいい。ミーア嬢には御意見番として居てもらいたいんだ。助手という立場でも、遠慮しないでくれ。何か違和感を覚えたら、すぐに教えてほしい」


 錬金術をかじった程度の私が『御意見番』と言われるとは。力になれるところが限られているだけに、変なプレッシャーを感じる。


「改めて言われると恐縮しますが、思ったことを口にするだけですよ。あまり期待はしないでください」

「問題ない。有益な意見ではなかったとしても、クビにするつもりはないんだ。冒険者ギルドにいたときと同じように、気軽にやってくれた方が俺も落ち着く」

「……クレイン様のメリットが薄いような気がするんですが」

「その程度でクビにするなら、最初から声をかけていないだろ。ポーションの出来映えを査定してもらうだけでも、俺にとっては有益な情報だ。ミーア嬢は普通に過ごしてくれたら、それでいい」


 元々の性格もあるのかもしれないが、クレイン様は必要以上に気遣ってくださっている。


 まずは環境に慣れる方が先決な気がするし、お言葉に甘えさせていただくとしよう。


 今日から私は、この工房で働く助手なんだから。


「では、まず私の呼び名を変えてください。助手を令嬢扱いするのは、違和感があります」

「言われてみれば、確かにそうだな。よし、これからはミーアと呼ぶとしよう」

「わかりました。それと、もう一つ。どう見ても工房に人がいないんですが、他の従業員の方はどこで仕事をされているんですか?」


 広々とした工房にもかかわらず、私とクレイン様以外に誰もいない。防音設備も整っているため、ずっとシーンッとしていて、とてつもないほどの違和感を放っていた。


「誰もいないぞ。ミーア以外に人は雇っていないし、他に雇う予定もない」

「私、何か変なことを言いましたかね。宮廷錬金術師の工房なら、普通は大勢の人が働いているはずですよね?」

「俺は少数精鋭派だ。何人もの錬金術師を雇うことを嫌う。人が多いと、かえって研究の邪魔になりかねないからな」


 言いたいことがわかるようでわからないのは、気のせいだろうか。


 私以外に人がいないのなら……。はて、少数精鋭とは?


「独りぼっちですよ」

「ちゃんと数えてみろ。二人だ」


 雇ったばかりの私を含められても困りますよ。孤高の天才とは、こういう人のことを言うんだろうか。


「唯一引き入れたメンバーが、どうして私なんですか。もっと実績のある人を雇わないと、周囲の反感を買いますよ」

「気にするな。実績なんて、後からいくらでもついてくる」

「御意見番の実績とは、いったい……」

「深く考えなくてもいい。とりあえず、うちの工房に人が少ない分、国に給料は高めで申請するつもりだ。契約の内容を確認してくれ」


 そう言ってクレイン様に契約書を渡してもらうと、驚くべき数字が記載されていた。


 冒険者ギルドの受付をしていた私は、普通の貴族令嬢より金銭感覚がまともだと自負している。


 それだけに、書類を持つ手が震えてしまう。


「給料の桁、間違えてません?」

「そんなことはないだろう。ボイトス家で助手をやっていたのなら、最低でもその半分はもらっていたはずだぞ」

「いえ、無給でしたよ」

「意外に冗談が好きなんだな。錬金術師の助手というのは、製作物に大きな影響を及ぼす。ボイトス家みたいに急成長していたら、普通は助手を手放さないようにと、給料を大幅に……」


 何か違和感を覚えたみたいで、クレイン様の言葉が途切れた。


 それもそのはず。何の未練もなく手放されているだけではなく、そもそも大事にされていないから、浮気されているのだ。


 ノー給料、休日出勤の過剰労働である。


「闇が深すぎないか? 完全にブラックだぞ」

「私に聞かないでくださいよ。元々は婚約者で身内になる予定でしたし、文句を言える立場ではなかったので」

「話を聞くのが怖くなってきた。とりあえず、契約書に問題があったら何でも言ってくれ。不満があれば、交渉してもらっても構わない」

「逆にホワイトすぎて怖いですね……」

「普通の権利だ」


 昇給やボーナスというのは喜んで受け取るが、さすがに基本給の桁が違うのは怖い。国と契約を結ぶ形になるので、安全性は高いと思われるものの、ついつい二の足を踏んでしまう。


「詳しい契約内容について、いくつか聞いてもよろしいですか?」

「構わない。俺の方で判断できなければ、法務部に問い合わせよう」


 おいしい話に疑い深くなった私は、色々とクレイン様に質問した後、契約書にサインするのだった。

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