第66話:調査依頼5
リオンくんと一緒に全力で走り、霧を抜けると、クレイン様と騎士の方々が集まっていた。
どうしよう。思っている以上に大きな騒ぎに発展している。増援を呼んでくれたみたいで、明らかに騎士の数が増えていた。
お父様の姿まで見えるから、後で怒られるかもしれないが……。今は無事に戻ってこられたことを喜ぼう。
気づいてくれたクレイン様が駆け寄ってくる中、走り疲れた私とリオンくんは地面に座り込む。
「ミーア! リオン! 無事だったか」
「ハアハア。何とかリオンくんのおかげで助かりました」
「ハアハア。結界石を持ってきてよかったです」
異常事態だと察した騎士たちは、周囲の安全を確保するため、散り散りになって警戒する。
私は張り詰めた空気を肌で感じながらも、心強い騎士たちの背中と慣れ親しんだ父やクレイン様の顔を見て、安堵していた。
「いったい何があったんだ。あれから一時間も経っているぞ」
……い、一時間!? せいぜい十分程度では? と思い、リオンくんの顔色をうかがう。
同じように驚いているので、霧の中と外では時間の流れが違うものだと悟った。
「何から話せばいいのかわかりませんが……。結論だけ言ってしまうと、霧の中に魔法陣があって、そこから瘴気が出ていました」
「瘴気を生み出す魔法陣、だと?」
驚くクレイン様とは違い、お父様は無言で目を細めて険しい顔をした。
両者のまったく違う反応が気になりつつも、私は報告を継続する。
「魔法陣を中心に霧も瘴気も濃くなっていたみたいです。挙げ句の果てには、その瘴気が魔物の形を取り始めて……」
「それでリオンが結界石を使ってくれた、というわけか」
「危機一髪でしたね。調査せずに逃げようと話していた矢先の出来事でしたから」
本当はまだまだ言いたいことはある。ただ、この場所で報告を続ける方が危険だと思った。
その証拠に、周囲を警戒していた騎士たちがざわつき始める。
「魔物が瘴気を発するんじゃなかったのか?」
「そんなこと知らねえよ。魔物の生態はまだ解明されていないはずだぞ」
「でも、この霧は普通じゃなさそうだからな」
地質調査でリオンくんが魔力に異変を感じていたし、この霧に破邪のネックレスも反応していた。精神面や時間に干渉するとなると、明らかにただ事ではない。
そんな魔法陣が自然に発生したとは、考えにくいわけであって……。
現場の騎士に動揺が走る中、お父様が大きな咳払いをして、注目を集める。
「騎士団はただちに部隊を組み、霧の中を調査しろ。身の危険を感じた場合、迷わず安全圏まで退避して構わん」
「はっ!」
我が父ながら、鬼教官と呼ばれているだけのことはある。指示を出した瞬間、騎士の顔付きが変わり、周囲に散っていった。
一方、そんな騎士とは違い、クレイン様は顎に手を当てて何かを考えている。
「瘴気を生み出す魔法陣……か。この霧がそれを隠すためのものだと考慮したら、騎士団が見つけられるとは思えないが」
まだすべての出来事を報告していないのに、そんなことまで考えられるとは。私は魔法陣を見つけた時点で、すぐに戻ってくるべきだったと反省した。
「実は、他にもまだ話したいことが――」
「騎士団が見つけられなかった、という結果が必要なのです」
報告の続きをしようと思った瞬間、お父様に不穏な言葉で遮られてしまう。
何かを隠しているのは明白で、すでに見当がついているみたいだった。
「この件は、おそらく娘の勘違いだと処理されるでしょう」
お父様が何を言いたいのかわからず、私はリオンくんの方に顔を向ける。すると、僕も魔法陣を見ていますけど……と言いたげにキョロキョロと目を動かしていた。
しかし、クレイン様は納得したみたいで、大きく頷いている。
「踏み込んではならない裏の理由がある、ということか。ホープリル子爵が現場に戻ってきたのも、そういう理由だったのだろう」
「察しが早くて助かります。しかし、確証があったわけではございません。すべては国王陛下の御心のままに」
これが大人の話し合いというやつだろうか。国王様の名を出されたら、不用意に突っ込むわけにもいかなくなってしまう。
クレイン様は物怖じせず、神妙な面持ちでお父様と見つめ合っているが。
「こちらも国王陛下の勅命を受けている以上、結果が求められる。このまま引き下がるわけにはいかない」
まさかのオウム返しをカウンターで決められ、さすがのお父様も渋い顔をした。
そして、諦めるように溜め息を吐く。
「大きな声では言えませんが、過去の遺物かもしれません」
お父様の言葉に、私たちは互いに顔を見つめ合う。しかし、誰も知らないみたいで、キョトンッとしている。
「過去の遺物? 聞いたことがないな」
「戦時中でも滅多に見られるものではありませんでした。宮廷錬金術師とはいえ、若いクレイン殿が知らなくても当然のことでしょうが……今後はそうもいかないかもしれません」
「今回の事件は序の口にすぎない、と言うことか。いったい何を隠している」
「これ以上のことを口にするのは、禁じられておりますゆえに」
どうやら国王様の許可が下りない限り伝えられないみたいで、肝心なことを教えてくれないお父様は、口を固く閉ざしてしまった。
魔物の繁殖騒動の問題も解決できていないが、これ以上の話し合いはできそうにない。
調査依頼は十分な成果があったと言えるし、私たちの役目はこれで終わり……になればいいなー……。
「国王陛下に直接聞くしかないようだな。至急王都に帰る必要ができた。騎士団で部隊を編成してくれ」
「……御意」
何やら大きな出来事に巻き込まれようとしている、そう思わずにはいられなかった。







