第60話:見習い錬金術師とは?
国王様の依頼をこなすため、浄化ポーションを作成する慌ただしい日々が過ぎていった。
私がリオンくんと一緒に聖水を作り、クレイン様が浄化ポーションを調合する。それを繰り返していただけなのだが、徐々に歯車が噛み合わなくなり、工房内は混乱していった。
調合作業の下準備が遅れたり、日の光を吸収した聖水が変質したり、付与と調合の領域展開を間違えたり。
普段作らないポーションの作成ということで、予期せぬことが次々と起こり、終始ドタバタしてばかり。
それでも、何とかみんなで力を合わせて作り上げると、工房内にズラリッと浄化ポーションが並ぶ。
これを現地に持ち込む必要があるため、まだ積み荷作業が残っているのだが――。
「ふあ~……ようやく終わった……」
「はあ~……ようやく終わった……」
ひとまず、無事に浄化ポーションの作成が終わったことを喜ぶとしよう。少なくとも、私とリオンくんは床に座り込むほど体力が尽きていた。
一方、クレイン様は疲れた様子を見せない。まだまだ余裕がありそうな雰囲気で、浄化ポーションを手に取っている。
「ご苦労だったな。後は俺が最終チェックをして、出発の準備を済ませる。今日はゆっくり休んでくれ」
「はーい……」
「はーい……」
本来なら、それは助手の仕事なので私がやります、と言いたいところだが、今回ばかりはクレイン様にお願いしよう。今の状態で仕事をすれば、ミスを連発しかねない。
やっぱり宮廷錬金術師は違うなー……と思う反面、こんなことをいつも一人でやっていたのかと、疑問を抱いてしまう。
回復ポーションよりも手間がかかるし、下準備から積み荷までやろうとすれば、かなり疲労が蓄積する。
そんな状態のまま調査依頼をこなすなら、過剰労働としか言いようがない。錬金術が大好きな私でも、さすがにやりたくないと思ってしまった。
しかし、クレイン様は違う。逆に生き生きとしていて、上機嫌でポーションの最終チェックを行なっている。
今まで難題の依頼を独りでこなしてきた分、工房の総力を挙げてやり遂げられたことに、大きな充実感を覚えているのかもしれない。誰かと錬金術をする喜びを噛み締めているんだろう。
まあ、総力を挙げたといっても、たった三人しかいないが。
そのうちの一人、臨時メンバーのリオンくんは、口がポカンッと開いてしまうほど疲れ果てていた。
「クレイン様の工房は、いつもこんなに忙しいんですか?」
「普段は私が錬金術を教わるくらい時間にゆとりがありますね。今回は作業量が多かったので、忙しかっただけだと思います」
「そういう問題じゃない気がします。この工房は圧倒的に人手不足ですよ。ここまで順調に作業が進んだのは、奇跡としか言いようがありません」
広い工房にポツンッと三人しかいないので、リオンくんの言いたいことはよくわかる。
「わかります。助手が見習い錬金術師の私しかいないのに、即戦力扱いしてくるんですよ。絶対におかしいですよね」
この問題の根底には、私を見習い扱いしないクレイン様の間違った考えにある。どう考えてもそこがおかしいと、誰もが理解するだろう。
そうですよね? リオンくん!!
「わかってないと思いますが、ついていけてるミーアさんが一番おかしいんですよ。僕の五倍くらい働いてましたからね」
予想外の答えが返ってきて、まさかのカウンターを決められてしまう。
何の冗談なのか……と思うものの、リオンくんのジト目が嘘ではないと物語っていた。
「な、何を言っているんですか。私はまだまだ見習い錬金術師であって……」
「浄化ポーションはBランクに該当します。普通の見習い錬金術師であれば、絶対に作れませんよ」
衝撃の真実を聞かされ、浄化ポーションの最終チェックを行なうクレイン様をチラッと確認すると――、
「言われているぞ、見習い錬金術師」
などと言われる始末である。これでは、私の方がおかしいということに……。
えっ? 私がおかしいのかな?
「ちなみに、リオンくんが調合作業に手こずっていた、なーんてオチはないんですか?」
「三年ぶりに調合しましたけど、特に違和感はありませんでした。僕が専門分野の付与作業をメインにこなしていたにもかかわらず、ミーアさんの方が仕事をしているのは、明らかに変だと思います」
「またまたー。そんな冗談を言わなくても大丈夫ですよ」
「僕は一般的な感覚を持つ錬金術師だと自負しています。絶対にミーアさんがおかしいですよ」
やだなー、もう。まるで私が普通の錬金術師じゃないみたいな言い方じゃないですか。
いや、そう言われているんだけど。
どこまで本当の話なのかわからないが、宮廷錬金術師の助手として過ごすリオンくんの五倍も働いていたとなると、その言い分に納得せざるを得ない。
思い返せば、初めて作る浄化ポーションに興奮していて、時間を忘れて残業したこともあった。ドタバタしていながらも、必要以上に張り切っていた記憶もある。
だから、リオンくんの言い分はあながち間違いではないと、私は理解してしまった。
「どうりで疲れていると思ったんですよ」
「作業の途中で疑問を抱いてください。僕からの視点だと、宮廷錬金術師が二人いるような感覚でしたよ」
「でも、元々クレイン様は調合に厳しいんです。ポーションの取引だって、いつも百本単位で……」
この日、ポーション取引内容をリオン君に伝えたら、さらに白い目で見られてしまった。
話せば話すほど逆効果だと気づいた私は、思っている以上に働いていることを自覚するのであった。







