第56話:付与スキル4
付与スキルの練習を始めて三日後。随分と上達した私は、懸命に付与領域を展開していた。
「ミーアさん、頑張ってください。もう少しゆっくりと魔力を引き剝がす感じです」
身分の差を感じさせないほど打ち解けた、リオンくんと共に。
本来なら、正式な工房メンバーではないリオンくんと、もう少し距離を置くべきかもしれない。宮廷錬金術師同士でいがみ合っている以上、何が起こるかわからないから。
ただ、付与スキルを身に付けたい私よりも真剣に取り組み、付きっきりで教えてくれる姿を見ると、自然と心が通じ合うものがあった。
元々クレイン様と知り合いであり、平民とは思えないほど言葉遣いがしっかりしていて、親近感が湧きやすい影響もあるだろう。
そして、何より――。
「あわわわっ! もっと慎重に……!」
意外にもムードメーカーである。広々とした工房にリオンくんの慌ただしい声がこだまして、とても賑やかな雰囲気になっていた。
「……ふっ」
なんと言っても、クレイン様の笑顔が絶えない。随分と機嫌が良さそうなので、この状況を心から楽しんでいるように見えた。
そんなクレイン様は、すでに浄化ポーションの作成に取り掛かっている。シラハス草を乾燥させたり、ホリの実を砕いたりして、準備万端の状態だ。
後は聖水が用意できれば、浄化ポーションの調合作業に取り組める。それだけに、私は自分が足を引っ張っていると自覚していた。
「付与を施すためには、魔力だけを抽出するイメージが大事ですね」
でも、それもここまで。付与領域の展開はかなり安定していて、素材から魔力だけを抽出するコツをつかみ始めている。
「素材の表面から魔力をフワッと持ち上げるような感じで……」
「そうです。フワッと」
もっと優しく魔力を押し出すようにして――あっ! キタ! こ、この感覚は……!
錬金反応が、やってくる―――!
「お、おおお、うおおおおおおおおおおおお!」
「そ、そう! そんな感じですよおおおおお!」
宮廷錬金術師の工房に相応しくない私たちの魂の叫びが、こだまする!
「で、できたー!」
「で、できたー!」
キラキラと輝く聖水の生成に成功して、付与スキルに成功した喜びを実感する。
たった三日とはいえ、付きっきりで教えてもらい、初めて付与できたのだから、嬉しくて堪らない。
リオンくんも自分事のように喜んでくれているので、余計に心に来るものがあった。
「やりましたね、リオンくん」
「やりましたね、ミーアさん」
もはや、一大プロジェクトを成し遂げたみたいな雰囲気だが、本番はまだまだこれから。あくまで聖水の生成は、浄化ポーションを作るための過程にすぎない。
今までずっと待ってくれていたクレイン様を見れば、そのことがよくわかるだろう。
「思った以上に早く付与スキルを習得できたな。二人で頑張った結果だろう」
「リオンくんが懸命に教えてくださいましたからね」
「いえいえ、ミーアさんが頑張った結果ですよ」
なんだかんだでリオンくんは褒め上手なので、互いに軽く称え合っていただけなのだが……? 何やらクレイン様の様子がおかしい。
妙に口元が緩んで、必死に笑いを堪えているみたいだった。
「一つだけ誤算があるとすれば、二人が似た者同士だったということだ。気がつけば、キャラが被り始めているぞ」
「えっ? そうですか?」
「えっ? そうですか?」
ハッ! と気づいた頃には、もう遅い。同じ時間を過ごした結果、まさかリアクションでシンクロするまで打ち解けるなんて、夢にも思わなかった。
今日までクレイン様の笑顔が絶えなかったのは、徐々に似ていく私たちが面白くて仕方がなかったのかもしれない。
そんな私たちが顔を合わせる姿を見て、またクレイン様がクスクスと笑い始めてしまう。
真剣に取り組んでいた結果なんだから、そこまで笑わなくてもいいのに。
リオンくんと一緒に二人でムスッとしていると、コホンッと咳払いをして、心を落ち着かせていた。
「よし、このまま作業を分担しよう。ミーアとリオンで聖水を作り続けてくれ」
「僕も聖水を作っていいんですか?」
「構わない。あくまで国王陛下の依頼であることを考慮すると、時間を優先したいからな」
「わかりました」
クレイン様の指示を受けたリオンくんは、テキパキと動いて、大量の聖なる魔石を机にドッサリと持ってきてくれる。
重い魔石を軽々しく持つ姿を見て、私の視線は一点に集中した。
「力の腕輪、便利そうですね」
騎士団で試作会が行なわれるほどの錬金アイテム、力の腕輪。魔装具のレベルまで到達していなくても、十分に実用的な品に思える。
「まだまだ魔力消費が高すぎるので、調整が必要ですけどね」
「そうなんですねー……。あの、一度でいいので、貸してもらうことはできますか……?」
「大丈夫ですよ」
勇気を振り絞って尋ねてみたら、案外すんなりと許可が下りたので、リオンくんから力の腕輪を受け取り、装着する。
いざ魔力を流してみると、信じられないほどの力がみなぎってくる……!
それはもう、今なら工房の壁をパンチで破壊できるかもしれない、と思うほどに!
「すごいですね。力の強い魔物になった気分です!」
「あわわわっ、魔力の使い過ぎですよ。魔力を消耗しすぎると、付与作業に支障が出るので、気を付けてくださいね」
アタフタするリオンくんの言う通り、魔力抵抗がすごすぎて、制御するには多量の魔力が必要になる。
力を得る代償と言えばカッコイイかもしれないが、お世辞にも実用的とはまだまだ言いにくかった。
それでも、付与された錬金アイテムには夢がある。体内の魔力を消費するだけで、多大なる恩恵を受けられるのだから。
やはり、力こそパワー。怪力令嬢となり、筋肉で縁談話をぶち壊すしかない……!
「付与スキルっていいですね。ヴァネッサさんのネックレスをいただいた時とは、また違う感動があります」
「比較されても困りますが……。ミーアさんが身に付けていたのは、やっぱりヴァネッサ様のネックレスだったんですね……」
「はい。魔物の繫殖騒動の報酬としていただい……ん? ヴァネッサ、様?」
猛烈な違和感に襲われた私は、リオンくんの顔を見つめる。
その表情は、ちょっぴり寂しそうだった。
「僕に錬金術を教えてくれた師なんですよね、ヴァネッサ様」







