第55話:付与スキル3
リオンくんに付与を見せてもらった私は、気合いがみなぎっている。
すぐに出番がやってくると察したからだ。
「基本的な領域展開はできるはずなので、実践的な訓練をやっていきましょう。素材同士をリンクさせ、魔石から魔力だけを移動させるイメージで、付与領域を展開してください」
「わかりました。やってみます!」
早速、聖水の生成にチャレンジするため、魔力水に聖なる魔石を浸した。
そして、リオンくんに言われた通り、調合領域を展開するみたいに素材同士をリンクさせて……。
「あぁー! ミーア様! それだと調合領域が展開されています!」
「えっ? じゃあ、どういう感じでやれば……」
「もっと付与を意識してください。調合の意識が強すぎます」
アタフタするリオンくんが指示を出してくれるものの、意外に難しい。二つのものを一つにする、という意味では、調合も付与も同じなのだ。
唯一違うのは、素材を丸ごと合わせる調合に対して、付与は素材の魔力だけを合わせること。
頭ではわかっていても、これがどうしてもうまくイメージできなくて――。
「いったん止めてください。このままだと調合されてしまいます」
リオンくんに止められ、領域展開を中断する。ちょっぴり聖なる魔石が欠けているので、魔力水に調合されてしまったんだろう。
「思っていた以上に難しいですね」
「調合作業の経験が多いほど、イメージできないみたいです。逆はそうでもないんですけど」
どうりでクレイン様が苦手と言っていたわけだ。
「ちなみに、このまま聖なる魔石と魔力水を調合したら、どうなるんですか?」
「異物混入型の聖水が生成されます。錬金術の素材としては、劣悪なものに分類されますね」
やっぱり違うものが生まれてしまうのか。魔装具の道のりは、まだまだ遠いものだと痛感する。
でも、このまま諦めるわけにはいかない。
「付与するための心得とかってあります?」
「そうですね。魔力は繊細なものなので、フワッと移動させるイメージです」
「フ、フワッ?」
「はい、フワッと。魔力を優しく包み込んで、ゆっくりと引き剥がすんです」
うーん、素材の表面から魔力を抽出するような感じなのかな。それだと聖なる魔石の表面が削れそうな気がするけど……。
「わかりました。やってみます」
リオンくんに教えてもらったことを踏まえて、フワッとした感じで領域展開すると――?
「あわわわっ。それだと魔力をガリッと削ってしまいます」
やっぱりイメージが悪いみたいで、聖なる魔石の表面を削ってしまった。
「フワッとやっているつもりなんですが」
「もっとフワッとするんです。ふんわりしたパンケーキのように!」
そんなこと言われても……と苦戦していると、眺めていたクレイン様がクスクスと笑う姿が視界に入った。
思わず、領域展開を中断して、リオンくんと一緒に冷たい視線を送る。
「笑わないでください。こっちは見習い錬金術師なんですよ?」
「そうですよ。僕も人に教えるのは初めてなんですからね」
「悪いな。そういう掛け合いは、宮廷錬金術師の工房ではなかなか見られない光景だ。どこか懐かしくて、つい笑ってしまった」
本来、宮廷錬金術師の助手は優れた人しか選ばれないから、クレイン様の言いたいこともわかる。
基礎的なスキルを身に付けているのは大前提であり、もっと難しいことを教えてもらったり、研究したりする場所なのだ。
私が特殊なケースだと思う反面、こういうところは見習い錬金術師らしいとも思う。
ただ、無邪気に笑うクレイン様の方が珍しいような……。
「クレイン様にも、こういう時代があったんですか?」
「……。聖水以外の準備は俺がやっておこう。リオンにしっかりと教わるといい」
「いま、変な間がありましたよ! まさか本当にあったんですか!?」
「答える必要はない。付与スキルに集中して、聖水を生成してくれ」
慌ただしく動き始めたクレイン様は、再び騎士団の報告書に目を通し始める。
わざわざ背を向けてくるあたり、聞く耳を持たないような状態だった。
「うぐっ……気になりますね。リオンくんは何か知りませんか?」
「たぶん、僕が出会う前の話かと。難しい顔をしながら付与スキルを使うところしか見たことがありません」
クレイン様でも黒歴史があるのかもしれない、と思いつつ、私は付与スキルの練習に戻る。
いつかその頃の話を聞いてみたい、と思いながら。







