第54話:付与スキル2
リオンくんに付与のやり方を教えてもらえることになり、私は胸を膨らませている。
調合や形成とは違うスキルを身に付け、錬金術の新たな世界が開こうとしているのだ!
「始める前に確認したいんですが、ミーア様は付与を使ったことがないんですよね」
「はい、まだまだ見習い錬金術師ですからね。調合を使い始めたのも、クレイン様の下で仕事をするようになってからです」
「本当に始められたばかりなんですね。それなのにオババ様に認められて、大きな功績を上げるなんて……。ミーアさん、すごいですよ!」
……そ、そう? リオンくんは褒め上手だな。ただの子爵令嬢をおだてても、なんの得もしないのに。
なーんて気分を良くしている私の隣で、クレイン様はとても難しそうな顔をしている。
「リオン。ミーアの言葉を信じるな。俺は見習い錬金術師として扱っていないぞ」
「変にハードルを上げるのはやめてください、もう。……いや、見習い錬金術師として扱ってくださいよ」
「もう少し見習いっぽいことをやってから言ってくれ。たった一ヶ月程度で調合と形成を覚えて、今度は付与を覚えようとしているんだぞ。そんな見習い錬金術師は、ミーア以外に存在しない」
クレイン様にハッキリと否定されると、さすがに返す言葉が見つからない。
「それはそれ、これはこれです。偶然そういうイベントが重なっただけですよ」
よって、私は適当に誤魔化した。クレイン様に冷たい視線を向けられているので、誤魔化しきれていないと察するが。
その光景がおかしかったのか、リオンくんにクスクスと笑われてしまう。
「二人はとても仲が良いですね。クレイン様が女性と親しくされている姿を見るのは、久しぶりな気がします」
リオンくんの言葉を聞いて、記憶を探ってみるが、確かにクレイン様は女っ気がなかった。結婚も考えていないと言っていたし、貴族女性を相手にするのが苦手なのかもしれない。
つまり、冒険者ギルドの受付で働いていた時から、私は貴族令嬢として扱われていたわけではなく、錬金術仲間という扱いになっていたと推測する。
キリッと表情を引き締めたアリスが『両者ともに脈ありとみたね』と言っていたけど、現実にそんなことはあり得ない。
私たちは、男女の壁を壊すほどの共通点、錬金術の虜になっているだけなのだ。
「俺は貴族の面倒な人付き合いに辟易しているだけだ。下手に交流関係を増やすと、錬金術の時間が奪われる」
やっぱり! 工房内に男女二人でいても変な空気にならない理由が、ここにある!
この工房には、錬金術バカが二人もいたのだから!
「クレイン様とは付き合いが長いですし、今では師弟関係です。良い距離感で過ごしていますよ」
師弟っぽい雰囲気など数えるほどしかないがな……と言いたげなクレイン様の冷たい視線を感じる。
私はそれに対抗して、もっと色々教えてください、と言わんばかりに目を細めておいた。
錬金術バカに相応しいアイコンタクトである。
そんなことをしている間に、付与を教えてくれるリオンくんが聖なる魔石を一つ手に取った。
「とりあえず、一度見本を見せましょうか。あまり時間もありませんし」
ついに付与スキルを教えてもらえることになり、私の目はギラギラと輝き始める。
今回はリオンくんを師として、しっかり付与スキルを学ばせてもらおう。
「聖水を作るには、魔力水に聖なる魔石の力を移す必要があります。そういった素材から魔法の力を移すスキルを付与と呼んでいます」
聖なる魔石を魔力水に浸したリオンくんは、片手をかざして付与領域を展開。見る見るうちに聖なる魔石の魔力だけが溶け込み、光を反射するほど澄んだ魔力水『聖水』が生成された。
「うぉぉぉぉぉー! これが付与ですか……!」
「は、はい。そこまで驚かれると、恐縮ですが」
あっ、すいません。さらに貴族令嬢らしさが遠のいてしまいましたね。うっかりしていました。
こういうところが平民っぽいんだろうなーと思いつつも、私は頭の中で錬金術のことばかり考えている。
実際に付与領域の展開を目の当たりにすると、疑問に思うところがあったから。
「なんだか調合領域の展開と似ていませんでしたか?」
「僕も詳しいことはわかりませんが、基本的に領域展開はどれも同じらしいですよ。魔力の流れ方や波長、術者に込められた想いなどによって変わるみたいです」
「そうなんですね。形成を身に付けた時には、全然気づきませんでした」
「できることが増えてきたからこそ気づく、って感じでしょうか。比較するものが身についていないと、わからないこともありますので」
なるほど。だからクレイン様も形成の熟練度を上げた方がいい、と言っていたのか。感覚がゴチャゴチャになると、せっかく習得したスキルを失いかねないから。
そういうところは師匠っぽいなー……と、改めてクレイン様は私の師匠であると、再認識するのであった。
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